「ついにギルドの精鋭パーティーが地下遺跡のボス討伐に乗り出したぞ!」
「攻略に王手か……!」
「暴刃のガンズに斬れねえものなんてねえ!」
彼らの言葉をひとしきり満足そうに聞いてから、ガンズはのけぞるように胸を張った。その甲冑には、二対の剣が交差した紋章がきらりと光る。冒険者の中でも選りすぐりの強者が集められた精鋭パーティー、《白銀の剣》の証だ。
「どうやらだいぶ期待されてしまっているようだな。まあ攻略が長引いているダンジョンだ。我ら白銀に頼るのも、仕方あるまい」
「ええそうですね」
適当に聞き流しながら、アリナは手早くクエスト受注書を用意した。同時に、ガンズには聞こえない小さな声で、思わずぼそりとつぶやきが漏れる。
「遅いんだよ攻略するのが──!」
「?」
「いえ、何でもないです。では、四人一組での参加なら二級、単独での参加なら一級のライセンスカードが必要です。ご提示と受注書へのサインをお願いします」
お決まりの定型文を早口言葉のように吐き出しながら、クエスト受注書を突き出す。さっさと書き込んでほしいところだが、しかしガンズは鉄兜の向こうでふん、と自慢げに鼻をならしてなかなか羽根ペンを持とうとしない。
「俺は《白銀の剣》だぞ。受付嬢をやっているならば、俺の階級など、わざわざライセンスを確認せずともわかるだろう?」
うるせええええッ
「もちろん存じております。しかし、いかなる階級であろうと、冒険者様は常に危険と隣り合わせであることに変わりません──」
ぐっとこらえ、かろうじて笑顔を取り繕う。
「──いたずらにその命を危険にさらすことのないよう、受注されたダンジョンに適しているかどうか確認することも受付嬢の仕事なのです。ライセンスの提示は、冒険者様の命を守るためでございます」
ガンズの等級は当然知っている。遺物武器のバトルアックスが、彼の正体を物語っていた。
かつてこの大陸で栄え、一夜で滅んだと言われる〝先人〟たちが造り遺していった〝遺物〟の一つ、遺物武器。先人たちの持つ高い技術によって造られた遺物武器は、攻撃力や耐久力、その強度において現状のどの武器にも勝る。
ガンズはその遺物武器を使い、暴刃の名の通り荒々しい斬撃でこれまでいくつものボスを屠ってきた、《白銀の剣》の優秀な前衛役。冒険者ライセンスは二級。
だが規定ではライセンスの提示がないものにクエストを受注させることはできない。
「……そうか、ならば」
アリナの懇切丁寧な説明にもガンズはやや不満げな様子で、彼は鉄兜を脱いでごとんとカウンターに置いた。現れたのは、濃い顎髭を蓄えた彫りの深い顔立ちの男。
「これでどうだ?」
「ライセンスをご提示ください」
「……。俺はガン」
「ライセンスをご提示ください」
「……」
「ライセンスをご提示ください」
ダメ押しの三度目で、ようやくガンズが諦めたようにライセンスを取り出した。精鋭だろうが暴刃だろうが知ったことではない。アリナは、受注を待つ多くの冒険者をさばききらなければならないのだ。
「……ふん、新人か……まあ仕方あるまい」
カウンターに置かれた銀のライセンスカードにアリナはちらりと視線を走らせ、
「ご提示ありがとうございます。ではパーティーで二層まで。こちらの内容でよろしければ受注書にサインをご記入ください」
有無を言わせず羽根ペンと受注書をガンズに押しつける。ガンズは渋々といった様子で受注書に書き込んでいった。
「それではいってらっしゃいませ!」
書き終わった受注書を受け取り、貼り付けた営業スマイルをガンズに見せるや、アリナは受注書を脇の箱の中に放り入れた。本当はまだ処理が残っているが、後ろの長蛇の列を見る限りそんなことをしている暇はない。
「お待たせしました、次の方!」