1 アインクラッド
16 ②
「こ、こっち……見ないで……」
アスナは両腕を体の前で組み合わせてもじもじしていたが、やがて顔を上げてまっすぐこちらを見ると、優美な動作で腕を下ろした。
俺は
美しいなどというものではない。青い光の粒をまとった
単なる3Dオブジェクトなどでは決してない。たとえれば、神の手になる彫像に魂を吹き込んだようなと言うべきか──。
SAOプレイヤーの肉体は、初回ログイン時にナーヴギアが大まかにキャリブレーションを取ったデータをもとに半ば自動生成的に作られている。それを考えれば、ここまで完璧な美しさを持つ肉体が存在するのは奇跡と言ってよい。
俺は
アスナは、
「き、キリト君もはやく脱いでよ……。わたしだけ、は、恥ずかしいよ」
その声に、俺はようやくアスナの行動の意図するところを理解した。
つまり、彼女は──俺の、今夜
それを理解すると同時に俺は底なしの深いパニックに陥った。結果、これまでの人生で最大級のミスを犯すこととなった。
「あ……いや、その、俺は……ただ……今夜、い、一緒の部屋に居たいという、それだけの……つもりで……」
「へ……?」
自分の思考を
「バ……バ……」
握り
「バカ──────ッ!!」
「わ、わあー、待った!! ごめん、ごめんって! 今のナシ!」
構わず
「悪かった、俺が悪かった!! い……いや、しかし、そもそもだなぁ……。その……で、できるの……? SAOの中で……?」
ようやく攻撃姿勢をやや解除したアスナが、怒りの冷めやらぬ中にも
「し、知らないの……?」
「知りません……」
すると、
「……その……オプションメニューの、すっごい深いとこに……《倫理コード解除設定》があるのよ」
まるで初耳だった。ベータの時には間違いなくそんな物はなかったし、マニュアルにも載っていない。ソロプレイに
だが、その話は
「……その……け、経験がおありなんです……?」
再びアスナの
「な、ないわよバカ────ッ!! ギルドの子に聞いたの!!」
俺は慌てて平伏しつつ謝りに謝り続け、どうにか
テーブルの上にたった一つだけ
アスナは
「悪い、起こしちゃったな」
「ん……。ちょっとだけ、夢、見てた。元の世界の夢……。おかしいの」
笑顔のまま、俺の胸に顔をすりよせてくる。
「夢の中で、アインクラッドのことが、キリト君と会ったことが夢だったらどうしようって思ってとっても怖かった。よかった……夢じゃなくて」
「変な
「帰りたいよ。帰りたいけど、ここで過ごした時間がなくなるのは
ふと真顔になり、肩に掛かる俺の右手を取ると、胸にきゅっと抱いた。
「…………ごめんね、キリト君。ほんとなら……ほんとなら、わたしが決着をつけなきゃ、いけなかったのに……」
俺は小さく息を吸い、すぐに長く
「いや……、クラディールが
アスナの
ヘイゼルの瞳に薄く涙を
「わたしも……背負うから。君が背負ってるもの、全部
それこそは──。
かつての俺が、今に至るまでついに一度として口にできなかった言葉だった。しかしこの
「……俺も」
ごくごくかすかな声が、
「俺も、君を守るよ」
そのひと言は、情けないほどに小さく、
「アスナは……強いな。俺よりずっと強い……」
すると、ぱちくりと
「そんなことないよ。わたし、もともと向こうじゃ、いつも
何かを思い出したようにくすくす笑う。
「お兄ちゃんが買ったんだけどね、急な出張になっちゃって、わたしが初日だけ遊ばせてもらうことになったの。すっごい
身代わりになったアスナのほうが不運だと思うが、ここは
「……早く帰って、謝らないとな」
「うん……。がんばらないとね……」