1-⑤

「たいがあ、遅かったじゃん! 始業式、さぼったね!?」

「寝坊しちゃったの。そんなことより、今年ことしもみのりんと同じクラスでよかった」

「うん! 私もうれしいよ!」


 くしえだ、その人である。

 手乗りタイガーにそのまんま「たいがあ」と呼びかけ、親しげに髪に触って笑いかけている。みのりん、などと呼ばれている。

 ぼうぜんとそれを眺める竜児の耳に、だれかのささやきが飛び込んだ。


「初戦は手乗りタイガー・あいさかの勝利だな」

「ていうか、たかって見た目が怖いだけで別に全然ヤンキーじゃないらしいし」

「え? そうなん?」

「そりゃー手乗りタイガーにはかなわないなあ。なにしろあっちは本物だから」

「高須くん、大丈夫? 逢坂にしょっぱなからみ付かれるとはさいなんだったな」


 ──誤解は、竜児が思っていたよりもずっと早く解けそうだ。

 が。



    ***



 手乗りタイガーには「逢坂たい」というすごい本名があったこと。

 その身長は百四十五センチであること。

 逢坂大河と櫛枝実乃梨はいわゆる親友関係であること。

 そして囁かれる話によれば、彼女の父親は極道で日本の裏社会を牛耳っている、だとか、もしくは天才空手家でアメリカの裏社会を牛耳っている、だとか。彼女自身も空手の有段者だが師匠をやみちしたために破門になった、だとか。

 入学当時は一見はかなげな美少女ぶりに勘違いするやつが続出し、言い寄る男も後を断たなかったという。しかし全員見事に玉砕、すごまれ、まれ、引き裂かれ、むごい言葉でなぶられて再起不能になるやつも多数。あいさかが通ったその後は男のむくろで道ができたとか。

 とにかく逢坂たいに関しては、黒いうわさが後を絶たない。うそまこともとりあえず、校内最高ランク危険生物であるのはたしかだ。

 りゆうがそんな話を知ったのは、始業式の日から数えて幾日かったころだった。

刊行シリーズ

とらドラ・スピンオフ3!俺の弁当を見てくれの書影
とらドラノ全テ!の書影
とらドラ10!の書影
とらドラ・スピンオフ2!虎、肥ゆる秋の書影
とらドラ9!の書影
とらドラ8!の書影
とらドラ7!の書影
とらドラ6!の書影
とらドラ5!の書影
とらドラ・スピンオフ!幸福の桜色トルネードの書影
とらドラ4!の書影
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