第二章 そもそもの疑問 2
ようやっと学園都市滅亡のカウントダウンから脱する事ができた。
美琴はひとまずその事に胸を撫で下ろす。具体的には少女らしい柔らかな起伏を。
でもまだだ。
根本的な事態は何も解決していない。今ここに広がっているこれが電子的なバーチャルではないとしたら、つまり一体何なのだろう?
(……しっかし他の可能性って言ったって。 ひとまずどストレートにただの現実世界だった、以外の線で候補を並べるとしたら)
電子的なバーチャルではなかった。これは確定。
ただ一方で、バーチャルじゃないから美琴達はただ現実世界で暴れ回っているのだ、というのも多分違う。
美琴と食蜂がしれっと夏服を着ている時点である程度時系列が確定している。つまり衣替え以降に起きた出来事の情報には制限がかかるはずなのだが、その気配が見当たらないのは何故だ?
(誰かの幻覚能力とか、前提を覆して食蜂の『
食蜂の『
時系列が噛み合わないのはどう説明する?
(何にしても、『確定』が得られない以上あんまり無茶はできないか。人の命はキホン一個でヘマしてもやり直しナシ、一般人は死なせられない、ってトコで行動のラインは引いておいた方が良さそうね)
一見博愛だけど(一般レベルじゃない)食蜂はカウントしていないのが美琴らしいか。
ゴァッ!! と。
雪崩と雪崩が空中で大きくアーチを描き、美琴の頭上で激突していた。
片やビルの屋上から屋上へ跳ぶ能力者の群れ、片や同じく屋上から大ジャンプを繰り返して殺到する無人の自動車や建設重機だ。これでタンパク質やカルシウムでできた人間の方が押し切っているというのだから学園都市の能力者はヤバい。
ていうかぶっちゃけ機械を操る美琴側が力で押されている。
学園都市超おっかない!!
「やべっ!」
(……運動音痴のくせに思考がマッチョな野蛮人め、正直付き合っていられるか。こっちはケンカする前に『確定』を取っておきたいところがあんのよマジで)
美琴としては今この状況は何なのか、目の前に広がる学園都市の『正体』はつまり何なのか、世界の真実とやらが知りたい。ただの現実なのか、幻覚能力か、インディアンポーカーのように夢を見せる機械でも使っているのか、それ次第でやれる事できる事の幅は大きく変わってくるのだから。
そうなると、
(……街の秘密を知りたいなら、中心じゃなくてむしろ外に注目するべきね)
もし何かしらの方法で幻を見せられているとしたら、一定エリア内は完全再現されていると考えた方が良い。つまり隙はない。でも逆に言えば、完全で精密に再現しようとするほど大きなパワーを使うはず。美琴と食蜂がぶつかるであろうエリアと直接関係ない場所まで全部面倒を見ている余裕はなくなるのではないか。そもそも関係あるなしの定義とはどこまでを指すのか、という問題も発生するし。本当に厳密に言えば世界とは地球一個だけを示す言葉とも限らないのだ。
つまり手っ取り早い確認方法はこれだ。
「宇宙っ」
美琴は近くの駅ビルに入って適当なインテリアショップで天体望遠鏡を手に入れる。クセでそのまま持ち出そうとしてから、ハッと気づいてお金も払っておいた。何にひねりもなくここがただの現実『かもしれない』可能性が残る以上、山賊モードが板につくのはまずい。
開けた場所が良い。最寄りの公園に向かう。
今は昼間だから満天の星空が見える訳ではないが、それでも昼間だって月の観察くらいはできる。ここから眺める事はできるが、どう考えたって美琴と食蜂のバトルとは関係のないモノ。これを調べて実際の天体とは違いがあった場合、ここはバーチャルではないもののやっぱり現実世界でもない、という結論が出る。
「どれどれ……」
太陽の位置だけは注意しつつ、美琴は天体望遠鏡を覗き込んでみた。
見えたのは月ではなかった。
学園都市製の巨大な人工衛星だ。
「?」