二章 狐の見舞い ⑬

 神社はたんさくしたが、寺はその所在すらあくしていない。しようのものとおぼしきしきにいたっては、たんさくを後回しにして門前を通りすぎてしまった。


「見落としてました……よくクエスト発動のフラグが立ちましたね」


 とらが困ったように頭をく。


「まあ、運営側としてはそれでいいんだけど……日誌の発見をひつ条件にすると、城へのとつにゆうまえにあらかたの流れが読めてしまうからね。制作者もそれはけたかったようだし、私も同感だ。ホラーでは特に、〝わからない〟ことが重要なスパイスになる。ゆうれいの正体見たりばな、なんて言葉もあるし、くつや背景がわかってしまうとこわくないもんさ。テストプレイではそうもいかないけれどね」


 コヨミがからからと笑った。


「実際あるよねー、よくわかんないクエスト。クリアしてほうしゆうもらったけど、結局ストーリーはよくわかんなかった、みたいな……で、後から解説読んでなつとくするの」


 クレーヴェルがわざとらしく微笑ほほえみ、ステッキの先をゲートに向けた。


「それはそれで想像の余地が大きくて、おもむき深いとも思うがね。さて……そろそろとつにゆうするとしようか。先日より目的も明確になった。まずは《楽器》のたんさく、しかる後に合流、そしてボス退治──準備はいいかな?」


 鳥居型のゲートに進もうとしたクレーヴェルのすそを、コヨミがあわててつかんだ。


「ちょい待ち、ちょい待ち! もう一個、かくにんしときたいことがあってさ。きつねめんの男の子、いたじゃん? なんか道案内してくれそうな気配だったけど、あれって信用していいの? もしかしてあの子がラスボスだったりしない?」

「あのNPCはおそらく味方だ。確証はないが、かれの存在自体がこうりやくのヒントであり、かぎの一つであることはちがいない。そうでしょう? とらさん」


 ゆうゆうとしたたんていの問いに、とらが不思議そうな顔を返した。


きつねめんの男の子……?」

「ええ。城へのとつにゆう直後に出てくる子供です。きつねのお面をつけて、かすりの着物を着た──」


 ナユタが補足すると、とらの目元が不自然にゆがんだ。

 そしてかれは、よくようの消えた声でいぶかしげにつぶやく。


「……この《ゆうれいばや》に、プレイヤーの道案内をするようなNPCは登場しない。きみたちは……いったい何の話をしているんだ……?」


 とらこんわくは一同にでんし、冷めたちんもくおとずれる。

 ナユタは無意識のうちにこぶしにぎみ、ゆっくりと深く息をんだ。


 ──どこか遠くから、まるでノイズのように、びしげな祭りばやの音色が聞こえた。

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