わたし、二番目の彼女でいいから。3
第18話 弱いから③
「なんで、そんな普通のこというの? 私たち、もう共有まできてるんだよ? なんで桐島くんだけ冷静でいようとするの?」
「……ごめん」
「謝ってほしいわけじゃないよ。私、桐島くんを責めたりするつもりなんてないもん」
いいながら、早坂さんは自分のパジャマのボタンを外しはじめる。
「あのとき、私としてくれなかったよね。でもあれは、橘さんがクローゼットのなかにいたからなんだよね?」
「ああ」
「私が魅力ない女の子だからじゃないよね? 桐島くんが、私のこと全然好きじゃないってわけじゃないんだよね?」
「もちろん」
「だったらそれを証明してよ、でないと私、もうわけわかんないよ。言葉、信じられないよ。私ね、最近スカート短くしたんだ。そうすれば、みんなもっと私のことみてくれるから」
「そういうの、よくないって」
「そうだね。いやらしい目でみられて、ただ嫌な気持ちになっただけだった。でも、そうしないとわからないんだもん。桐島くんが私に魅力を感じてくれてるか、わからないんだもん」
「俺は早坂さんに魅力感じてるよ」
「だったら、それ、みせてよ。さわって、私がなんの価値もない女の子じゃないってわからせてよ」
それに、と早坂さんはいう。
「私と橘さんのいうことは?」
「絶対」
いいだろう。共有になったとき、こんな歪んだ状況を生んだ罪滅ぼしに、彼女たちの望むことはなんでもしようと決めた。
俺は頭のネジを外して、早坂さんの胸に手をあてる。
「あっ」
早坂さんが甘い息を漏らす。
パジャマ越しに、その突起の存在を感じる。そうなのだ。彼女が部屋に入ってきたときから気づいていた。薄いピンクのパジャマ、早坂さんはその下にブラジャーをつけていない。
指で突起を撫でると、早坂さんの虚ろだった瞳は潤みはじめ、表情が蕩けはじめる。
「桐島くん……」
すぐに甘えた感じになって、あごをあげてくる。
俺はそのぽってりとしたくちびるに、わざと唾液の音を立てながらキスをする。その音で興奮するのか、早坂さんの体温がどんどんあがってくる。汗ばむ体に、俺も興奮する。
手に余る大きなふくらみを、やわらかいパジャマの生地の上からさわる。俺の握り方ひとつで面白いように形を変え、早坂さんの体も面白いように反応する。突起は布越しにみてもわかるほど立ち、汗で肌が透けはじめる。布団のなかの湿度があがっていく。
「桐島くん……好きだよぉ、桐島くん……」
俺たちは服を脱がしあい、互いに下半身の下着だけになって、抱きあう。
「私、これ好き。桐島くんの体温感じるもん」
「早坂さんもすごくあったかいよ」
冬の寒い夜、ベッドのなかで互いの肌をあわせて抱きあうのは格別だった。本当にひとりじゃないことを感じられる。早坂さんの表情もこれまでにないくらい幸せそうだ。
俺は早坂さんの熱い肌をさわっていく。肩、背中、腰、一枚だけ下着をつけているところに興奮を覚える。太もものあいだに足を入れて、俺たちはよりたくさんくっつこうとする。
「桐島くん、これ……」
「その、なんていうか、ごめん」
「ううん、男の子って、こうなるんだよね? 桐島くんが私に魅力を感じてくれてるから、こうなるんだよね?」
「そうだよ」
「嬉しい!」
早坂さんは俺にしがみつきながら、首すじや鎖骨に口づけをする。
「桐島くんは私になにしてもいいんだよ。最後までしなきゃ、私の体好きに使っていいんだよ。ねえ、好きに使ってよ。興奮してるなら、それぶつけてほしい、ねえ、ぶつけてよ」
いわれて俺は早坂さんを下にして、胸をさわる。早坂さんが喘ぐ。なめらかな肌に舌を這わせる。早坂さんが俺のそれに腰を押しつけ、嬌声をあげる。
「早坂さん、声」
「うん」
早坂さんは俺の左手をとると、その人差指を自分の口に入れ、おしゃぶりのように舐めはじめる。そうすることで自分の口をふさぐ。俺が胸の突起に刺激を与えると、早坂さんは悶えながら俺の人差指を強く吸う。
なにかするたびに、早坂さんの体は熱く、やわらかくなっていく。
俺は早坂さんの唾液で濡れた舌を指でつまんでみる。
早坂さんは蕩けきった表情で、声にならない声をあげながら、なすがままになる。
俺は自由なほうの手で、早坂さんの下着にふれる。早坂さんのそこは、いつかの日のように下着越しでもわかるくらいに熱く、湿っている。
「いいよ、私、桐島くんにならオモチャみたいに扱われてもいいんだよ」
俺は下着のなかに手を入れる。早坂さんのそれはよく濡れているから、くぼみに指をあてるだけで、勝手に滑ってなめらかに動く。
すぐに、いやらしい水音が立ちはじめる。
「やだぁ……恥ずかしいよぉ……わたし、はしたないよぉ……」
そういいながらも早坂さんは俺の指を強く吸い、甘い息を漏らしながら、腰を浮かせて指にそこを押しあててくる。
早坂さんの腰が小刻みに痙攣する。指を吸う力が強くなる。水音が激しくなり、痙攣の間隔がどんどん短くなり──枕に顔を押しあてながら、早坂さんは全身を跳ねあげた。
女の子が全てを委ねてくれることが俺は嬉しい。
早坂さんは頰を上気させ、口の端から涎をたらして脱力する。その姿があまりに色っぽくて、俺は興奮して、早坂さんの足と足のあいだに体を入れて覆いかぶさる。
早坂さんは完全にできあがっているから、腰を浮かせて俺のそれにそこを押しあててくる。
俺たちは本能のままに、互いの下着越しにそれを押しあてる。
「最後まではしちゃダメだよ、橘さんとの約束だもん」
「わかってる」
「でもしたいよお……桐島くんに全部あげたいよお……」
「俺も早坂さんがほしい」
でも俺たちにとって橘さんとの約束の存在は大きくて、代わりにキスをする。
「入れて、私のなかに入れて」
俺は舌を早坂さんの口のなかに入れる。
「もっと激しくして、もっと、もっとお」
代償行為。
俺が出し入れする舌を、早坂さんは音を立てて強く吸う。
ふたりの下着はどんどん濡れていく。早坂さんは下から俺を強く抱きしめ、俺の肩を嚙むようにして口を押しあてる。そして──。
「桐島くん……これ、すごい、桐島くん……すごいよ、桐島くん、桐島くんっ!」
早坂さんはリズミカルに何度も腰を跳ねあげる。
そしてまた脱力した早坂さんにキスをして、同じことを繰り返す。
俺たちの熱が冷めるころには、もう朝になっていた。
「し、下着、替えてくるね」
早坂さんは照れた様子で、前髪で表情を隠しながらいう。
「あと、あれだね、お母さんにみつかる前にシーツも洗濯しなきゃ」
そういって早坂さんが部屋をでていったあと、俺は枕元のスマホに手を伸ばす。
やれやれ。
「橘さん、通話切らなかったのか」
『…………』
少し間があり、橘さんの声がきこえてくる。
『おはよう、司郎くん。寝てたからなにがあったかは知らないけど、通話状態のままにしてしまったみたい』
互いにいろいろといいたいことはあるはずだが、一晩中起きていただけあって、うまく考えがまとまらない。ただ、俺はずっとききたかったことを、ひとつきく。
「よかったのか?」
『なにが?』
「共有で」
あのとき、橘さんは早坂さんからの共有の提案を承諾した。でも早坂さんのほうからのお願いで、橘さんは断ることができたはずだ。しかし──。
『あそこで司郎くんにどちらか選ばせるなんてできないよ』
「なんで?」
『絶対、早坂さんを選ぶ。司郎くんは優しいから──』
そこまでいったところで、橘さんは『ちがうね』といいなおす。
絶対、早坂さんを選ぶ。なぜなら──。
『司郎くんは弱いから』