一章/無欲ならざる古仙
寇魔との戦いに敗れた青年・神津彩紀は、自らの精神と肉体を仙界に封じた。勝利の可能性をはるか遠い未来に託したのである。だが――十年経っても二十年経っても、さらには百年の歳月が流れても、彩紀の封印が解かれることはなかった。
封印を解くべき資格を持つ者が現れなかったからである。
いつしか彩紀は考えるのをやめた。仙界のイデアと化し夢幻の日月に揺蕩いながら、無意識のうちに現世へ舞い戻ることを諦めていた。しかし、千年経ってようやく禁断の封印が解かれることになる。封印を解いた者の名は熾天寺かがり。炎の気質を持つ妖狐の少女だ。
神津彩紀は千年ぶりに覚醒する。
彼が見たものは、おぞましいほど美しい東洋の原風景だった。
