わたし、二番目の彼女でいいから。9
第35話 桐島、魂の旅路 ③
さらに、早坂さんのくちびるに、キスをして、強引に舌を入れる。
「ん、んん――」
浴衣の隙間に手を入れて、下着の上から胸をさわり、そのまま早坂さんを押し倒す。
湯呑が倒れて、お茶が畳にこぼれる。
俺はかまわず、太もものあいだにも手を入れて、そこをさわる。
キスをしながら、早坂さんの体をまさぐりつづける。息がつづかなくなって、口を離したところで、早坂さんがいう。
「ど、どうしちゃったの、桐島くん」
「したいんだ」
「え?」
「早坂さんとしたいんだよ」
「う、うん」
そこで早坂さんが頬を赤らめる。
「桐島くん、ずっと旅してたんだもんね。いいよ、私が――」
「ちがうんだよ」
そういうことじゃない、と俺はいう。
「早坂さんと、最後までしたいんだ」
◇
常夜灯だけにした薄暗い部屋のなか、布団の上、俺の体の下に早坂さんがいう。
はだけた浴衣からみえる、白い肌と下着。
早坂さんは少し緊張しているようにみえる。
最後までする。
それは十代にとっては神聖さや特別な意味があったし、成長したあとも、感情的、社会的にある種の意味を持ちつづける。
俺たちにとってもそうで、だから高校のときに最後までしないというルールがあって、それは今回の生活でも継続された。
でも、俺たちは大学生で、好き同士であるなら、普通にするべきだったのだ。そういう、年齢なのだから。けれど、しなかった。
ルールがない状態のときも、ふたりから誘われるようなことをされても、しなかった。
なぜか。
許されるような気がしたのだ。
最後までしていなければ、一緒にならなかったときに、相手の傷が浅くすむような幻想を俺は持っていたのだ。
先のことを考えての、臆病さ。
愛しているのに。
臆病になって、それを伝えなかった。
橘さんとは高校のときにしていて、でも、早坂さんとはしていない。だから、早坂さんはそれにコンプレックスをずっと持っていた。
二番目に好きで付き合いはじめた、という事情もあって。
橘さんは俺の臆病さに気づいていた。
『そうじゃないって、私はわかっていたのに』
俺たちの共同生活の浅さは、全て、俺の臆病さからきていたのだ。
だから、俺がきちんと愛を伝えるところから、やっと、俺たちは、はじまる。
「いいの?」
早坂さんがきく。彼女もまた、俺の考えていることをよくわかっている。
「私、二番目同士だったのに、桐島くんとキスしたり手をつないだりしてるだけで、一番好きになっちゃうような女の子なんだよ? 最後までしたら、もっともっと、重い女の子になっちゃうよ?」
「わかってる」
「もし別れたら、一生引きずるかもしれないよ? 橘さんだけじゃなくて、私もそうなっちゃうかもしれないんだよ?」
俺はそれを恐れていた。
それでも、最後までしようと思う。
なぜなら――。
「俺は早坂さんのことが、ちゃんと好きだから」
それを伝えるために、俺は早坂さんにキスをする。
「桐島くん――」
早坂さんもキスを返してくる。俺は自分の浴衣を脱ぎ、早坂さんの浴衣も脱がせる。早坂さんは恥ずかしそうに身をよじる。またキスをして、早坂さんの体をひらく。互いの肌がふれて、体温が伝わる。なめらかで、とても気持ちいい。
首すじ、鎖骨、胸元に口づけをしながら、下着を脱がせる。
早坂さんの、やわらかな体。
きれいだ、と俺がいうと、早坂さんは視線をそらす。
「は、恥ずかしいよ……」
早坂さんの胸をさわり、その先端を口に含む。舌でさわっていると、硬くなっていく。
吐息も湿りはじめる。
でも、いつも体をさわりあっているときよりも、どこかぎこちない。
「ご、ごめん」
早坂さんがいう。
「するんだって思ったら……なんだか……その……」
それで、俺は早坂さんをただ抱きしめる。そして、頭をなでつづける。
「えへへ。桐島くん、やさしい」
甘えん坊になる早坂さん。
しばらくそうしていると、やがて、早坂さんは俺の体にキスをして、いう。
「私の体、いっぱいさわってほしいな」
早坂さんの体は、さっきよりもやわらかく、熱くなっている。俺は胸をさわり、さらに足を開かせ、そこに口をつけ、舐める。
「桐島くん、これ、恥ずかしいよぉ……」
そういいながらも、早坂さんの腰が浮く。
どんどん、あふれてくる。
俺の頭をつかむ早坂さん。そして――。
「あ――桐島くん――」
早坂さんは、小さく体を震わせた。
布団の上に投げだされた体。
上下する胸。
汗ばんだ白い肌。
俺はしばらく、そんな美しい早坂さんを眺める。やがて、息が落ち着いたところで、早坂さんがとても小さな声でいう。
「いいよ、桐島くん……きて……」
俺はうなずいて、早坂さんのそこに、俺のそれを押しあてる。
早坂さんが息をのむ。そして、俺は早坂さんのなかに、とてもゆっくり、ゆっくり、入っていく。途中、早坂さんがこらえるような表情をして、俺は動きをとめる。
「平気だよ」
早坂さんは目の端に涙をためながらいう。
「大丈夫だからきて」
俺はさらに早坂さんのなかに入っていく。
そして、深くつながったところで、早坂さんの目から涙がこぼれる。
「えへへ」
早坂さんは、ほほ笑みながらいう。
「痛い」
俺は深くつながったまま、早坂さんを抱きしめる。そうやって、今まで言葉だけでは伝えきれなかった様々なことを伝える。
早坂さんも俺を強く抱きしめる。
その晩、俺たちは最後までした。
ずっとできなかった、彼氏彼女がすること。
全てが終わったあと、裸で抱きあいながら、早坂さんはいった。
「大好きだよ、桐島くん」
◇
東京までは早坂さんの車で帰ることになり、運転は俺だった。
助手席で早坂さんはにこにこしている。
「私ね、好きな人が運転する車の助手席に乗りたいって、ずっと思ってたんだ」
「俺、ペーパードライバーだから、ずっと左車線で遅いよ」
「いいのいいの」
たくさん休憩しながら運転すればいいんだから、と早坂さんはいう。
「ゆっくり帰れば、それだけ長い時間、一緒にいられるもん」
ということで、サービスエリアに入って休憩する。
サービスエリアの土産物コーナーで早坂さんがイルカのぬいぐるみキーホルダーを眺めているから、俺はそれを買ってあげる。
「桐島くんからプレゼントされちゃった」
早坂さんは嬉しそうな顔をする。
「どうしたの、急に? 運転もしてくれるし」
「ただ、そうしたくなっただけだよ」
俺の『好き』は、もう、別れるかもしれない、別の女の子と一緒になるかもしれない、という留保付きじゃないのだ。もう、その留保はいらない。
「幸せだなあ」
早坂さんはいう。
「でも、これだけ愛されたあとにフラれたら、私、死ぬほど傷ついて、毎日このキーホルダーを握りしめて泣くんだろうなあ」
「ちょっと」
「それで、心が弱ってるときに悪い男の人につけこまれて、もてあそばれて、めちゃくちゃにされちゃうんだろうなあ」
「早坂さん、わざとやってるだろ」
「ホットドッグ食べよ~」
そんなことをやりながら、途中、車中泊を一泊して、東京へと帰った。着いた頃には日が暮れていて、マンションの部屋に入ってみれば、橘さんの姿はなかった。
代わりに、かわいらしいメモの書置きが残されていた。
『今夜は大学の学友たちと、たこ焼きパーティーがあるので、ちょっと遅くなります』
早坂さんがみつからないあいだ、橘さんはずっと部屋にいた。俺が早坂さんをみつけたことをメッセージで知らせたから、それで安心して、久しぶりに遊びにいったのだろう。
メモを手にとって、早坂さんがいう。
「橘さんって、実はパリピだよね」
「無表情ってだけで、頭のなか、けっこうファンシーだしな」
俺たちは長時間に亘るドライブのつかれを癒すために、お風呂を沸かし、順に入る。
お風呂上りに、早坂さんが肩をもんでくれる。
「なんだかわるいよ」
「気にしないで、ずっと運転してくれてたんだから」
それからコーヒーを淹れて飲んだり、俺が早坂さんの肩をもんだり、特に意味もなくソファーに座りながらお互いの足を踏みあったりして過ごした。
なにもいわなかったけど、橘さんの帰りを待っていた。
でも、俺のスマホが音を立てる。橘さんからのメッセージ。
『カラオケいくからもうちょっと遅くなりそう』
『私の歌唱力をみせつけなければ』
己の力を誇示することに余念のない橘さんに「お迎えが必要だったら呼んでね」と返信する。
すん、とした顔でその様子をみている早坂さん。でも、すぐに、にっこり笑って、俺にしなだれかかってくる。
「橘さんが帰ってくるまでさ、イチャイチャしようよ」
そういって、しっとりとしたキスをしてくる。
「私のこと好き?」
「もちろん」
「一回だけじゃなくて、もっとしたいって思う?」
きかれて、俺はうなずく。
「今までは、やせ我慢してただけなんだ。本当は、こうやって抱きつかれるたびに、そういう気持ちになってた」
「そっかそっか」
早坂さんは、いたずらっぽい顔になっていう。
「旅館で強引に迫ってきた桐島くん、あれ、すごくよかったな~」
俺は早坂さんを抱きしめながら、寝室に連れてゆき、ベッドに押し倒す。
早坂さんは恥ずかしそうにしながらも、期待するような、少し嬉しそうな顔をしている。
服を脱がせながらキスをすれば、早坂さんも俺の服を脱がせてくる。
俺も早坂さんも積極的だ。
早坂さんの手と足が、からみついてくる。俺たちは自ら下着も脱ぐ。恥ずかしい気持ちもあるけれど、それよりも、その先のことを俺たちは知っていて、そこへの期待がまさる。
俺たちはとてもなめらかに体をさわりあう。
やがて、肌が汗ばんできたところで早坂さんがいう。
「桐島くん、きて……」
早坂さんは恥ずかしそうにしながらも、みずから足をひらく。白い太ももと、しっとりと濡れたそこをみて、俺は我慢できなくなり、早坂さんのなかに入っていく。
熱く濡れて、とても狭く、早坂さんに挿入しているという事実もあいまって、少し進むだけで、腰が抜けそうなほどの快楽に襲われ、早く奥まで入りたいという衝動に駆られる。
「いいよ」
早坂さんが俺の首の後ろに手をまわしていって、俺は自制しながら、早坂さんの奥まで入っていく。
全てが包まれ、締めつけられ、信じられないほどの快感が全身を駆け巡る。
「桐島くん、気持ちよさそう」
早坂さんが嬉しそうにいう。



