第一章 プリン一個で終わる世界 11
膨大な電気的エネルギーと化した塊が時速五キロで遠くからゆっくりとこちらに接近してくる。ビルとビルの間を太い紫電が突き抜け、周囲の高層ビルをぐらんぐらんと揺らしながら。
人型だった。
二足歩行の雷神が降臨していた。
そして
「なーんだ怪獣怪獣ってまたパチンコのCMじゃんか」
「違います先輩!! ちゃんと現実を見てーっ!!!!!!」
泣き叫びながら鉄装が遠い目をした黄泉川の肩を掴んでがくがく揺さぶる。
ド派手な演出を受け止められなくなっている場合ではない。現実に恐るべき脅威は着実にこちらへ接近を続けている。
ずん、とアスファルトが低く震動した。
ずずん!! と。遠くから見ても高層ビルの群れが免震構造の限界を超える勢いでゆっくりと左右に揺れ、その下を何か見てはならないものがゆっくり進んでいるのが分かった。
雷神化した御坂美琴。
しかもなんかもう一人、それとは別に花で飾った女神が出現して勝手に激突している。
カタストロフはこっちに向かって少しずつ着実に近づいてきている。
多分連中は右往左往する人間なんかいちいち見てない。怪獣同士で互いに衝突し、どこか百合み溢れる感じで絡み合いながら全てを破壊していくだけだ。
黄泉川愛穂が現実に戻ってきた。
彼女がまず部下に指示を出したのはこれだった。
「ひとまず
「そ、そんな事言われましても」
「うるせえーそっちのロケット砲を寄越せ鉄装。あんな子達を矢面に立たせて私だけ生き残るくらいなら自分の手で戦ってやるじゃんよ……」
「だからその攻撃許可が下りていないんですってえ先輩!!」
わたわたしたやり取りを耳にしつつ、バーコード頭にメガネの小柄な
実際、食料の買い占めや鉄パイプを斜めに切っての即席武器を作るなどなど全く無駄な努力を続けて右往左往する一般人よりも、高度な銃器を支給された専門家である
これでは絶対に勝てない、と。
「どうすんですかこれ、ほんと何すれば良いんだよう……」
「オイこらバリケードを作れっ。鉄装、武器を捨てても事態は変わらないじゃんよ!!」
震動のプレッシャーに耐えられず、砲弾でも待ち受けるように次々とその場で丸まっておまんじゅう化してしまう若い
「それより攻撃許可は!? 不調気味の防犯カメラや警備ロボットでは偵察もままならないじゃん。上からの許可がない事には装備があっても安全装置の解除すらできないじゃんよ!!」
「それが役員クラスの人は皆さん応答ナシなんですうー」
「現場に出るのを嫌う校長だの教頭だのはこれだから……。じゃあどうやって戦うじゃん!? もうでっかい台風が二つまとめてこっちに突っ込んでくるじゃんよお!!」
「ひいい、そんなの私に聞かれましてもおー」
……実際にはネットワークに侵入した美琴が各種電子サインや暗号鍵にイタズラして必ずエラーが発生するように細工をしていたのと、件の役員クラスとやらは軒並み『事前に』食蜂から洗脳されていたので役立たず状態になっていたからなのだが。
ボスボスボスボス!! とビル街の根元で灰色の粉塵がいくつも重なった。
ここから見れば小さいが、実際には一つ一つの粉塵は軽く二〇メートルを超えている。まるで爆発する砲弾を連続で解き放つ速射砲か自動擲弾砲の猛攻でも浴びたようだった。あの一発一発でそこらのコンビニくらいなら粉々に吹っ飛ぶはず。あんなに連射を浴びたらエリア一帯の空間など丸ごと制圧されてしまう。
おそらくだが、攻撃許可を待たず勝手に攻撃を始めた
いくら装備があっても有志が散発的に攻撃するだけではダメなのだ。
陸と空で連携を取って大々的な反攻作戦を行うためには全員に号令をかけ、適切に人員を運用するための戦略は必須だ。攻撃許可のアリナシなどその最初のスタートに過ぎないというのに……。
黙っていたらアレがこっちに来る。
あの怪獣どもは完全に理性は焼き切れているようだし、武装した人間を見ただけで『敵性アリ』扱いされたら彼らの命も風前の灯だ。
そんな中、楽丘豊富は銀色の硬質な輝きを目にした。
ジュラルミンでできた四角いケースを同僚四人がかりで重たそうに運んでいる。
「何それついに出てきた対艦用の次世代兵器ですか!?」
ハゲ頭の小さなおっさんがゴツい鍵つきのジュラルミンケースを慌ててひったくると、中からは厳重に封をした手紙がたくさん出てきた。
隊員達の遺書をまとめたボックスだった。
「もうやだ白旗揚げる!! 私は実家に帰りますう!!!!!!」