1 アインクラッド

3 ⑤

「いや……、おめぇにこれ以上世話んなるわけにゃいかねえよな。オレだって、前のゲームじゃギルドのアタマ張ってたんだしよ。だいじよう、今まで教わったテクで何とかしてみせら。それに……これが全部あくしゆなイベントの演出で、すぐにログアウトできるっつう可能性だってまだあるしな。だから、おめぇは気にしねぇで、次の村に行ってくれ」

「…………」


 だまりこんだまま、俺は数秒間、かつて覚えがないほど激烈なかつとうに見舞われた。

 そして、その後二年にもわたって俺を苦しめることになる言葉を選択した。


「……そっか」


 俺は頷き、一歩後ろに下がると、かすれた声で言った。


「なら、ここで別れよう。何かあったらメッセージ飛ばしてくれ。……じゃあ、またな、クライン」


 眼を伏せ、振り向こうとした俺に、クラインが短く叫んだ。


「キリト!」

「…………」


 視線で問いかけたが、頰骨のあたりが軽くふるえただけで、続く言葉はなかった。

 俺は一度ひらりと手を振り、体を北西に──次の拠点となるべき村があるはずの方角へと向けた。

 五歩ほどはなれたところで、背中にもう一度声が投げ掛けられた。


「おい、キリトよ! おめぇ、本物は案外カワイイ顔してやがんな! 結構好みだぜオレ!!」


 おれは苦笑し、肩越しに叫んだ。


「お前もその野武士ヅラのほうが十倍似合ってるよ!」


 そして俺は、この世界で初めてできた友人に背を向けたまま、まっすぐ、ひたすらに歩き続けた。

 左右に曲がりくねる細い路地を数分進んだところで一度振り向いたが、もちろんもうだれの姿も見えなかった。

 胸をふさぐような奇妙な感情を歯を食いしばって吞み下し、俺は駆け出した。

 はじまりの街の北西ゲート、広大な草原と深い森、それらを越えた先にある小村──そしてその先にどこまでも続く、果てなき孤独なサバイバルへと向かって、俺は必死に走り続けた。

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