†
なんで。
聞いた瞬間。
啓は頭が真っ白になった。
死んだ?
惺が?
なんでだ?
突然すぎる。理解ができない。信じられない。信じられないまま、ただただ強いショックを受けている自分がいる。
絵を描く気分ではなくなった。もちろん、眠れるわけもない。
こんな夜遅くでなければ、そしてこれから『ほうかごがかり』が控えている金曜日の夜でなければ、ことの真偽を確かめるため、すぐさま家を飛び出して、惺の家まで走っていたに違いなかった。
「…………」
啓は、つい先刻まで描いていた、イーゼルの上の絵を見る。
修正途中の絵。『ほうかご』をモチーフにした夜の学校の廊下と、そこに異常に咲き乱れた色とりどりの花と、舞い狂う花びらと、その中心で回る箒を持った少女の絵。
そして、啓の背後に、その絵の対面に置かれた、借り物の、三脚付きデジタルカメラ。
少女の絵を描いては削り、動きを変えて描き直し、回る少女のアニメーションになるようにこのカメラで撮影して、惺に渡すはずだったもの。
来週には出来上がって、会って、渡すはずだったもの。
何が。
何があった?
体が震えた。室温とは関係なく体が冷え切って、心が冷え切って、何にも焦点が合っていない目で床の隅を見つめたまま、自分の部屋で立ち尽くした。
話が受け入れられない。頭の中が凍りついて、ものが考えられない。
胸が苦しい。だが混乱のまま息が整えられず、浅い呼吸を繰り返し、ただただ空白の時間が過ぎていった。
そして――――――
カァ――――――――ン、
コ――――――――――――ン!
眠れないまま、何も考えられないまま、時計が十二時十二分十二秒を表示して。
それと同時に部屋の中に、そして頭蓋を貫通して頭の中に、大きく音割れしたチャイムの音が鳴り響いた。
静まり返った家に突如として響き渡る、あの壊れたスピーカーから鳴ったかのような、ガリガリと耳に障る音。それはいつものように鳴り響き、そのまま激しいノイズを混じらせた『ほうかごがかり』の呼び出しの放送へと続いたが、しかし頭痛と眩暈をもよおす『それ』を、啓は部屋の中に立ったまま、身じろぎ一つすることなく、眉一つひそめることなく、ただただ無表情に聞いていた。
『――――ザーッ――――ガッ……ガリッ…………
……かかり、の、連絡でス』
「…………」
空気が変わり。気配が変わり。
放送が終わり。そして部屋の襖が、啓の目の前で、すーっ、と音もなく勝手に開く。
部屋に流れ込む冷たい空気。それから学校の匂い。その時になって、啓はようやく顔を上げると、襖の向こうに続く学校の通路を無表情に見つめた。
「…………」
開いた襖の向こうに続く、夜の学校の廊下。
啓は少しのあいだ、それをじっと見据えていた。
だがやがて、啓はおもむろに部屋の端に立てかけておいた、リュックサックとイーゼルをつかむと。今までにないほど真っ直ぐに、ためらいなしに、襖の中へと――――『ほうかご』へと、大股に踏み込んでいった。