その中で、罠に引っかかった相手が──、太さ40センチ、全長は5メートルはある巨大なミミズの化け物が、体の数カ所から赤い光を煌めかせながら、大地を叩くように暴れてのたうち回っていました。
「サポートやるよ! 全弾ぶち込め!」
10メートルを駆けた黒い美女は指示を飛ばしながら足を止めて、AK─47を右肩に押しつけて構えました。
「りょーかい!」
ピンクの少女は、その走るスピードを、一気に速めました。
AK─47が吠えました。銃声が、空気を振動させました。
リズミカルなセミオート射撃で放たれた7.62×39ミリ弾が、暴れる巨大ミミズへと吸い込まれていきます。
銃の右側からはじき出された鈍い緑色の空薬莢が、砂に落ちて低く跳ねて──、そして小さな光の粒になってはじけて、この世界から消えました。
弾丸が走るそのすぐ脇を、負けないほどの速さで、
「やー!」
P90を、右肩に構えて体を前傾させた少女が、小さな体で突っ込んでいきました。そして、フルオートで発砲。
ドラムロールのような連続する銃声が、AK─47の刻むリズムに加わりました。
P90の銃口から5.7×28ミリ弾が飛び出し、巨大ミミズの体に次々と穴を開けていきます。銃の下には、金色の小柄な空薬莢が、滝のような勢いで排出されていきました。
体中に弾を食らっている巨大ミミズが、頭を半分割るような形で口を開きました。そして、不気味な咆哮を上げます。
「しっぽ攻撃来るよ!」
黒い美女が、AK─47の発砲を止めて叫びました。
「了解!」
ピンクの少女は、返事をしながら叫ぶと、それでも突っ込んでいきます。左手をP90から離すと、左腿のポーチへと伸ばし、そこに入っている、新しいマガジンをひっつかみました。
巨大ミミズが大きくうねり、接近するピンクの少女に向けて、鞭のようにしっぽを振りました。
「ほっ!」
ピンクの少女は、両足で砂を巻き上げながらジャンプ。優に2メートルほどの高さまで、跳び上がってきました。
巨大ミミズのしっぽが空を切るその上空で、ピンクの少女はマガジンを交換します。まだ8発残っていたものを潔く捨てると、機械のような素早さで新しいマガジンを叩き込みました。
「や!」
そして砂地に難なく着地すると同時に、自分の足下にある巨大ミミズに向けて、P90の銃口を左右に振りながら、まるで箒で掃くような、容赦のないフルオート連射。
3秒後、体中に穴を開けて赤い光を噴き出していたミミズの化け物は──、
細かな光の欠片になって、跡形もなく消滅しました。
「えっと、待ち伏せ中にしてたのは……、なんの話だったっけ?」
黒い美女が聞きました。ピンクの少女が、呆れ顔で答えます。
「イカがどうにかする大会の話でしょ? ピトさん、自分で言いかけてすぐ忘れる」
ドロドロと不気味にうごめく空の下、二人はそれぞれの銃をスリングで肩にかけて、砂漠をのんびりと歩いていました。殺伐とした環境と持っている物の物騒さを無視できれば、まるで親子の散歩のようです。
「そうだったそうだった。でも、レンちゃんにお兄さんズがいて、女子大生だってことは覚えてるよ?」
「うん、忘れて。──で、イカは?」
砂漠の散歩を続けながら、ピンクの少女が質問。
「イカはスクウィド。今回は──、スクワッド。おわかり? レンちゃん理系? 学部は?」
「え? わたしは……、まあ、それはいいから」
「お、引っかからなかった。学習したね。おねーさん嬉しいよ」
「それはさておき、スクワッドって?」
「英語で〝班〟とか〝分隊〟って意味。軍隊で言う、中隊とか小隊とか、小分けの区分があるでしょ? 分隊は、その最小単位。だいたい十人くらいらしいけどね」
「ふーん……。ジャムは?」
「J、A、Mで、パンに塗るアレの意味もあるけど、元々は、〝ぎっしり押し込む〟って意味なの。トラフィック・ジャムが交通渋滞の意味だって言えば分かるよね」
「うん、分かる。銃が作動不良起こして、空薬莢や弾丸が詰まるジャムと一緒でしょ?」
「そうそう。そっちを先に言えばよかったか」
「すると……、〝分隊が、ごちゃ混ぜ〟?」
「そういうこと。つまりはね──」
「つまりは?」
「スクワッド・ジャムってのは、この《ガンゲイル・オンライン》の中で、〝少数チームを組んでバトルロイヤルをやろう〟って大会なのよ」