第二章 そもそもの疑問 1
結局今何が起きてるの?
これが電子機器を使ったバーチャルじゃないなら学園都市がとんでもない勢いでぶっ壊れていくのは何とかしないといけないし、美琴自身だって雷神化(?)を早く解除しないとヤバい事になる。確かこれ、数分くらいで限界が来て内側から大爆発を起こし、学園都市全域を粉々に吹き飛ばしかねない代物ではなかったか。しかも困った事に、自力での解除はできない。
多分だが、対抗するようにドスケベを司る女神と化した食蜂操祈サイドも似たようなリスクを抱えているはず。
ていうか両目が光ってる人、この状況でも雄叫びを上げてこちらに突っ込んでくるけど!?
『ちょっ、待った待て食蜂ちょっとタイム!! ヤバいってこれ単なるバーチャルじゃないわ普通に現実の学園都市っぽい可能性あるんだけどいったん冷静になって今このコレ変な状況について二人で話し合って情報交換してみなi
『うるせえコラ今日という今日こそあなた本気力でぶち殺してhkrhhkrybmrif、ghslbndhmspvmehygbikigdbmdekgmdufkrmdhgldmvkrngldhdenhfiesnhr。mgjsnvgmpshfksnf!!!!!!』
天使さんを丸ごと吸収して発展した花と美の女神様、言語がバグっていて会話になりゃしねえ。
しかも美琴側が両手の掌を前に出して停戦の構えを見せているというのに、バカの女王は容赦なくビルを輪切りにできる威力の光り輝く巨大な花弁で斬りかかってきた。
もしここがただの現実世界だったらどうする?
リセットもコンティニューもない。一人でも一般人を死なせてしまったら取り返しがつかなくなるって状況をこのバカほんの少しでも理解してんのか!?
ぶちっと雷神美琴のこめかみで嫌な音がした。
『いったん冷静になれッこの金色おっぱいモンスターがァ!!!!!!』
威力は凶悪でも(ベースが運動音痴だからか)大振りな攻撃をかわすと美琴は食蜂の後ろに回り、両腕をその細い腰をがっちり捕らえてから後ろへ大きくブリッジ。そのまんまアスファルトの上に頭のてっぺんから落とす。落雷のようなバックドロップであった。ていうかついでに一〇億ボルトの高圧電流も叩き込んでおいた。
具体的には溢れ出た太い紫電の枝があらぬ方向に伸び、あまりの高温で近くにあった公園の砂場がつるりとした塊に変化するくらいの勢いで。落雷が原因で生じる鉱物のフルグライトだ。とはいえ主成分は単なるケイ素なのでお値段はガラスの塊と似たり寄ったりだが。
しかしひっくり返って両足を天高く突き上げた食蜂操祈はまだ負けない。
ばぢんっ!! と内側から弾けるような音が炸裂した。がっちり腰に両腕は回していたはずだが、背中から飛び出した光り輝く花弁が隙間に潜り込んできて、内側から左右にぐいっと広げ、強引に美琴のホールドを外してしまったのだ。
(ヤバいッ)
『hriwhnbigtbs!!!!!!』
もう何言ってんだかヒントもないけど、とにかく血走った目でこっち見た食蜂が背中の巨大な花弁を膨らませる。死の斬撃が来る!?
美琴は思わず奥歯を噛み締めて、
『ッッッ!!!??? ……あっ?』
運動音痴が勝手にコケた。
食蜂と連動している数十メートル規模の鋭い花弁が一緒に振り回され、近くの高層ビルが斜めに切り飛ばされる。美琴が膨大な磁力を使って押し留めていなければ二人まとめてコンクリの土砂降りを浴びていたところだ。
流石精神や心理の専門家、つくづく動きが読めない。
『食蜂操祈っ。アルコールなんか一滴も呑まずに幻の拳法
『違いますぅ!!』
がばっと顔だけ上げた常盤台のクイーンは顔を真っ赤にして叫ぶ。
恥で日本語が戻った。
『とにかくこれ神様モードって放っておくと私もアンタも何分もしない内に耐えられなくなって内側から大爆発を起こすんでしょ! 早く神様化を解除する方法を見つけないと!!』
『はいセルフ「
『食蜂てんめぇ一人だけェェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!???』
美琴の恨めしい絶叫を後目に、食蜂操祈は自分のこめかみにテレビのリモコンを押しつけると一発で普通の人に戻ってしまう。
食蜂側のブーストは、彼女自身の『
(……うーん。私もそれなり以上に『持ってる』方だとは思っていたんだけどぉ、でも爆から巨に戻るとやっぱりちょっと寂しさを感じるわねぇ)
自分のタイヘン豊かな胸元へ無遠慮に両手をやって、貧に聞かれたら一発で黒焦げにされそうなゼータク発言を思い浮かべるおっぱいセレブ食蜂。
知らぬが仏な人が必死に叫んでいた。
『あっ、あうあう! そうだその「
「御坂さんの頭にだけは通じないって前提力を忘れたのぉ? 『
『それができたら誰も苦労はしないっつーの!!』
「精神系なら何でもできる『
『(……決めた。私が私でいられる間にこいつ爆破しよう、オーストラリア辺りで起きる大木を縦に真っ二つにするすっげえー落雷レベルのヤツで)』
「御坂さんってそういうトコあるわよね」
追い詰められると死なばもろとも思考になる人から女王様は走って逃げて派手に転び、ミラクル回避(大変オトナなすけすけ下着パンチラあり)で高圧電流の嵐から間一髪スレスレのラインを潜り抜けていく。カミナリお化け相手に開けた空間にいても良い事はなさそうなのでひとまず大通りから狭くて暗い路地の入口に身を隠しつつ、
「ヤバいヤバいヤバいヤバい……。そういや帆風さんはどこやったっけぇ?」
その時だった。
そこで雷神は何かを見た。
街路樹の枝に引っかかったヘリウムで浮かぶゲコ太の風船であった。
スンと雷神美琴は理性を思い出し元の可憐な少女に戻った。
秒で。
食蜂操祈が反射でブチ切れた。
「あアっ!? 人を殺すつもりで散々狙い撃っておいて、ナニ自分だけカワイイアピール振り撒いて女子力稼いでんのよ御坂さぁん!!」