声優ラジオのウラオモテ #01 夕陽とやすみは隠しきれない?

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 朝の通学路。由美子ゆみこはカーディガンのポケットに手を突っ込み、のんびり歩いていた。
 信号が赤になったのを確認してから、スマホを取り出す。
「メールは……、来てないよねぇ……」
 仕事の連絡はなく、自然とため息が漏れた。
 オーディションに合格すれば事務所から連絡が来るため、何度もスマホの確認をしてしまう。けれどここ最近、さっぱり受からない。
「やー……、この前のは自信があったんだけどなぁ」
 虚しく呟き、青信号になったので歩き出す。その瞬間である。
「ひゃうっ!?」
 後ろから突然抱き着かれ、変な声が飛び出した。
「おっはよぉーん」という緩い声が聞こえ、身体から力が抜けていく。
「……おはよ。若菜わかな、あんた朝から元気ね」
 挨拶を返すと、若菜はにへへと笑った。
 川岸かわぎし若菜わかな。彼女とは高校からの友人だが、妙に馬が合う。
 彼女のスカートは由美子と同じくらい短く、メイクもしっかり乗っている。手入れが行き届いている長い髪は、今日も綺麗だ。
 手にはスタバのカップ。それをこくり、と飲んでから、こちらを覗き込んでくる。
「どしたん、由美子。今日、なんか元気ないね」
 どきりとする。顔には出ていないと思ったが、若菜にはお見通しだったらしい。
 聞いてもらいたい。相談に乗ってもらいたい。きっと話せば楽になる。
「うん、まぁちょっとね」
 そうは思いつつもごまかした。
 若菜はふうん? と言うだけで深くは聞いてこない。
 彼女は表情をパッと明るくさせ、腕を組んできた。口元にずい、とカップが差し出される。
「まぁまぁ。じゃあこれを飲みなさいな」
 蓋を開けると、キャラメルソースのかかったクリームが見えた。下はホットのカフェラテ。
 遠慮なく口に含む。ふわっとした甘みが口の中で溶けて、幸せな気持ちになった。
「ん。おいしい。ありがと、若菜」
「いやいや。こういうときは甘いものが一番ですからな」
 若菜はおどけて笑う。そんな彼女に笑みを返しつつ、内心で謝った。
 自分が声優であることは、家族と学校以外には話していない。マネージャーから「絶対に口外しないこと」と言われている。芸能活動の許可を得るために学校には話す必要があったが、念を押して口止めした。周りにバレるわけにはいかない。
 ただ。
「ん? どしたん」
 由美子の視線に気付くと、若菜が首を傾げた。
 こちらの事情をすべて話したとしても、きっと彼女なら秘密を守ってくれる。
 けれど、それで楽になるのは自分だけだ。
 彼女には余計な負担を強いてしまう。それは望むことではなかった。
 由美子は手をひらひらさせると、ゆっくりと答える。
「いや。若菜は今日もかわいいなって思っただけ」
「え、ほんと? いやぁ、わたしも同じこと思ってた」
 からから笑う若菜を見て、由美子もつられて笑みをこぼした。