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・件名:[お知らせ]本校で発生しました重大事故について
午後の仕事中、学校からのそんな一斉送信メールを受け取った二森恵は、仕事の合間を縫って同級生のお母さんたちと情報交換をし、やがて判明した事実に、思わず青ざめるほどの衝撃を受けた。
メールには後日説明を予定しているとあって、多くは書かれていなかった事故の内容。それから被害者になった児童の名前。情報交換によって知れたそれを、息子の啓に伝えないという選択肢はあり得なかったが、しかし何と言って伝えればいいのか分からなくて、恵は暗澹たる気持ちになった。
あまり学校でのことを話さない上に、決して社交的な方ではない、親としては少し心配になるくらい、周りの子に関心がない様子の一人息子。
そんな息子から、友達として話に出てくる数少ない名前。以前に一度だけ、一番の友達だと聞いたことがあって、顔も知っているその男の子が――――よりにもよって死んだだなんて、どのように啓に言えばいいのか、恵には分からなかったのだ。
だが、迷うあいだも、時間は無常に過ぎていって。
夜、少し遅い時間。勤め先の病院から心もち重い足取りで帰宅した恵は、結局どう言おうか決められないまま、まだ起きていた啓を呼んだ。
「啓、ちょっといい?」
「ん、なに?」
パジャマ姿で、寝付けずに絵を描いていたらしい啓は、あらたまった様子で呼ばれて、不思議そうにする。だがすぐに、母の様子から何か普通でない様子を察したらしく、少し表情を固くした啓に、恵は何の言葉も用意できていないまま語りかけた。
「あのね、落ち着いて聞いてね」
「……なに?」
「あのね、あの――――――緒方君が、亡くなったって」
「は?」
恵の言葉を聞いた啓は、警戒から一瞬にして、ぽかん、とした表情になる。そして、どれだけ動揺するだろうかと心配する恵が見ている前で、頭の中で何か目まぐるしい思考をしたらしい様子の後、それらを全て吞みこんだかのように顔をこわばらせて、取り乱した様子は見せることなく、顔を上げて恵に訊ねた。
「……原因は?」
「事故だって」
啓の、わずかに声の震えた質問に、恵は言いづらそうに答える。
「ど、どこで?」
「学校だって。詳しいことは分からないけど、重大な事故が学校であったって、小学校の一斉メールがあって……それで……」
「……」
啓の視線が外れる。冷静な――――いや、固まった表情で何もない床に視線を落とすと、しばし黙って、そしてもう一度顔を上げる。
「……ほんとのこと?」
「うん、今のところ、多分、間違いない……」
「そっか」
恵の答えに、それだけ言うと、啓はまた視線を落とす。
「啓……」
「……」
そして啓は、どこか呆然とした、固まった表情のまま、それ以上は何も言わずに、すーっと静かに自分の部屋に戻っていった。ぱたん、と襖が閉まる。恵はそんな啓に声をかけることができず、閉じた襖を見つめるしかなかった。
「……」
それから恵と啓は朝になるまで、顔を合わせることはなかった。
心配したような大騒ぎはなかった。部屋はその後も静かで、泣き声が聞こえるといったこともなく、そのことに胸を撫で下ろす自分がいるのを否定はできなかった。
だが恵は、知っていた。
こんな時の子供は。少なくとも啓は。
そう。
子供は、こんな時、大騒ぎはしない。
静かに、ただ深く、深く、傷つくのだ。
………………