【Pick up】ゾンビパウダー劇症型についての報告【Net files】



 そもそもゾンビパウダーはカリブ海地域で発見された新種のウィルスを指す。これ自体は主に家畜伝染病としての性質を持つ。

 経口感染で蔓延。

 ただし血肉ではなくゼラチン質、特に腱を軸としており、主として保菌者が健康体の生の組織などを食する事で感染拡大が確認されている。

 外気に極めて弱いのが特徴で、大気中を直接漂ったりするのはもちろん、血液や唾液など一度でも空気中に曝された飛沫からは速やかにウィルスは死滅する。よって、保菌者の口腔からじかに、腱を抉るほど深く噛み付かれない限り感染拡大の危険性は限りなくゼロに近い。

 この時点では仮に家畜から人間へ感染したとしても毒性は弱く、発症すらしないケースも多々ある。ウィルスは死滅させる事はできないが、一生人体と共存していくため、見た目の生活だけなら何も問題はいらない。

 劇症型と呼ばれるケースの場合、このゾンビパウダーにいくつかの薬品を投与して性質を変化させる事で人為的に発生させる。

 主にハイチで伝えられていた『昔ながらの』薬品というのは面白い符号だが、本題から逸れるため今は脇へ置いておく。

 劇症型はその名の通り極めて強力な毒性を持ち、家畜はもちろん、人間に感染した場合もほぼ一〇〇%症状が表に出る。それどころか、動物性のゼラチン質を持たないはずの植物などでも一部で細胞の変質が見られる。これも感染状態と分類すべきであろう。

 極端な飢餓感、血流の遅滞、そして心臓を潰されても活動を続けるバイタリティ。おそらく血液を軸とした酸素、栄養などの運搬スタイルとは別の方式を取り込み、各種臓器が機能不全を起こしても脳の活動を維持し続けるよう仕向けているのだろうが、媒体がどんなものであるかはまだ分かっていない。

 また、吸血鬼と違ってコミュニティのクイーンは存在しないが、それとは別に、ごくまれに感染しておきながら高い知性と自我を維持できる特別な個体が現れる模様。

 今回の新たな追加予算の申請は、これらの闇に確実なメスを入れるために必要不可欠なものであり……