わたし、二番目の彼女でいいから。9
第35話 桐島、魂の旅路 ④
「痛くない?」
「うん。初めてのときとちがって、痛くないよ」
でも、と早坂さんはいう。
「なんだか、ちょっと苦しいかも」
「ごめん、俺ばかり気持ちよくなって」
そこで早坂さんは、ほほ笑みながらいう。
「じゃあ私のこと、いっぱい気持ちよくなるようにして」
俺は早坂さんを抱きしめ、首すじを軽く噛んだり、髪をさわったり、肌をかすかに指でなぞったりする。そうしていると、早坂さんが身をよじり、もっとしっかりさわってほしいとでもいうように、下から体を押しつけてくる。
それでも俺が指で肌をなぞるだけでいると、早坂さんは甘い声で鳴く。
「桐島くん、もっとしてよぉ――」
そこで俺が早坂さんにキスをすると、おねだりするように俺の舌を吸ってくる。それで俺は早坂さんのやわらかい胸をさわる。
「うあぁ」
早坂さんの表情が、とろんとしてくる。そうやってしばらく、キスをしたり、胸をさわったりしたあとで、その豊かな胸の先端をつまむと――。
「あぁっ!」
早坂さんが嬌声をあげ、背中を弓なりに反らす。そうやって腰が浮いた拍子に、俺のそれがより深く入り――。
「う、うあぁっ!」
早坂さんは大きな声をあげ、その肌がいっきに汗ばむ。俺は動けない。早坂さんの濡れそぼったそこが熱く締めつけ、ちょっとでも動けば、あまりの快感に達してしまいそうだったからだ。そうやってやりすごしていると、早坂さんがせがむような目で俺をみる。
「桐島くん――」
俺はまた、早坂さんの胸を強くつまむ。早坂さんはさっきと同じように嬌声をあげて、腰を浮かす。また深く入り、早坂さんが連続で悲鳴のような声をあげる。
「うあぁ、すごいよぉ」
それを繰り返していると、俺が胸をさわらなくても、早坂さんの腰は自ら動き、体をくねらせながら、快感を得はじめる。
「どうしよう、腰、勝手に動いちゃうよぉ」
つながっているところから、水音が立ち、あふれだした蜜がシーツに落ちて染みをつくる。
「私、すごくえっちな女の子みたいになっちゃってる」
早坂さんは顔をそむけながらいう。でも、腰は動きつづけ、あふれだしたそれが、白く泡だっている。
「桐島くんだからだよ。桐島くんが好きだから、私はこうなっちゃうんだよ」
やがて、早坂さんの体が痙攣し、こわばりはじめる。
「どうしよう、すごいのきちゃう、私、桐島くんのでいっちゃうよお」
早坂さんが両手を伸ばす。
俺は早坂さんを抱きしめ、動く。深く入るごとに、視界が明滅するような快感が駆け抜ける。それは早坂さんも同じようだった。
「うあぁ、桐島くんのこと、どんどん好きになっちゃうよ」
好き、好き、とうわごとのように繰り返す早坂さん。
「いいの? こんなに好きになっちゃっていいの? うあ、あぁっ!」
俺は快感の渦のなかで、いいよ、とこたえる。俺も早坂さんのことが好きだから。
俺たちは互いに好きだといいながら、激しくつながりつづけ――。
ひとつになろうとして強く抱きあいながら、達した。
あまりの快感に、しばらく動けなかった。
恍惚とした余韻のなかで、言葉もなく、ただ、軽く抱きあったり、互いの体に口づけをしたりする。
十五分くらい経ったところで、早坂さんがいった。
「私ね、ずっと、こういうのは『好き』を確認するための行為だと思ってたの」
でも――。
「今、桐島くんと、『好き』を交換した気がする」
素敵な感想だった。
こうやって互いを思いやり、『好き』を交換しながら、ぐるぐるしているうちに、その『好き』が大きくなっていくのかもしれない。なんて思っていると――。
「でも、ただ気持ちいいだけのやつも、やってみたいかも」
早坂さんは、ほほ笑みながら、つんつん俺をつつく。
「俺もしたいかも」
それから、俺たちは仲良く、何度も『好き』を交換しつづけた。
早坂さんは嬉しそうで、俺たちのそれは、大人な行為なんだろうけど、でも、どこか、かわいらしいものでもあった。
窓から朝陽が射しこんできたとき、早坂さんは満足そうに笑っていた。
頭をなでると、「えへへ」と、猫のように頭をくっつけてくる。
「さすがにこの辺にしとこっか」
早坂さんはいう。
「汗かいちゃったし、とりあえずお風呂に入ろうよ。もちろん、一緒だよ」
それで、浴室にむかうため、部屋からでたときだった。
リビングのソファーに、橘さんが座っていた。
顔を真っ赤にしながら、膝を抱えている。
どうやら、俺たちのしていたことを、扉一枚隔てて、ずっときいていたらしい。
そんな橘さんは、目をぐるぐるさせながら、俺たちをみていった。
「ふたりとも、ヤリすぎ、イキすぎ、楽しみすぎ。こっちが恥ずかしい」
俺と早坂さんは顔をみあわせ、今さらながら気恥ずかしくなって、俺たちもまた、顔を赤くしたのだった。
◇
三人でリビングのソファーセットに腰かけていた。
昼すぎのことだ。
橘さんが趣味で使っているサイフォンでコーヒーを淹れていると、橘さんと早坂さんが部屋からでてきた。ふたりは普段のテンションに落ち着いていて、顔をあわせて、少し困ったような顔をして、とりあえずといったように、寝起きの挨拶だけをした。
そして、それぞれ着替えをして、身だしなみを整えたところで、ソファーに腰かけたのだ。
コーヒーテーブルの上に置かれたカップに手がつけられることもなく、黙ったまま、時間だけが過ぎていく。
悩んでいるとか、迷っているという空気ではない。
静かな時間、空白、休符といったものが必要だっただけだ。
やがて、早坂さんがいう。
「いきなりでていって、心配かけちゃったよね」
ううん、と橘さんは首を横にふる。
「私が、いいたいこといったのがきっかけだから」
また、沈黙。
そして、橘さんが立ちあがって早坂さんをみすえながらいう。
「戻ってきたってことは、そういうことでいいんだね」
「うん」
早坂さんも静かに立ちあがる。
「橘さんと同じ気持ちで、そういうことだから」
「そっか」
互いにみつめあったあと、早坂さんがいう。
「桐島くん、私のなかで何度もイったよ。桐島くんが私のこと好きって気持ち、すごく伝わってきた。すごい量の好きって気持ちを注がれて、それがずっと終わらなくて、私、朝までいっぱいイカされちゃった」
「そう」
「桐島くん、私のこと大切にしてくれるから、途中で伝えたんだよね。『もっと桐島くんが気持ちいいようにしていいよ、気を使わなくていいよ』って。そしたらね、私の胸を吸って、強く抱きしめながら、すごく激しく突いてくるの。体中キスされながら何度もイカされてさ。桐島くん、完全に私の体を味わってた」
「ふうん」
「桐島くんが女の子のなかでイった回数、私が一番なんじゃないかな」
「よかったね」
そういって、橘さんが早坂さんに近づいていく。
次の瞬間、橘さんが早坂さんをビンタした。
手加減なしで、早坂さんの首が横に振れるようなビンタだった。
「このあいだ、叩かれたから。そのお返し」
橘さんはフラットな表情でいう。
「正直いって、私、早坂さんのこと嫌い。なんで司郎くんのとなりにいるの? 早くいなくなってよ」
頬をおさえている早坂さん。
歯で口のなかを切ったのか、口の端に血が滲んでいる。
でも――。
「ごめんね」
早坂さんは顔をあげ、穏やかな表情でいう。
「私も橘さんのこと、大嫌い」
「高校のときから、ずっと」



