I ―スクワッド・ジャム―

序章 ①

「そうだ、レンちゃん」

「なにー? ピトさん」

「《スクワッド・ジャム》って大会をかいさいするってニュースメールは、読んだ? 今朝けさ来てたんだけど」

「…………。イカの……、ジャム?」

「うわっ! 変なもん想像させないでよ!」

「でも、イカのしおからって、言わば……、それじゃない?」

「ま……、そうね。そうかもね」

「わたし、結構好き! で、ほかほかのご飯といつしよに食べるの!」

「私はお酒のつまみ。どっちかというと、しゆとうの方が好きだけど」

「酒盗いいよね! ぬすみたくなるよね!」

「あんた……、私のおくが確かなら、リアルワールドでは未成年でしょ?」

「もちろんお酒なんて飲まないよ。でも、つまみは好きなのですよ。父や兄達がお酒を飲むとね、ウチじゃ必ず出てくるからね」

「なるほど……。兄が複数いるのか。また、リアルのことばらしちゃったね、レンちゃん」

「あ……」

「まあ、私は別にどうこうしないけど、会話には気をつけてね。特に、私達みたいな女子は。細かな情報を集めに集めて、ときにかまをかけて聞き出して、ネットけんさく使してリアルを割り出しちゃうヤツ、結構いるから」

「気をつけます……。ありがとうございます」

「ほらまた敬語! 要らない! 〝この世界〟ではだれもが対等! タメる! タメるとき! タメろ!」

「がってん! ピトさん!」

「よしよし。──って今はゲーム大会の話! 何がかなしゅーて、女二人でイカの塩辛の話をしなきゃならんのかね? しかもヴァーチャルオンラインゲームの中で!」

「まあ、確かに」

「しかも、ばくじゆうを抱えてね」

「不思議だよねえ」



 岩と砂の砂漠に、女が二人いました。

 そこは、太陽が見えないほど、黄色くどんよりとした雲が空をおおっている世界。風がないので動きはありませんが、えんらいにぶく光っては、不気味なうなり声を上げていました。

 大地にあるのは、茶色い砂と、砂になりかけている大小様々な大きさの石と、その石を作り続けている岩。遠くにどうにか見えるのは、ななめになって立ち並ぶ、はいきよとなった高層ビルの群れ。

さつばつ〟という言葉しか似合わない場所で、二人は横に並んで、自動車ほどの大きな岩のかげで両足を前に投げ出して座り、


「で……、その、〝スク──、なんとか〟って、何?」

「よくぞ聞いてくれた!」

「いやいや、ピトさんが言い出したんだし」

「そうだっけー? あたしゃ覚えないなー」

「やれやれ、ピトさんのリアルはおばあさんでしたか」

「ああ! しまったっ!」


 まるで週末のファミリーレストランにいるかのように、かしましく談笑を続けていました。ただしここでは、どんなに大声で会話しても、とがめる人はだれもいません。

 二人の内の一人、


「いやあ、別にかくすわけじゃないけど、いや──、リアルねんれいは隠してるけどさ、そんなに年寄りでもないんだよ? もちろん、レンちゃんみたいに未成年、なんてピチピチじゃないけどさ!」

「ピトさん……。〝ピチピチ〟って、もう死語じゃない? 少なくとも、大学で使ってる人、いない」

「はい、レンちゃんは現役大学生! 前から思っていたけどやっぱりか! また一つ判明しましたー!」

「しまったあああああ!」


 先ほどから〝レンちゃん〟と呼ばれているのは、女というよりは少女、を通りして子供でした。

 全身がピンクの子供でした。

 ピンクといっても可愛かわいらしい〝ももいろ〟ではなく、明度を落とすために茶色を混ぜ込んだ、くすんだピンクです。

 150センチにだいぶ足りない身長に、きやしやな体格。丸みを帯びた顔には、くりっと大きなひとみが並び、さらに見た目の年齢をし下げています。

 かみは、ややい目の茶色で、ボーイッシュなショートカット。その上に、ニットキャップをかぶっています。

 ピンクなのは服装です。上下とも、形はよくあるせんとうふく。すなわち、カーゴパンツに似たズボンと、ながそでのコンバットシャツ。ももの左右に、細長いポーチを装備しています。足には、編み上げのショートブーツ。


「ほんとー、気をつけないとだめだよー。どんどん分かっちゃうよー?」

「ピトさんが口が上手うまいのがいけない! この、!」

「まあねー」

「え? わたしめてないよ?」

「なるほど。今からか」

「うん。その予定もないよ?」

「えー、私は〝褒められてびるタイプ〟なんだけどなあ」

「ピトさーん、それ、自分で言う台詞せりふじゃないよ?」


 二人の内のもう一人、先ほどから〝ピトさん〟と呼ばれているのは、黒で固めた女でした。

 ねんれいはずっと上、二十代後半に見えました。

 かつしよくはだに、ほそおもてでシャープな顔立ち。美女ではあるのですが、りようほおから首筋に向けて延びる、れんいろがく模様のタトゥーが、近寄りがたふんかもし出しています。

 背は高く、175センチは優にえているでしょう。黒いかみは、高い位置でポニーテールに無造作に結わかれていました。

 服装は、ほとんど黒に見える、のうこんのつなぎです。

 体にぴったりなのでそのラインが分かりますが、彼女の体型は、女性らしいふくよかさを一切無視したもの。まるで筋肉標本のような、人間ではなくアンドロイドだと言えばだれもが納得するような、シャープなシルエットでした。

 足先は黒いブーツ。こしには軍用の装備ベルトを巻いて、わきばらから背中にかけて、たてに長いマガジンポーチを取り付けています。

 そして二人は、共通する〝あるもの〟を持っていました。

 じゆうです。

 ピンクの少女が抱いているのは、ベルギーのFNハースタル(FN)社が生み出した、《P90》。長さは50センチほど。長方形の箱の一部をえぐってグリップをもうけたような、おおよそ銃には見えない異形の武器です。

 中に並ぶだんがんが見えるクリアプラスチック製のマガジンは、銃の上にもぐり込むように装着されます。その装弾数は、実に50発。マシンガンをのぞけば、最もキャパシティの大きいマガジンの一種です。

 P90も、服と同じくすんだピンク色にられていました。異形さも相まって、一見するとまるでオモチャです。体の小さい彼女が抱くと、派手な包み紙のクリスマスプレゼントをもらった子供のようにすら見えてきます。

 もう一人、黒い美女の座る脇には、1丁のアサルト・ライフル──、つまり軍用自動小銃が、石に立てかけられて置かれていました。

 世界で最も有名なじゆうの一つ、ロシア製の《AK─47》です。7.62×39ミリだんが30発てる、わんきよくしたマガジンが装着されています。


「なんでもいいから他人をめるのは、モテテクニックの基本だよレンちゃん」

「べ、別にモテモテになりたいわけじゃないし!」

「えー、カノジョとか欲しくないの?」

「要らない。だって、女だもん」

「相手が男とか女だとか、そんな細かいことは気にするなー」

「一番重要なところだと思うけど」


 黒い美女とピンクの少女が、かしましいおしゃべりを際限なく続けそうになったそのとき──、

 この世界に、くぐもったばくはつおんが生まれました。

 大地のれを感じるのと同時に、


「かかった!」「かかった!」


 二人は雑談をめ、同時に同じことをさけぶと、素早く立ち上がりました。黒い美女はAK─47をひっつかむと、ピンクの少女は抱いていたP90を解放すると、


「やっちまえー!」「やっちまえー!」


 またも言葉をそろえて、そんなぶつそう台詞せりふを楽しそうにき出すと、かくれていた岩のかげから左右に分かれて飛び出しました。

 50メートルほどはなれた砂の平原で、地下のしかけ爆弾の爆発でい上がったすなぼこりが、静かに収まりつつありました。風がないので、ゆっくりと晴れていきます。

刊行シリーズ

ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIV ―インビテーション・フロム・ビービー―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインX ―ファイブ・オーディールズ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIX ―フォース・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVIII ―フォース・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVII ―フォース・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVI ―ワン・サマー・デイ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインI ―スクワッド・ジャム―の書影