I ―スクワッド・ジャム―

第二章「レンとピトフーイ」 ②

「はい敬語いらなーい。いやあ、こっちこそ女子仲間ができてうれしいよ。これからよろしくね。今度時間が合えば、いつしよりに行こ。ばく地帯のデカワニって、まだ見たことないんだ」

「うん」


 ああ、この人は結構いい人だ。

 そう思いながら、レンはログアウトするためにウィンドウを出そうとして、


「そうそう、言い忘れてた」

「ん?」

「次の狩りまでに、P90、ちゃんとピンクにっておいてね!」


「…………」


 ああ、この人はちょっと油断できない人だ。

 そう思いながら、レンはログアウトするためにウィンドウを出しました。



 こうしてレンは、ピトフーイと《スコードロン》を組みました。

 これは気の合う仲間達で結成するチームで、ファンタジー系ゲームですと《ギルド》と呼ばれています。協力していつしよに戦ったり、アイテムの受けわたしをしたり、おそろいのもんしようを付けてみたり。

 当然ですが、ゲームはいつだんけつして戦った方がいろいろ有利になります。

 人付き合いを増やそうと始めたゲームなのにだれとも組んでいなかったレンにとっては、最初のスコードロン参加です。とはいえ、実質レンとピトフーイだけのコンビですが。

 それからの1ヶ月間──、時間が合うときは必ず、ピトフーイと一緒にりをしました。

 だいたい同じ時間に遊んでいるレンとはちがって、ピトフーイのプレイ時間は実にバラバラでした。平日の朝から遊んでいることもあれば、週末に一度も現れないこともあります。

 一体リアルではどんな生活をしている人なのか不思議でしたが、それをはっきりと聞くのはマナーはんなので、レンは自重しました。

 やがて分かりましたが、ピトフーイはもうれつにお金持ちのプレイヤーでした。

 気付いた理由は、保有しているじゆうの数です。なにせ一緒に遊ぶたびに、使っている銃が違うのです。


「ピトさん、今日のそれは……、何?」

「へーん、《L86A2》だよ。イギリス軍のアサルト・ライフルL85の、銃身を強化して長くした分隊えん火器バージョン。つうのマガジンしか使えなくてさ、じゃあライフルとどこが違うんだってツッコミどころまんさいの1丁だけど、命中率は悪くないよ。重いけど結構好き」

「は、はあ……」

「サイドアームのけんじゆうは、《コルト・ダブルイーグル》! コルト社がガバメントをベースに出したダブルアクションオートなんだけど、格好も性能も悪くて不人気銃なんだ! いやー、GGOにあるって聞いたときは探したよ! コレクターが持ってるのを見つけて、クレジット積んで買い取った!」


 ピトフーイは遊び込んでいる強いキャラクターですが、それにしても高価なレア銃、ちんじゆうじゆうをたくさん所有しています。

 ある日の狩りの待ち時間中、レンがどうしても興味をおさえきれず、それだけのクレジットはどうしたのかとたずねると、


「あ、《リアルマネートレード》だよもちろん」


 ピトフーイはあっさりと教えてくれました。

 リアルマネートレード、りやくしようRMTとは、現実世界の電子マネーを使って、ゲームの中のクレジットやアイテムにえてしまうというこうです。

 GGOは、目下ゆいいつの、ゲーム内の通貨と現実の電子マネーのこうかんが公式に可能なVRゲームです。このため、GGOにはゲームをやり込むことで〝売れる〟アイテムを手に入れ、はんばいして生計を立てている、プロのプレイヤーが存在します。

 ピトフーイがやっているのは、リアルでの財力にものを言わせたプレイです。努力を重ねてクリアするのがゲームだと思っている人には、たたかれることの多い遊び方です。しかし、遊び方は人それぞれ自由ですし、何よりシステムで禁止されていないので、叩くのはびんぼうにんのひがみと言われたら、悲しいかなそれまでです。

 ピトフーイは、現実世界ではお金持ちである。少なくともようしやなくゲームにつぎ込めるほどは。レンは一つだけ、彼女のリアルを知りました。そしてこのおかげで、


「今日のじゆうは《レミントンM870》だよー! ポンプアクションのショットガンといえば、ベタだけどこれよね! ってみる? ね、撃ってみ!」

「やっと手に入ったよ! 《M16》! よく見て《M16A1》じゃないんだよ! 初期モデルのM16だよ!」

「今日はね、9ミリパラベラムだんの自動けんじゆうばかり5丁ほど持ってきた。説明するよ、まずはこれが──」


 レンは、かなりいろいろな銃器にくわしくなりました。

 自分の筋力値が許してくれる銃は試射しましたが、


「どう? どう?」

「うん。撃つのはおもしろいけど……」

「やっぱり、ピーちゃん一筋か」

「うん」

いちだわー。レンちゃんは! 私なんかね、GGOにあるすべてのじつだんじゆうを撃ってみたいって思っているのに!」


 ピトフーイがえました。そして、


「レンちゃん、《対物ライフル》って知ってる?」

「名前を聞いたことがある、程度しか」

「じゃあおねーさんが説明しよう! 対物ライフル、英語だとアンチ・マテリアル・ライフルってのは、まあ、簡単に言うと、飛びけてデカイたまを使う銃」

「デカイ、って?」

「通常のアサルト・ライフルが5.56ミリや7.62ミリ口径なんだけど、そうね、12.7ミリ以上になるとたいていは〝対物ライフル〟って呼ばれるね。これって、重機関銃の弾丸なのよ。第二次世界大戦中はせんとうが装備していたくらい大きなじゆうだん

「想像もつかないけど、たまが大きいと、りよくも大きいの?」

「とーぜん。5.56ミリ弾が400メートルくらい、7.62ミリ弾は800メートルくらいまでしかねらえないけど、12.7ミリになるとゆうで1000メートル以上まで狙えるよ」

「せんめーとる? 1キロ?」

「とんでもないちようきよでしょ? もちろん、その分だけ銃も大きくて重くなるけどね! 要求される筋力値はすごいことになるよ」

「わたしにはムリだろうなあ……」

「まあ、銃によってはレンちゃんの身長くらいはあるかな」

「えへへ」

「なぜ喜ぶ? ──この手の大型ライフルは、第二次世界大戦までは《対戦車ライフル》って呼ばれていたんだけど、戦車ががんじようになってとてもたおせなくなったから、名前が変わったの。長距離げきとか、敵の軍事物資をこうげきできる銃として使われているのよ。大きいとはいえ、人間一人で運用できるから便利なの」

「ふーん。大きくて、遠くまで狙える銃、か。じゃあ、持っていると、ゲーム内で最強になれる?」

「いや、全然」

「ありゃ?」

「なにせデカイし重いしで、筋力値の要求も相当高いらしいよ。ちよう遠距離狙撃だとそれなりの技術も必要だし。まー、よほどの好き者じゃないと実戦じゃ使わないんじゃない? 超が三つつくほどのレア銃になるから、ランダム・ドロップで失った日にはショックでられないでしょうしね」

「それでもピトさんは持ちたいんだ……」

「おうよ! 自分の部屋のガンロッカーの中に飾りたいのさ! ──このクラスの銃は、サーバー内に10丁くらいしかないって言われていてね、もうれつに高いし、だれも売らないんだ。実はね、一人持っているキャラクターを知ってるんだ。しかも女プレイヤーでね」

「へえ! その銃はさておき、女性プレイヤーってのがおどろき」

「シノンっていうんだけど、知らない? 水色のかみの」

「残念ながら」

「まあいいや。そのシノンちゃんが、どこかの地下せきダンジョンでモンスターをたおして、ドロップして手に入れたのが、《へカートⅡ》っていう対物ライフルの1丁でね。彼女がそれをとてもとても大切にしているって聞いたから、さがして見つけて言ってみたの。〝こんにちは! へカートⅡ売って!〟って」

「ピトさーん、それで本当に買えると思ったの……?」

「ダメだった! 身持ちかたいわあの子!」

「…………」



 ピトフーイが、ちようがつくほどのリッチかつガンマニアだということは(そしてじやつかん性格に問題があることも)よく分かりましたが、それ以外はほとんどなぞです。

刊行シリーズ

ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIV ―インビテーション・フロム・ビービー―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインX ―ファイブ・オーディールズ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIX ―フォース・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVIII ―フォース・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVII ―フォース・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVI ―ワン・サマー・デイ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインI ―スクワッド・ジャム―の書影