桃源郷伝説―― 津陽県(しんようけん)に浮塊有り。其(そ)の大なること嵩山(すうざん)の若し。下民曰はく、「孰(たれ)か浮塊を知らざらん。芳草鮮美、落英繽紛、古者(いにしえ)に〝桃花源〟を云ふは此れなり。故に以爲(おも)へらく、人、自ら之(ゆ)くこと能(あた)はず。須(すべか)らく天颶の下るを待つべし。天颶は人を攫搏(かくはく)して浮塊に飛ぶ。」と。攫搏せらるる者、何ぞ帰らざる。則ち浮塊、安逸の境地なればなり。(『武佐斯風土記』巻十七・桃源郷)