これらの新聞や雑誌ですが、読むとこの地球が大戦争をするに至った愚かしい経緯が詳しく書いてあるとのことです。残念ながら全部英語ですが。
以前ピトフーイに聞いた話で、こんなのがありました。
ピトフーイが小さな教会の廃墟で犬に似たモンスターを仕留めたら、さらに奥にある部屋に入れました。するとそこには、洋服掛けに綺麗なウェディングドレスとタキシードが掛かっていて、天窓からの光の加減でキラキラと輝いていたのです。
「あれはちょっとウルっときたわー。〝人類絶滅の戦争が迫っていても結婚式はやろう〟って、愛する二人の想いが伝わってきてね。あのワンコもさ、まるでそれを必死に守っていたみたいで」
ピトフーイが、珍しく優しげな微笑みを見せて、
「いい話ですねえ」
レンが素直に感想を返すと、
「だから、二着ともショットガンでズタボロにしておいた」
「台無しっ!」
「まあ、次に誰かが見つけたときは、なぜか復活してるわよー」
ピトフーイの素敵な性格はさておき、それらを細部まで考えて再現するGGOのグラフィックデザイナー、いい仕事をしています。
三回目のスキャン、14時30分まであと数秒。レンの腕時計は、とっくに振動を終えています。
二人はサテライト・スキャン端末を取り出して、目の前に地図を出しました。前回は脱落が計七チームで生存が十六チームでしたが、さて、10分間でどれくらい変わったか。
三回目のスキャンは、南南東から北北西へと始まりました。時計でいえば5時の位置から11時へ向かう角度です。衛星の軌道が高いようで、今までよりずっとゆっくりなスキャンでした。落ち着いて見ていられそうで、レンは生存チームの数も数えることにしました。
フィールド南部の砂漠・荒野地帯に、ポツポツと点が現れていきます。
すると、全滅チームを表す灰色の点がどんどん増えていきました。広いとはいえ、このエリアだけで八つもあります。10分前は四つでしたから、さらに倍増した計算に。
特に中央にある遺跡の周囲では、新しい灰色の点三つが隣接していました。レンにも分かります。有利な遺跡を抑えようと押しかけて、乱戦になったのでしょう。
このエリアの生き残りは、現在たった二チーム。それぞれ東西に5キロ以上は離れていて、死亡チームとも、やや距離が離れています。
残数が分からないので、この二チームがどれほど強いのかも、まったく分かりません。恐るべき実力で他のチームをほとんど屠ったあとに余裕で移動中なのか、それとも残り一人になってしまい、必死に逃走中なのか。
どちらにせよ、共に今の自分達からは遠いので、ひとまず次の10分間は無視してよさそうですが。
スキャンが北上してきて、都市部を表示します。
すると出てきたのは、ほとんど同じ場所にある、三つの灰色の点。その近くの、前回と同じ場所で光る生存チームの点。これはもう、バッチリとエムの予想通りになったようで、
「すごい……」
レンは、エムと、そしてあのプロ連中に向けて、短く感想を漏らしました。
地図中央、居住区にスキャンが迫ってきてレンは身を引き締めました。自分達はこの北東部分、つまりエリア右上にいます。他に点が光れば、次に戦うのはその人達になります。気付いていないだけで、隣の家に、いえ、この家に潜んでいるかもしれません。
果たして──、
「いない……。よかった!」
居住区に光る点は、間違いなく一つだけでした。死亡チームもありません。
スキャンは北へと移り、沼地では新しい死亡チームはゼロ。生き残りチームが一つあって、これは墜落宇宙船に陣取っているようです。
北西の草原では、死亡チームが二つ。つまり前回より一つ増えています。生存チームは一つだけで、このチームが両チームをやったのだとしたら、実力は高いでしょう。
そして最後に森の中では、死亡はなく生存が前回と同じく二つ。よく見ればこの二チーム、前のスキャンのときから、ほとんど動いていませんでした。
現状、新しく全滅したのが八チームで、累計十五チーム。生き残りは、八チーム。たった30分でこれでは、ピトフーイの言ったとおり、SJは1時間以内に終わってしまうかもしれません。
スキャンはまだ消えていませんが、エムはそのゴツい顔を上げました。作戦会議です。
「俺達は運がいい」
エムはまずそんなことを言って、レンは大きく楽しそうに頷きました。そして、
「エムさんは、次にわたし達の脅威になるのはどれだと思う?」
エムは、変わらぬ落ち着いた口調で答えます。
「まず、森の二チームは、近いが無視する。どうもお互い、意地を張って睨み合っているようだ。最初の戦闘で仲間をやられて、ケリを付けたいと思っているのかもしれん」
「ありそう。お互い待ち伏せ中で、待ちぼうけ中、ってやつ」
「草原の一チームも、距離があるから無視する。こいつらが、森のチームを後ろから叩いてくれることを期待しよう。沼地の宇宙船のチームだが、待ち伏せ狙撃で一チームをやったんだろう。有利な場所にいるから、よほどのことがない限り動いてはこない」
「ふむふむ」
「砂漠と荒野の二チームだが、こいつらは、正直言って予想がつかない。凄腕なのか単なる敗残兵なのか。特に、遺跡に近い方のチームの行動が読めない。遺跡に陣取ってもいいのに、なぜそうしない?」
「うん、それはわたしも思った」
「それでも、ひとまず次のスキャンまでは無視できる。問題なのは──」
「やっぱり……、あのプロ? 都市にいる」
「ああ。──アイツらを倒さずして優勝は絶対にない。だいぶチーム数が減った今では、都市部から打って出てくるだろう。彼等の目的は優勝ではなく、戦闘経験を積むことだろうから、ずっと待ち伏せの可能性は低い」
「でも、強いんでしょ? 勝てないんでしょ?」
レンの言葉に、
「ああ」
エムは一度頷きました。それから、にやりと笑ったのです。
「だけど、今回のスキャンを見て、少しだけ勝機を見いだせた。上手くいけば、アイツらに勝てるかもしれない」
「おお!」
「それには、レンの力が必要だ。バリバリ撃って、活躍してもらうことになりそうだ」
「おお! いいよ! 何でもやるよ! 作戦を教えて!」
「よし。まずは──」