ほうかごがかり 3

八話 ①


 ・件名:[お知らせ]本校で発生しました重大事故について



 午後の仕事中、学校からのそんないつせい送信メールを受け取ったもりめぐみは、仕事の合間をって同級生のお母さんたちと情報こうかんをし、やがて判明した事実に、思わず青ざめるほどのしようげきを受けた。

 メールには後日説明を予定しているとあって、多くは書かれていなかった事故の内容。それからがい者になった児童の名前。情報こうかんによって知れたを、むすけいに伝えないというせんたくはあり得なかったが、しかし何と言って伝えればいいのか分からなくて、めぐみあんたんたる気持ちになった。

 あまり学校でのことを話さない上に、決して社交的な方ではない、親としては少し心配になるくらい、周りの子に関心がない様子の一人むす

 そんなむすから、友達として話に出てくる数少ない名前。以前に一度だけ、一番の友達だと聞いたことがあって、顔も知っているその男の子が――――よりにもよってだなんて、どのようにけいに言えばいいのか、めぐみには分からなかったのだ。

 だが、迷うあいだも、時間は無常に過ぎていって。

 夜、少しおそい時間。勤め先の病院から心もち重い足取りで帰宅しためぐみは、結局どう言おうか決められないまま、まだ起きていたけいを呼んだ。


けい、ちょっといい?」

「ん、なに?」


 パジャマ姿で、けずに絵をいていたらしいけいは、あらたまった様子で呼ばれて、不思議そうにする。だがすぐに、母の様子から何かつうでない様子を察したらしく、少し表情を固くしたけいに、めぐみは何の言葉も用意できていないまま語りかけた。


「あのね、落ち着いて聞いてね」

「……なに?」

「あのね、あの――――――がた君が、くなったって」

「は?」


 めぐみの言葉を聞いたけいは、けいかいからいつしゆんにして、ぽかん、とした表情になる。そして、どれだけどうようするだろうかと心配するめぐみが見ている前で、頭の中で何か目まぐるしい思考をしたらしい様子の後、それらを全てみこんだかのように顔をこわばらせて、取り乱した様子は見せることなく、顔を上げてめぐみたずねた。


「……原因は?」

「事故だって」


 けいの、わずかに声のふるえた質問に、めぐみは言いづらそうに答える。


「ど、どこで?」

「学校だって。くわしいことは分からないけど、重大な事故が学校であったって、小学校のいつせいメールがあって……それで……」

「……」


 けいの視線が外れる。冷静な――――いや、固まった表情で何もないゆかに視線を落とすと、しばしだまって、そしてもう一度顔を上げる。


「……ほんとのこと?」

「うん、今のところ、多分、ちがいない……」

「そっか」


 めぐみの答えに、それだけ言うと、けいはまた視線を落とす。


けい……」

「……」


 そしてけいは、どこかぼうぜんとした、固まった表情のまま、それ以上は何も言わずに、すーっと静かに自分の部屋にもどっていった。ぱたん、とふすまが閉まる。めぐみはそんなけいに声をかけることができず、閉じたふすまを見つめるしかなかった。


「……」


 それからめぐみけいは朝になるまで、顔を合わせることはなかった。

 心配したようなおおさわぎはなかった。部屋はその後も静かで、泣き声が聞こえるといったこともなく、そのことに胸をろす自分がいるのを否定はできなかった。

 だがめぐみは、知っていた。

 こんな時の子供は。少なくともけいは。

 そう。


 子供は、こんな時、おおさわぎはしない。

 静かに、ただ深く、深く、傷つくのだ。


 ………………

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