1 アインクラッド
18 ②
ニシダは声をひそめるように言った。俺とアスナが身を乗り出す。
「どうやら、主がおるんですわ」
「ヌシ?」
異口同音に聞き返す俺とアスナに向かってニヤリと笑ってみせると、ニシダは眼鏡を押し上げながら続けた。
「村の道具屋に、一つだけヤケに値の張る釣り
思わず
「ところが、これがさっぱり釣れない。散々あちこちで試したあと、ようやくあそこ、唯一難度の高い湖で使うんだろうと思い当たりまして」
「つ、釣れたんですか……?」
「ヒットはしました」
深く
「ただ、私の力では取り込めなかった。
両腕をいっぱいに広げてみせる。あの湖で、
「わあ、見てみたいなぁ!」
目を
「キリトさんは筋力パラメータのほうに自信は…?」
「う、まあ、そこそこには……」
「なら
「ははぁ、釣り竿の《スイッチ》ですか。……できるのかなぁそんなこと……」
首をひねる俺に向かって、
「やろうよキリト君! おもしろそう!」
アスナが、わくわく、と顔に書いてあるような表情で言った。相変わらず行動力のある
「……やりますか」
俺が言うと、ニシダは満面に笑みを浮べて、そうこなくっちゃ、わ、は、は、と笑った。
その夜。
寒い寒いと俺のベッドに
「……いろんな人がいるんだねえ、ここ……」
「愉快なおじさんだったなぁ」
「うん」
しばらくクスクス言っていたが、不意に笑いを引っ込めて、
「今までずーっと上で戦ってばっかいたから、普通に暮らしてる人もいるんだってこと忘れてたよ……」と
「わたしたちが特別だなんて言うわけじゃないけど、最前線で戦えるくらいのレベルだってことは、あの人たちに対して責任がある、ってことでもあるんだよね」
「……
「今はキリト君に期待してる人だっていっぱいいると思うよ。わたしも含めてね」
「……そういう言われ方すると逃げたくなる
「もう」
不満そうに口を
エギルやクラインから届くメッセージで、七十五層の攻略が難航していることは知らされていた。しかし、俺にとってはここでのアスナとの暮らしが今いちばん大切なのだと、心からそう思えた。