第三章 魔道書は静かに微笑む "Forget_me_not." ③
「戦って、何になるんですか?」逆に、神裂の方が戸惑っているようだった。「たとえ私を倒した所で、背後には
それはそうだろう。
彼女達が本当にインデックスの仲間だったというなら、彼女を道具のように扱う教会のやり方に反発したはずだ。そこで反発できなかったという事は、それだけ力の差を示している。
「うるっ……せえっつってんだろ!!」
それでも、そんなの、関係ない。
ガチガチと。今にも死にそうな体を無理矢理に動かして、目の前の
何の力もないただの眼光に、ロンドンで十指に入る魔術師は一歩後ろへ下がっていた。
「んなモン関係ねえ! テメェは力があるから、仕方なく人を守ってんのかよ!?」
「違うだろ、そうじゃねえだろ!
ボロボロの左手で、神裂の
「テメェは、何のために力をつけた?」
ボロボロの右手で、血まみれの
「テメェは、その手で
力も何も出ない拳を、神裂の顔面へと
それでも、神裂は投げ出されるように後ろへ倒れ込んだ。
手を離れた
「だったら、テメェはこんな所で何やってんだよ!」崩れた神裂を、見下ろすように、「それだけの力があって、これだけ万能の力を持ってるのに……何でそんなに無能なんだよ……」
ぐらり、と地面が揺れる。
そう思った瞬間、上条の体は電池が切れたように地面に崩れ落ちた。
(起き、ろ……反撃が、くる……)
視界が、
上条は出血多量で視力も回復しない体を無理矢理に動かして、神裂の反撃に備えようとした。なのに、体は指先一本を、イモ虫のように動かすのが精一杯だった。
しかし、反撃はこない。
こない。
2
上条は、
「とうま?」
驚く事に、窓の外から明るい日差しが
はっきり言って、あまりにも釈然としないため、素直に生きてる事を喜ぶ事もできない。
ただ、インデックスの側にあるちゃぶ台の上にお
「ったく、まるで……病人みてえだな」
一晩じゃないよ、と答えるインデックスはどこか鼻をぐずらせているようにも見える。
「?」と、上条が
「三日」
「みっか……って、え? 三日!? 何でそんなに眠ってたんだ
「知らないよ、そんなの!!」
突然インデックスが思いっきり叫んだ。
まるで八つ当たりみたいな声に上条が思わず息を詰まらせると、
「知らない。知らない、知らない! 私ホントに何も知らなかった! とうまの家の前にいた、あの炎の魔術師を
その言葉の刃は、上条に向けられているものではない。
自分自身を切り刻むような声色に、上条はますます威圧されて声が出せなくなる。
「とうま、道路の真ん中に倒れてたってこもえが言ってた。ボロボロになったとうまを担いでアパートまで連れてきたのもこもえだった。その
インデックスの言葉が、ピタリと止まる。
ゆっくりと、決定的な一言を告げるために空けた、息を吸い込むわずかな時間。
「……、私は、とうまを助けられなかった」
インデックスの小さな肩は震えていた。その下唇を
それでも、インデックスは、自分のための涙は見せない。
わずかな感傷や同情すらも許さないという、徹底した心の
だから、代わりに考える。
三日。
襲撃しようと思えばいくらでもできたはずだ。いや、そもそも三日前、上条が倒れた時点でインデックスは『回収』されていてもおかしくなかった。
じゃあ、何で?
……いや、それ以前に『三日』という言葉にはもっと深い意味があったような気がする。ざわざわと背筋に虫が
「? とうま、どうかした?」
が、ギョッとした上条をインデックスは不思議そうに見ただけだった。上条の事を覚えているという事は、まだ魔術師達は記憶の『消去』をしていないらしい。それでいて、この様子だとインデックスにはまだ自覚症状は現れていないようだった。
上条はホッとすると同時に、貴重な最後の三日間を無駄遣いした事に自分で自分を殺したくなった。だが、その事は胸の内に
「……、ちっくしょ。体が動かねえな。何だこりゃ、包帯でもぐるぐる巻いてあんのか」
「痛くない?」
「痛いって、あのな。そんなに痛かったらのた打ち回ってるっつの。何だよこの全身包帯、お前ちょっと
「……、」
インデックスは何も言わなかった。
それから、ついに耐えられなくなったという感じで、じわりと涙が
何かを叫ばれるよりも、それはよっぽど上条の中心に突き刺さった。そしてようやく知った、痛みを感じない方が危ない状態だという事に。
上条は、右手を見る。
包帯でグルグル巻きになって、壊れに壊れた右手。
「そういや、
「……、うん。『普通の人』と『超能力者』は回路が違うから使えないけど」少女は不安そうに、「一応、
「確かにそれもあるけどな。────けどま、魔術なんて使わなくっても大丈夫だろ」
「……、なんて」インデックスは上条の言葉にムスッと口を
そういう意味じゃねーよ、と上条は
「……できる事なら、お前が魔術語ってる時の顔ってあんま見たくねーからな」