あんたで日常を彩りたい2
序幕(1)
都会に四季が存在しないことを上京して初めて知った。夏と冬しかない。すこし前までは学生寮と校舎を往復するわずかな時間に体力を蝕む日光を疎ましく思っていたはずなのに、気が付けば手足の先に熱源を求めている。
ブランケットを羽織って、かまくらの中で暖を取るように縮こまるぼくに、聞き慣れたぶっきらぼうなルームメイトの声が飛んできた。
「風邪ひいた?」
ぼくは間髪入れずに答える。
「そういうわけじゃなくて、部屋が寒いんだよ」
「へー」
毎日のように繰り返される問答である。毎日のように……というか、正確には誇張なく毎日繰り替えしている。自らの作品づくりに没頭するルームメイトにとって、ぼくの生命活動を確認する一種のルーティーンと化しているのだろう。それはいい。それはいいのだけれど、やっぱり11月になっても部屋に冷房を入れる神経は本当に理解しがたい。
「……そろそろ外気温も低くなってきたから、冷房から暖房に切り替えない?」
「ご自由にどうぞ」
「そう言って、いつも気が付くと室温の設定を戻してるじゃん!」
ぼくが声を荒らげると、ルームメイトはあさっての方向へ顔をそむけたまま「そうなんだ」と呟いた。どこまでも他人事である。これも彼女の通常営業だけれど。
共同生活を送り始めてから半年が経過し、ようやく知ったことなのだけれど……彼女の「そうなんだ」という言葉は偽りのない本心から来ている。彼女自身が自らの行動を覚えていないのだ。記憶する必要がないから。
はじめは先行きの見えない日々を送っていただけれど、どうにか日常を形づくれるようになったのは……きっと、ともに『
それはそうと、あまりにも寒い。いよいよ手がかじかんできた。
ふたたび自分の世界へ没入した
いつでもシャワーが浴びられる環境は本当に最高だ。実家のお屋敷では薪を用意するところから入浴の準備が始まっていたから。
ぼくたちが通う
もっとも、この共同生活を奇怪たらしめている理由は主にふたつ存在している。
ひとつめの理由。
ぼくのルームメイト――
クリエイターの卵が集うこの学園において、すでに芸術家として成功している棗さんの存在は紛れもなく異端である。しかし、それでも彼女は学園に通うことを選んだ。
『普通の高校生活を送ってみたかったから』と、棗さんが理由を語ってくれたことがある。ぼくたちの送る日常が果たして普通なのかどうかは置いておいて、彼女なりに満足しているのだと思う。不満があればすぐに「なんで? どうして?」を連発するはずだから。
「ふぅ……」
温かな流水によって指や爪先に血行が巡っていく。
シャワーが上げる蒸気に包まれながら生を実感する。
まだ眠るには早い時間だけれど、きっと部屋の外に出る用事もないだろうから、このままメイクを落としてしまおう。そう思い、洗顔料を手に取ったところで――。
かちゃ、と浴室の扉のパッキン部分が音を立てた。