第二章 そもそもの疑問 4

 光を使ったレーザー系の爆撃でなかったのはせめてもの救いだった。

「ぶはっ!! じゃなけりゃ回避の暇もなく即死だわ! おおお相変わらずのゲテモノテクノロジーを未認可無警告で思う存分使ってくれちゃって学園都市めえッ!!」

 美琴はとっさに磁力を使って自分の体を真横に吹っ飛ばし、遠く離れたビルの壁に張りついてギリギリで難を逃れたが、制服も前髪も大量の水蒸気でびしょ濡れだ。威力は絞っているだろうが、学校の校庭より広い自然公園なんか丸ごと消滅している。

 あれは食蜂が洗脳した衛星管制官を使って攻撃させたのか、シンプルに学園都市の残存製力が抵抗してきたのかは不明。どっちみち美琴を狙ってくる以上、のんびり天体観測するのは難しくなってきた。迂闊に五秒立ち止まったら衛星軌道上から爆撃されると考えた方が良い。

(結局、宇宙の星がどうなってるか調べる前に攻撃されちゃったから結論出ないし……)

 逃げるついでだ。

 もう一回望遠鏡を手に入れてもじっくり立ち止まって覗き込むのは難しそうだし、宇宙開発関係のサイトで公開されている衛星からの生配信動画くらいではあてにならない。今は絶対に加工される恐れのない生のソース、自分の目で見た体験が必要だ。

 とにかく学園都市のエリア外であれば確認方法に使えるのだ。

 こうなると無理に上下方向の宇宙にはこだわらず、学園都市をまっすぐ横断して『外壁』の向こう側がどうなっているか調べた方が邪魔は少なそうだ。

「となると今一番欲しいのは衛星除けっ。とにかくいったん地下に潜るか!!」

 親指でいったんコインを弾いてから『超電磁砲レールガン』を足元に解き放つ。

 アスファルトを大きく抉り飛ばした先に待っているのは、おそらく大きな駅と連動して店舗を広げている巨大な地下ショッピングエリアだ。ケータイで『雨に濡れないで進める徒歩ルートは?』と検索すると大抵ここを経由する事になる。

 美琴は躊躇なく大穴から地下に飛び降りつつ、

「おっ、何よイベントスペースに時期限定のゲコ太アンテナショップができてるじゃない! 頭にメモメモ、世界が平和になったら遊びにこよう」

 これが得体の知れない幻やバーチャルだったらあてにはできないかもしれないが。

 ゴッ!! と。

 いきなり真横のコンクリ壁がぶち抜かれたと思ったら、鋼鉄の履帯と油圧シリンダーを練り固めたような塊が顔を出した。

 先端に巨大な松ぼっくりみたいなドリルをつけた作業アームを振り回しているのは、警備員アンチスキル装備の坑道掘削装置か。戦車みたいな履帯で走るリアル地下空間製造マシンである。

「また効率ガン無視のロマン車両を!?」

「うふふはは御坂さぁん☆ 学園都市の科学力はケタが違うのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 頭上の大穴から謎の叫びがあった。

 あれで意外とアドリブに弱いのか、食蜂がどんどんおかしくなってる。

 とはいえパワーはあっても速度は出ない重機だ。美琴はさっさと徒歩で距離を取って広大な駅の地下を走り抜けていく。

 当然ながら防犯カメラの類は美琴の能力で全て無効化できる。

(つまり地下にいる限り、宇宙からこっちを睨んでる何者かは私を見失うはず!)

 これだけ広い地下空間だ。出入口の階段だって一〇や二〇では利かない。いつかは衛星軌道上から再捕捉されるだろうが、わずかでもタイムラグが生じるならめっけもの。ヤツ(具体的に誰なんだか……)の予想を裏切る出口から外に出て束の間の自由を手に入れてしまおう。

 運動音痴のくせに無理してあの大穴から飛び降りてきたのか。特に足首をひねる事もなく食蜂もこちらを追ってくる。

 駅の地下から表の地上への階段を駆け上がりながら、美琴はこう考える。

 結局は、だ。

(一万人の無能力者レベル0よりも超能力者レベル5一人の奪い合いになりそうだけど……。食蜂の危険性を正しく説明した上で、こっちの味方になってくれる超能力者レベル5って一体誰よ? どいつもこいつもクセモノ過ぎて全く想像がつかないし……)

 そこで見かけた。

 本当にたまたまだった。

 それは学園都市でも七人しかいない超能力者レベル5とは最もかけ離れた人材だった。

 どこにでもいる平凡な高校生だった。

 ツンツン頭の少年であった。

「何だオイさっきから何が起きてるんだこの街は……?」


 もう理屈ではない。

 あいつ一人を味方につけられた方の勝ちだ。絶対に。


「おっ、おい。お前達大丈夫か? なんか街のあちこちで派手なトラブルが起きているみたいだけど」

 まさか元凶二人が目の前にいるとは思っていないのだろう。

 ツンツン頭の少年は純粋にこちらを心配していた。

 この状況でそれができる人だった。

「とにかく今は一緒に行動しよう、バラバラに逃げて迷子になっても仕方ないからな。大丈夫だって、みんなで力を合わせればどんなトラブルだって乗り越えられるから!」

 美琴も食蜂も。

 ここまで心配してくれる相手がいるのだ。

 こいつの顔に免じて。

 二人揃っていったん立ち止まってみるべきか、と思った時だった。


 落ちた。

 衛星軌道上にある巨大人工衛星から一発、謎の水系空爆が垂直に落ちた。


 ズボァ!!!!!! という轟音が炸裂した。

 上条当麻は蒸発した。

「「うわァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!???」」

 御坂美琴と食蜂操祈は同時に絶叫する。

 そして最後のブレーキは永遠に失われた。

刊行シリーズ

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