わたし、二番目の彼女でいいから。9
第36話 愛するということ ③
早坂さんと愛し合えば、橘さんが悲痛な声をあげる。
橘さんを幸せにしたいと思った次の瞬間に、早坂さんと抱きあい、早坂さんを幸せにしたいと思った次の瞬間に、橘さんとキスをする。
橘さんとふれあえば橘さんを好きになり、早坂さんとふれあえば早坂さんのことを好きになる己の愚かさ。
常にそれらが俺の心に刺さりつづけていた。
恋というものはもっと穏やかなものなのかもしれない。
愛というものは、もっと深いものなのかもしれない。
もっと、きれいにできるのかもしれない。
そう、できたらよかったのかもしれない。
でも、俺たちのそれは、まったく不格好で、格好よくなくて、まったく高尚じゃなくて、ガラスを握ったような痛みがあった。
俺たちは痛みを感じつづけていた。
自傷していたわけではない。
ただそこに痛みがともなっていて、それをごまかすわけにはいかなかったのだ。
俺たちはどうにもしようのない痛みを感じつづけた。
その痛みを、それを感じることを、どう呼べばいいのかはわからない。
ただ、ずっとそうしていて――。
やがて、限界がきた。
◇
橘さんはデートにいっても、ほぼ、黙っている。白くなるほど、俺の手をずっと強く握り締めつづけ、帰り道、俺が運転する車のなか、助手席で言葉があふれてくる。
「司郎くんは私と一緒になる」
「私たちはどこにいくのも、いつも一緒」
「買い物にいけば司郎くんは荷物を持ってくれる、私のことをずっとみていてくれる」
「司郎くんは読書をしている」
「私は司郎くんのためにコーヒーを淹れる」
橘さんは虚空をみつめながら、語りつづける。
「司郎くんの足下には犬かいる。私たちは犬を飼っている」
「寒い日には温めあって眠る」
「そんな幸せな日々がずっとつづく」
その頃になると、早坂さんは口元にずっと笑みを浮かべている。
キッチンでお皿に盛りつけをしながら、早坂さんはいう。
「桐島くんはいつも残さず食べてくれるよね」
「頭なでてくれるし」
「困ったときは絶対助けてくれるし」
「桐島くんは最高の彼氏で、だから私もがんばらなきゃいけないんだ」
「桐島くんに嫌われないように、手のかからない彼女になって、いつでもかわいい彼女になって、いつでも桐島くんを楽しませる彼女になって――」
そうすれば――。
「桐島くんは私のことだけみてくれる。私だけを抱きしめてくれる。私だけを好きでいてくれる。私のことだけ大切にしてくれる。私だけ――」
橘さんの日、早坂さんの日、といった暗黙の了解も意味をなさなくなる。
俺と早坂さんが一緒にでかけようとすると、橘さんが悲痛な声でいう。
「司郎くん、いかないで、一緒にいてよ」
俺と橘さんがでかけようとすると、早坂さんが震える声でいう。
「桐島くん、もういいよ。もう、十分だよ。そんなことしなくても、もういいんだよ」
俺ももう、なにもいえない。
橘さんは花をみている時間が多くなる。
早坂さんは料理を作りすぎる。
そして――。
早坂さんと一緒に眠る日のことだった。早坂さんはパジャマを脱ぎ、下着姿になる。そして俺の服も脱がせる。
いつものように、まずは抱きあって互いの肌の温もりを感じようとしたときだった。
扉が開いて、橘さんが入ってきた。
「お願い、もうやめて」
橘さんは泣いていた。
「私の司郎くんをとらないで。司郎くんは私と、私と――」
きれいな顔をくしゃくしゃにして洟をすすり、子供のように泣いている。
「司郎くん、私以外の女の子としないで。私だけとして。私以外は――」
橘さんは、泣きすぎて、もう、しゃべれなくなってしまう。
そんな橘さんをみて、早坂さんはベッドから降り――。
「ごめんね」
と、いった。
「同じ人を好きになって、ごめんね。初恋のジャマして、ごめんね」
早坂さんはとても哀しそうな顔でそういいながら――。
橘さんを抱きしめ、キスをした。さらにパジャマを脱がせ、ふたりとも下着姿になりながら、ベッドにもつれながら倒れこんでくる。
「全部私のせいだよね。わかってる、わかってるんだよ」
ごめんね、といいながら、早坂さんは橘さんの口のなかに舌をいれる。橘さんは泣きながらも、その舌の動きにこたえ、ふたりの舌が絡みあう。
「私がいなければ、こんなことにならなかったってわかってるよ、ごめんね」
早坂さんは橘さんの胸の下着を脱がし、ピンク色の先端を舌で舐める。橘さんの控えめなかわいらしい胸を、早坂さんの同じくかわいらしい口が、吸ったり、舐めたりする。
「橘さん、やっぱりすごく感じやすいんだね」
早坂さんが下着のあいだに指を滑りこませ、そこをさわりはじめると、橘さんは泣きながら、喘ぎはじめる。
「橘さんの体、すごくきれい」
水音が立ち、やがて橘さんの足がつま先までぴんと伸びる。内ももに雫が垂れ、そして、白くきれいなお腹を跳ねあげて、達する。
「桐島くん」
早坂さんは橘さんの下着を取り払い、足を大きく開かせ、さらにそこを指で広げながらいう。
「橘さんにしてあげて」
それで、俺は橘さんのなかに入れる。いったばかりの橘さんは敏感で、大きな声で喘ぎながら、しなやかな体を震わせる。胸の先端が、天井に向かってぴんと立っている。
濡れて、狭く、締めつけられる快感に、俺も声がでてしまう。
そんな様子をみながら、早坂さんも泣きはじめる。
「そうだよね。初恋同士だもんね。そうなるよね」
すると、橘さんが涙をぬぐいながらいう。
「司郎くん、早坂さんとキスしてあげて」
それで、俺は橘さんとつながりながら、早坂さんを抱きしめキスをする。
ごめん。
橘さん。
早坂さん。
俺も、涙があふれてきてしまう。
橘さんが、ベッドに膝をついている早坂さんのそこに顔を近づけ、下着の隙間から、舐めはじめる。
「あっ、橘さんっ、ダメだよぉ」
早坂さんは腰砕けになる。俺はそんな早坂さんと舌を絡ませながら、やわらかい胸の、硬くなった先端を指でさわる。
「そんな、上と下からされたら、私――いく、いっちゃう!」
早坂さんは全身を震わせ、その場に崩れ落ちる。
橘さんは俺から離れると、そんな早坂さんの上に覆いかぶさり、キスをしはじめる。
「私こそごめん」
そういって、早坂さんの胸をさわり、舌で舐め、吸う。
「ダメだよ、橘さん、私いったところだもん」
「いっぱい叩いてごめんね」
橘さんは早坂さんの湿ったとこに、美しい指を二本入れ、かきまわしはじめる。
「それ、ダメッ、あっ、橘さん!」
早坂さんのそこからあふれだし、シーツを大量に濡らしていく。
「こんなの恥ずかしいよぉ」
橘さんの指から解放され、脱力する早坂さん。
橘さんは早坂さんに覆いかぶさったまま、俺のほうをみていう。
「早坂さんに、してあげて」
俺は濡れたシーツの先にある、早坂さんのそこに入れる。さっきまでの橘さんのとは、またちがう感触。俺が動きはじめると、橘さんは早坂さんの胸をさわったり、口のなかを舌でまさぐったりする。
「あっ、ダメッ、こんなのっ、あっ」
早坂さんが体を震わせる。
橘さんはまた泣きはじめる。
「私、知ってたよ。早坂さんが魅力的なこと。桐島くんが本当に好きになってること。そうだよね、私だけじゃないよね。早坂さんは、かわいいもんね」
泣きながら、早坂さんにキスをする橘さん。
早坂さんは喘ぎ、でも、息も絶え絶えになりながら俺をみる。
「桐島くん」
なにをいいたいか、ちゃんと伝わる。
早坂さんに突き入れながらも、俺の目の前には、早坂さんに覆いかぶさっている、橘さんのそれもある。
それで、早坂さんのなかから抜いて、俺は橘さんに入っていく。
早坂さんとはちがう、橘さんの感触。
「司郎くんっ!」
不意の挿入に、橘さんが腰を反らし、あごをあげる。
早坂さんは橘さんの胸に口をつける。
「橘さん、いっぱい気持ちよくしてあげるね。ごめんね」
「あ、ダメ、いく、いくあ――あ、また、あ、そんなにされたら壊れちゃう!」
俺たちは、三人で溶けあうように抱きあう。
早坂さんとつながりながら、橘さんと抱きあいキスをする。橘さんとつながりながら早坂さんと抱きあいキスをする。
橘さんと早坂さんが絡みあいながら、汗だくになって、互いにいかせあう。
俺と早坂さんで、橘さんを責める。
「あ、早坂さん、そんなにキスされたら、私、息できない――あっ、司郎くん、おおきいっ、あ、どうしよう、腰、とまらない、あ――」
俺と橘さんで早坂さんを責める。
「橘さん、ダメだよ、そんなに引っ張ったら――桐島くん、深いっ、あっ――いく、胸となかでいっちゃう、いく、いく!」
橘さんと早坂さんに、口や胸、そこを押しつけられて、俺が一方的に責められる。
「司郎くんが悪いんだよ。私だけにしてくれないから、早坂さんのことも好きになるから」
「そうだよ。桐島くんのせいで、私たちはこうなっちゃったんだよ」
「ほら、これなら交互にできるよね」
「どっちが気持ちいい?」
「司郎くんはずるいよね」
「桐島くんはひどいことしてるんだよ? 橘さんのなかに入れて、橘さんので濡れたそれを、私のなかに入れてるんだから」
「あ、司郎くんが奥まで入ってくる。早坂さんのですごく濡れてる」
俺は連続する快楽のなかで、頭がどんどん熱くなっていく。
俺はふたりに謝りつづける。
橘さん、ごめん。
早坂さん、ごめん。
結局、俺たちは泣きながら交わりつづける。
なんで私だけじゃないの?
どうして私たちを好きになったの?
ごめん。
早坂さん、ごめんね。
私こそ、ごめん。
そんな感情を燃やし尽くすような夜を駆け抜け、朝になったとき――。
俺たちはベッドで体を起こし、言葉を交わすこともなくひとつの事実をわかりあった。
もう、終わりだね。
窓から、朝の冷気を感じる。
部屋の空気が澄んでいて、それは秋の終わり、冬の到来を告げていた。
早坂さんが目を伏せながらいう。
「いいよね」
「うん」
橘さんがどこか寂しそうな表情でうなずく。
そして、橘さんと早坂さんは視線を交わしたあと、俺をみて、その言葉を口にした。
司郎くんが、
桐島くんが、
私たちの、どっちと一緒になるか――
「選んでよ」



