【Unknown_Storage】エジプト魔術の基礎理論【file05】


(以下は規則性のある象形文字を現代語に訳したものだが、それにしては炭素同位体の測定によると描かれた年代が妙に新しい。おそらくは物好きな学者の手による走り書きだろうと推測される)


 エジプト神話において、神官の務めは大きく分けて二つ。太陽の制御と死者の管理にありました。

 起点は二つですが人の体を基準に、外界と内界、と区切ってしまえば世界の全てとも言えます。
 そして太陽と死者、そのどちらもが現状ある世界のその現状を守るという考えに根差した管理技術です。この巨大な宗教では実に多種多様な神が登場しますが、他の多神教がそうであるようにエジプト神話の神もまた完全な存在ではありません。太陽を示す神レーですら、年老いるとその力を弱めてしまうのですから。
 こうした考え方は人間の王にも当てはまり、古代エジプト社会は王の実力やカリスマ性がいつの日か弱まる事も織り込み済みで構成されています。つまり、偉大な誰かの死を容認した上で先に進める文明を組み上げている。根幹にあるのは輪廻転生の思想であり、これを確実に成功させるためピラミッドやミイラといった技術が複雑かつ大掛かりになっていきました。

 これらの魔術は非常に魅力的です。
 ただし、もしもあなたがエジプト式の魔術を実行する者を目撃して、なおかつそれが神や王、世界や社会に対する無償の奉仕でないならば、あなたはすぐさま最大限の警戒をするべきです。

 世界の安定を無視して自らの欲を満たすために実行される超常。
 これは『黒い儀式』と呼ばれ、古代エジプト社会において最も忌み嫌われた力なのですから。
 そしてこういった魔術はよほど多くの人を惹きつけたのでしょう。私欲や悪事のために使われる力にも拘わらず、いやだからこそか、その種類は異様なほど多いのです。

 どうかあなたの前に白い儀式の使い手が現れますように。
 世界の理性は未だ焼き切れてはいないと、力なき一編纂者は願っております。