短編④ 仁義なき男トモ女トモ戦争 体育バスケ編 ④
「……なるほど。さっきはケチがついたし、延長戦だな」
オレもボールを拾うと、その場から放った。
……入った。
その後も、交互にボールを拾ってカゴに放る。
入ったり、入らなかったり。
入った拍子に、他のボールがカゴから飛び出したりした。
やがてお互いに、あと1回ずつとなる。
オレが6得点。
ナツが6得点。
同点だ。
ナツは最後の一投に、一番遠いところのボールを選んだ。
そしてシュートの構えを取ると、滔々と語った。
「真木島がテニス部に誘ってくれるのは嬉しいんだ。でも、無理なんだ」
「そんなに団体行動が苦手なのか?」
「……ちょっと不安だけど、それは大丈夫だと思う。だって真木島と遊んでるとき、そういう嫌な気分になったことないし。だから、たぶんやってみたら楽しいんだろうなあって思うんだよ」
ナツは語りながらも、じっとカゴを睨み続けている。
シュートの姿勢のまま、ぴくりとも動かない。
すごい集中力だな……と感心していると、最後にボールをぽーんと放った。
投げた瞬間にわかった。そして当然のようにカゴに入る。
これで、ナツのほうが1点リードだ。
オレが最後のボールを拾うと、ナツが続けた。
「俺、他にやりたいことがあってさ。部活も学生のうちしかできないことだってのはわかってるんだけど……今はそっちに集中したい」
オレはボールを突きながら聞き返した。
「それは言えんことなのか?」
「……日葵は内緒にしとけって言うんだけど」
言い渋っていたが、やがて決意した様子で頷く。
そして緊張した感じで告白した。
「俺、子どもの頃から花が好きなんだよ。今は花を加工して、自作のアクセサリーを作っている。日葵はその販売の手伝いとかしてくれてさ。今は園芸部を立ち上げるために、先生にも掛け合ってくれてるんだ。……そして卒業したら、フラワーアクセで自分たちの店を持つ約束もしてる」
「…………」
オレはその話を聞きながら、ボールを掲げてシュートの姿勢を取った。
右手が射出台。
左手は照準器。
オレの視線が、ナツの顔を一瞥する。
そして放たれたボールは、綺麗にカゴの隣に落ちて大きく跳ねた。
ホッと息をつき、ちょっと意外そうにボールを目で追うナツに向いた。
「なんだ。そうだったのか」
「え?」
ナツは少し拍子抜けした様子で聞き返した。
「それならそうと先に言えばよかろう。ずっと曖昧に逃げられておったから、勘違いしてしまったぞ」
「え、あ、それは……」
……不器用なやつだな。
ずっと言おうと思っていたのだろう。
でも、踏み切る度胸がなかったのだろう。
その様子を見れば、ナツが決してオレの誘いを軽んじていたわけではないことはわかる。
「やりたいことがあるなら、無理には誘わん。自分が納得できるまでやればよいのではないか」
「あの……真木島は、何も思わないの?」
「何をだ?」
「いや、その……男が花好きとかカッコ悪いとか、フラワーアクセの店とか夢見てんじゃねえ、みたいな……」
「はあ?」
オレは外したボールを拾うと、そのままカゴに入れた。
「好きという気持ちは、理屈ではない。外野がアレコレ言ってもどうにもならんものだ。達成できるならよし、達成できずとも……その経験は自分だけのものだ。他人のものではないのに、他人の言葉に従ってどうする?」
「…………」
ナツの表情は……複雑だった。
なんか安心しているような、呆けているような。
……こいつの周りは、きっとこいつの将来を真剣に考えてくれる大人がいるのだろうな。
「オレも馬鹿な目標を持っている。厄介なのは、それを達成したところで自己満足しか得られないところだ。そういう意味では、オレたちは似ているかもな?」
「真木島の目標?」
「…………」
いかにも聞きたそうなナツの様子に、オレは「へっ」と嘲笑した。
「オレは教えん。ナツのように恥ずかしい自分語りは苦手なのでな?」
「なあ……っ⁉」
ナツの顔がボッと赤くなった。
男のそんな顔など見たくないが……まあ、おかげでここ数週間の溜飲が下がったよ。
「さーて。そうとわかれば、さっさとカゴを片付けて昼練に行くかァ」
「真木島。切り替え早いよね……」
「くだらんことにこだわっていると、それだけ時間も体力も勿体ないからな。それより、ずっと気になっておったのだが……」
「ん?」
ナツの身体を見回す。
……やはり先ほどの可憐なインテリくん宣言には似つかわしくない。
何気にバスケの試合も全部シュートを決めていたし、さっきのフリースローも素人にしては異常だ。
「ナツは本当にスポーツをしたことないのか?」
「あ、部活はしたことない」
「……部活は?」
妙に嫌な予感がして聞き返すと、ナツは朗らかな笑顔で答えた。
「日葵のお兄さんから『クリエイターは身体が資本だから』って中学の頃からめっちゃ鍛えられてさ。その上、ここ数週間はなぜか『必ず必要になる』ってバスケとかサッカーとか、あとはテニスも一通り叩き込まれたんだけど、まさか本当にこうやって真木島と対戦することになるとは…………あれ?」
「…………」
ナツの語りが止まった。
オレの表情が言葉にできない様子で、ちょっとだけ後ずさる。
「……真木島? どうしたの?」
「な、ナハハハハ。そーか、そーか。そういうことであったのか」
「え、えーっと? なんで片付けたボールを床にバラまいてるの……?」
カゴを空っぽにすると、オレはコキコキと肩を鳴らした。
そしてナツに向かって、ギンッと鋭い視線を向ける。
「オラァーッ! この邪帝の手先め! テニス部入部を懸けて、もう一回勝負したまえ!」
「なんで⁉ さっきあんないい感じで理解を示してくれたのに……」
「やかましいっ! オレは自分の気持ちには正直に生きると決めておるのだ! つまり! 今のオレは諦めておらん‼」
「んな無茶苦茶なあっ⁉」
結局、昼休みが終わるまでフリースローを続けるのだった。
♠♠♠
やがてチャイムが鳴り、そういえば昼飯も食ってないと慌てて走って戻った。
「絶対に真木島のせいだろ⁉」
「うるさい! ナツも乗ってきたであろう!」
その最中、ふと脳裏をよぎる。
(日葵ちゃんの親友で、フラワーアクセを作る男か……)
そういえばオレの幼馴染のリンちゃんが、二年ほど前に紅葉さんから花のブレスレットをもらっていた。
アレも確か、日葵ちゃんの中学の文化祭で売られていたものらしい。
それをリンちゃんがやけに大事にしておったが……もしかしなくとも、おそらくナツが作ったものであろうな。
(……初恋の人、ねえ)
まさかな。
オレは自分の妄想を鼻で笑うと、ナツと一緒に教室へと駆けていった。