魔法科高校の劣等生(1) 入学編〈上〉
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魔法。
それが伝説や御伽噺の産物ではなく、現実の技術となったのは何時のことだったのか。
確認できる最初の記録は、西暦一九九九年のものだ。
人類滅亡の預言を実現しようとした狂信者集団による核兵器テロを、特殊な能力を持った警察官が阻止したあの事件が、近代以降で最初に魔法が確認された事例とされている。
当初、その異能は「超能力」と呼ばれていた。純粋に先天的な、突然変異で備わる能力であって、共有・普及可能な技術体系化は不可能と考えられていた。
それは、誤りだった。
東西の有力国家が「超能力」の研究を進めていく過程で、少しずつ、「魔法」を伝える者たちが表舞台に姿を見せた。
「超能力」は「魔法」によって再現が可能となった。
無論、才能は必要だ。だが、高い適性を有する者のみがプロフェッショナルと呼べるレベルまで熟達できる、という意味では、芸術分野、科学分野の技能も同じ。
超能力は魔法によって技術体系化され、魔法は技能となった。
「超能力者」は「魔法技能師」となった。
核兵器すらねじ伏せる強力な魔法技能師は、国家にとって兵器であり力そのものだ。
二十一世紀末──西暦二〇九五年を迎えても未だ統一される気配すら見せぬ世界の各国は、魔法技能師の育成に競って取り組んでいる。
国立魔法大学付属第一高校。
毎年、国立魔法大学へ最も多くの卒業生を送り込んでいる高等魔法教育機関として知られている。
それは同時に、優秀な魔法技能師(略称「魔法師」)を最も多く輩出しているエリート校ということでもある。
魔法教育に、教育機会の均等などという建前は存在しない。
この国にそんな余裕は無い。
それ以上に、使える者と使えない者の間に存在する歴然とした差が、甘ったれた理想論の介在を許さない。
徹底した才能主義。
残酷なまでの実力主義。
それが、魔法の世界。
この学校に入学を許されたということ自体がエリートということであり、入学の時点から既に優等生と劣等生が存在する。
同じ新入生であっても、平等ではない。
例え、血を分けた兄妹であっても。