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【mobile temp】ある少年に関する報告【file 09】
フライシュッツより出力。
状況に対し計算不能な項目を観測。同日031429、天津エリカ・アユミ姉妹が天津サトリの救援に入る点が、三三億六〇〇〇万回再計算しても間に合わせられないとの結論が出てしまう。
自機フライシュッツと敵機マクスウェルのスペックの優劣についてはわざわざ論じるまでもない。そもそも03以降の終盤戦において天津サトリはサイバー攻撃による情報流出を懸念して、シミュレータからの補助を遮断した状態にあった。あの状況で、自機フライシュッツの演算予測を裏切る展開を構成できるとはとても思えない。
なら、この結果は何だ?
天津サトリ。
彼はチェスや将棋のAI対局で稀に見られる、封じ込め式演算フローチャートでは対処不能な才能を持つ人物、という事なのか。
あるいは。
それでも説明がつかないのか。
シミュレータを使った優位性とは、つまりパズルの組み立てだ。目の前にある無数のピースを判別し、最適な並び替えを最速で導き出す事により、見た目は有利に状況を進めていく。計算量が膨大になるため人の頭では不可能を可能にしているように見えるかもしれないが、これはパスワード認証に対する総当たり攻撃と同じ。その気になれば全地球気象情報も暗算で導き出せるものでしかない。
つまり、ありものを並べ替えた有限のメリットなのだ。
あれは、違うような気がする。
あの時、あの場所に……あんなパズルのピースは存在しなかった。決着の一瞬前、データ上で巻き戻して計測可能な直前一秒間を一〇〇億分の一まで細分化しても見つからない。よってこれ以上の再計算は無意味と判断する。
世界は流動的に見えて、実際には無数の細かい分岐によって成り立っている。ビーズクッションの中身が硬いプラスチックの塊であるのと同じように。
ヤツは。
その分岐の連なりを無視して、この牢獄のような世界で真に自由な行動を可能とするとでも言うのか。
この場合、駒自体の強さ弱さは関係ない。
種類としてはおそらく最弱。しかし定形の駒がありえない動きを見せた。
むしろ自機フライシュッツを越える頭脳があるという事より、そちらの方がはるかに重大な懸念となるのだが。