ほうかごがかり 3

八話 ②

 なんで。


 聞いたしゆんかん

 けいは頭が真っ白になった。


 死んだ?

 せいが?

 なんでだ?


 とつぜんすぎる。理解ができない。信じられない。信じられないまま、ただただ強いショックを受けている自分がいる。

 絵をく気分ではなくなった。もちろん、ねむれるわけもない。

 こんなよるおそくでなければ、そしてこれから『ほうかごがかり』がひかえている金曜日の夜でなければ、ことのしんを確かめるため、すぐさま家を飛び出して、せいの家まで走っていたにちがいなかった。


「…………」


 けいは、つい先刻までいていた、イーゼルの上の絵を見る。

 修正ちゆうの絵。『ほうかご』をモチーフにした夜の学校のろうと、そこに異常にみだれた色とりどりの花と、くるう花びらと、その中心で回るほうきを持った少女の絵。

 そして、けいの背後に、その絵の対面に置かれた、借り物の、さんきやく付きデジタルカメラ。

 少女の絵をいてはけずり、動きを変えてき直し、回る少女のアニメーションになるようにこのカメラでさつえいして、せいわたすはずだったもの。

 来週には出来上がって、会って、わたすはずだったもの。


 何が。

 何があった?


 体がふるえた。室温とは関係なく体が冷え切って、心が冷え切って、何にもしようてんが合っていない目でゆかすみを見つめたまま、自分の部屋でくした。

 話が受け入れられない。頭の中がこおりついて、ものが考えられない。

 胸が苦しい。だが混乱のまま息が整えられず、浅い呼吸をかえし、ただただ空白の時間が過ぎていった。

 そして――――――



 カァ――――――――ン、

 コ――――――――――――ン!



 ねむれないまま、何も考えられないまま、時計が十二時十二分十二秒を表示して。

 それと同時に部屋の中に、そしてがいかんつうして頭の中に、大きく音割れしたチャイムの音がひびいた。

 静まり返った家にとつじよとしてひびわたる、あのこわれたスピーカーから鳴ったかのような、ガリガリと耳にさわる音。それはいつものようにひびき、そのまま激しいノイズを混じらせた『ほうかごがかり』の呼び出しの放送へと続いたが、しかし頭痛と眩暈めまいをもよおす『それ』を、けいは部屋の中に立ったまま、身じろぎ一つすることなく、まゆ一つひそめることなく、ただただ無表情に聞いていた。



『――――ザーッ――――ガッ……ガリッ…………

 ……、の、れんらくでス』



「…………」


 空気が変わり。気配が変わり。

 放送が終わり。そして部屋のふすまが、けいの目の前で、すーっ、と音もなく勝手に開く。

 部屋に流れ込む冷たい空気。それから学校のにおい。その時になって、けいはようやく顔を上げると、ふすまの向こうに続く学校の通路を無表情に見つめた。


「…………」


 開いたふすまの向こうに続く、夜の学校のろう

 けいは少しのあいだ、それをじっとえていた。

 だがやがて、けいはおもむろに部屋のはしに立てかけておいた、リュックサックとイーゼルをつかむと。今までにないほどぐに、ためらいなしに、ふすまの中へと――――『ほうかご』へと、おおまたみ込んでいった。

刊行シリーズ

ほうかごがかり4 あかね小学校の書影
ほうかごがかり3の書影
ほうかごがかり2の書影
ほうかごがかりの書影