第四章 ⑧

「聞こえなかったのか? 俺は『妹』をだいざいにしたライトノベルを書く! 小さな女の子がだいきすぎて、ついにかわいい小学生をヒロインにしためいさく小説を書き上げちまったあの人みたいに! ぜんだいき売れっ子作家さまが、はだかでピアノきながら、めちゃくちゃえろくて面白いラブコメのこうそうっているみたいに! えっちな絵を描くのが大好きなあの人が、いつも俺を感動させてくれているみたいに──」


 俺はいったんいきい込んでから、言い切った。


「俺は、世界でいちばん大好きなモノを書く! 俺の心を素材ネタにして〝きゆうきよくのラノベ〟をつくってやるぜ!」

「──っ!」


 妹の顔は、ほのおみたいに赤くなった。ヘッドセットをわしづかみにして、かぶる。

 スピーカーでかくちようされた声で、火をくようにさけぶ。


! ! ! ! ! ! !」


 すべてを焼きくすようなはげしいきよぜつ

 妹に、俺のこととどかない。

 そして……

かずの』のとびらは、ふたたびかたくざされる。

 ぎりの心と同じように。


 数日がち、五月もなかばに差しかった。

 あれから紗霧とは、一度たりとも顔を合わせていない。

 対話する前よりも、さらに関係はあつし……扉の前に食事を置いても、そのままになっていることが増えてきた。あんなに楽しそうにやっていたどうはいしんさえ、ぴたりと止まっている。

 しんぱいで心配でむねけそうだったし、おれが妹にあくえいきようを与えてしまったのかと思うと、ざいあくかんで死んでしまいそうになる。

 それでも俺は、ちよくしようせつを書き続けた。妹に食事を用意してやり、声を掛け続けた。

 やる気MAXファイヤーで、できることをやるのだ。

 最後のボツをらってから、俺はへんしゆうげん稿こうをいっさいていしゆつしていない。プロットや、かくしよもだ。

 そくひつさつとして(編集部に対して)売っている、和泉いずみマサムネとしては、いまだかつてないことではあるが──俺は、いま手がけている『妹小説(タイトル未定)』について、これまでとはやり方を変えることにしたのだ。

 数打ちゃ当たる〝たま〟のひとつとしてしようするのではなく。

 かならずや、死んでも『この作品』を世に出すと決め、こしえた。

 しくもそれは、俺がデビューする前にやっていたやり方そのもので──速筆をかしプロ作家として生き残るために、切りてたやり方でもあった。

 いままでうまくいっていた──まがりなりにもプロで通用していたやり方を、はんだんで変え、新しいだいざいちようせんするのは楽しかったし、げんのモチベーションがいてくる。

 もちろん、いいことばかりじゃない。

 たんとう編集には、つい先日、『今週中になんか出してね』と言われたのだが……。

 ……仕事相手に『原稿をってくれ』ってたのんだのは、始めてだ。

 向こうにせつていされため切りを、自分からきよするのは、俺にとって、とてもこわいことだ。

 これで俺の作家せいめいが終わってしまうんじゃないか、という不安さえある。

 もう二度と、本をしゆつぱんすることは、できなくなるかもしれない。

 じつさいには、そこまできびしくはないのかもしれないが、担当編集の『じゃあ、ゆっくり考えてください』というやさしく聞こえた言葉が、たまらなくおそろしい。

 俺が原稿を出さないでいたら、どんどん他の作品に、しゆつぱんわくうばわれていってしまう。

 書いても書いても、なんじゆつさつぶんのぶんしようを書いても、一冊も本が出せなくてくじけそうになった、一昨年おととしみたいに。

 いつの間にか、おれすわせきは、なくなってしまう。ファンにさえ、忘れられてしまう。

 きわめてげんじつのあるそうぞうが、ずっとまとわりついていた。

 きようを、俺は、デビュー以来初めて味わっていた。

 一番きなモノをだいざいに、やる気MAXファイヤーで書きまくっている俺は──

 バトルしようせつをやめて、妹小説を書いている俺は──

 うまくいっていたやり方を変えて、うまくいってなかったころのやり方に戻した俺は──

 わくわくと心おどらせながら、同時に、不安で押しつぶされそうになっていた。

 初めて小説を書いたときのように──

 ポジティブとネガティブのはげしいなみを、こうり返しながら、書き進めていった。

 こうふんと恐怖をむねいて、細いロープをわたっていく。

刊行シリーズ

エロマンガ先生(13) エロマンガフェスティバルの書影
エロマンガ先生(12) 山田エルフちゃん逆転勝利の巻の書影
エロマンガ先生(11) 妹たちのパジャマパーティの書影
エロマンガ先生(10) 千寿ムラマサと恋の文化祭の書影
エロマンガ先生(9) 紗霧の新婚生活の書影
エロマンガ先生(8) 和泉マサムネの休日の書影
エロマンガ先生(7) アニメで始まる同棲生活の書影
エロマンガ先生(6) 山田エルフちゃんと結婚すべき十の理由の書影
エロマンガ先生(5) 和泉紗霧の初登校の書影
エロマンガ先生(4) エロマンガ先生VSエロマンガ先生Gの書影
エロマンガ先生(3) 妹と妖精の島の書影
エロマンガ先生(2) 妹と世界で一番面白い小説の書影
エロマンガ先生 妹と開かずの間の書影