I ―スクワッド・ジャム―

第七章「対プロ戦」 ④

 これらの新聞や雑誌ですが、読むとこの地球が大戦争をするに至ったおろかしいけいくわしく書いてあるとのことです。残念ながら全部英語ですが。

 以前ピトフーイに聞いた話で、こんなのがありました。

 ピトフーイが小さな教会のはいきよで犬に似たモンスターを仕留めたら、さらにおくにある部屋に入れました。するとそこには、洋服けにれいなウェディングドレスとタキシードが掛かっていて、てんまどからの光の加減でキラキラとかがやいていたのです。


「あれはちょっとウルっときたわー。〝人類ぜつめつの戦争がせまっていてもけつこんしきはやろう〟って、愛する二人のおもいが伝わってきてね。あのワンコもさ、まるでそれを必死に守っていたみたいで」


 ピトフーイが、めずらしく優しげな微笑ほほえみを見せて、


「いい話ですねえ」


 レンが素直に感想を返すと、


「だから、二着ともショットガンでズタボロにしておいた」

「台無しっ!」

「まあ、次にだれかが見つけたときは、なぜか復活してるわよー」


 ピトフーイの素敵な性格はさておき、それらを細部まで考えて再現するGGOのグラフィックデザイナー、いい仕事をしています。


 三回目のスキャン、14時30分まであと数秒。レンのうでけいは、とっくにしんどうを終えています。

 二人はサテライト・スキャンたんまつを取り出して、目の前に地図を出しました。前回はだつらくが計七チームで生存が十六チームでしたが、さて、10分間でどれくらい変わったか。

 三回目のスキャンは、南南東から北北西へと始まりました。時計でいえば5時の位置から11時へ向かう角度です。衛星のどうが高いようで、今までよりずっとゆっくりなスキャンでした。落ち着いて見ていられそうで、レンは生存チームの数も数えることにしました。

 フィールド南部のばくこう地帯に、ポツポツと点が現れていきます。

 すると、ぜんめつチームを表す灰色の点がどんどん増えていきました。広いとはいえ、このエリアだけで八つもあります。10分前は四つでしたから、さらに倍増した計算に。

 特に中央にあるせきの周囲では、新しい灰色の点三つがりんせつしていました。レンにも分かります。有利な遺跡をおさえようとしかけて、乱戦になったのでしょう。

 このエリアの生き残りは、現在たった二チーム。それぞれ東西に5キロ以上ははなれていて、死亡チームとも、ややきよが離れています。

 残数が分からないので、この二チームがどれほど強いのかも、まったく分かりません。おそるべき実力で他のチームをほとんどほふったあとにゆうで移動中なのか、それとも残り一人になってしまい、必死にとうそうちゆうなのか。

 どちらにせよ、共に今の自分達からは遠いので、ひとまず次の10分間は無視してよさそうですが。

 スキャンが北上してきて、都市部を表示します。

 すると出てきたのは、ほとんど同じ場所にある、三つの灰色の点。その近くの、前回と同じ場所で光る生存チームの点。これはもう、バッチリとエムの予想通りになったようで、


「すごい……」


 レンは、エムと、そしてあのプロ連中に向けて、短く感想をらしました。

 地図中央、居住区にスキャンがせまってきてレンは身を引きめました。自分達はこの北東部分、つまりエリア右上にいます。他に点が光れば、次に戦うのはその人達になります。気付いていないだけで、となりの家に、いえ、この家にひそんでいるかもしれません。

 果たして──、


「いない……。よかった!」


 居住区に光る点は、ちがいなく一つだけでした。死亡チームもありません。

 スキャンは北へと移り、ぬまでは新しい死亡チームはゼロ。生き残りチームが一つあって、これはついらく宇宙船にじんっているようです。

 北西の草原では、死亡チームが二つ。つまり前回より一つ増えています。生存チームは一つだけで、このチームが両チームをやったのだとしたら、実力は高いでしょう。

 そして最後に森の中では、死亡はなく生存が前回と同じく二つ。よく見ればこの二チーム、前のスキャンのときから、ほとんど動いていませんでした。

 現状、新しく全滅したのが八チームで、るいけい十五チーム。生き残りは、八チーム。たった30分でこれでは、ピトフーイの言ったとおり、SJは1時間以内に終わってしまうかもしれません。

 スキャンはまだ消えていませんが、エムはそのゴツい顔を上げました。作戦会議です。


おれ達は運がいい」


 エムはまずそんなことを言って、レンは大きく楽しそうにうなずきました。そして、


「エムさんは、次にわたし達のきようになるのはどれだと思う?」


 エムは、変わらぬ落ち着いた口調で答えます。


「まず、森の二チームは、近いが無視する。どうもおたがい、意地を張ってにらみ合っているようだ。最初のせんとうで仲間をやられて、ケリを付けたいと思っているのかもしれん」

「ありそう。お互い待ちせ中で、待ちぼうけ中、ってやつ」

「草原の一チームも、きよがあるから無視する。こいつらが、森のチームを後ろからたたいてくれることを期待しよう。ぬまの宇宙船のチームだが、待ち伏せげきで一チームをやったんだろう。有利な場所にいるから、よほどのことがない限り動いてはこない」

「ふむふむ」

ばくこうの二チームだが、こいつらは、正直言って予想がつかない。すごうでなのか単なる敗残兵なのか。特に、せきに近い方のチームの行動が読めない。遺跡にじんってもいいのに、なぜそうしない?」

「うん、それはわたしも思った」

「それでも、ひとまず次のスキャンまでは無視できる。問題なのは──」

「やっぱり……、あのプロ? 都市にいる」

「ああ。──アイツらをたおさずして優勝は絶対にない。だいぶチーム数が減った今では、都市部から打って出てくるだろう。かれの目的は優勝ではなく、戦闘経験を積むことだろうから、ずっと待ち伏せの可能性は低い」

「でも、強いんでしょ? 勝てないんでしょ?」


 レンの言葉に、


「ああ」


 エムは一度頷きました。それから、にやりと笑ったのです。


「だけど、今回のスキャンを見て、少しだけ勝機を見いだせた。上手うまくいけば、アイツらに勝てるかもしれない」

「おお!」

「それには、レンの力が必要だ。バリバリって、かつやくしてもらうことになりそうだ」

「おお! いいよ! 何でもやるよ! 作戦を教えて!」

「よし。まずは──」

刊行シリーズ

ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIV ―インビテーション・フロム・ビービー―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインX ―ファイブ・オーディールズ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIX ―フォース・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVIII ―フォース・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVII ―フォース・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインVI ―ワン・サマー・デイ―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIV ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインIII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインI ―スクワッド・ジャム―の書影