エピローグ ACO
LAの中で俺とアコの結婚式が行われたのは、それから三日後のことだ。
垢ハックに対応するために知り合いの知り合いの知り合いぐらいまで協力を頼んだせいで、俺のキャラクター復帰と『ロン』の永久BAN情報は手がつけられない範囲で広がってしまった。
その結果、前回をはるかに超える、とんでもない数の出席者が集まる結婚式になった。
ギルドアレイキャッツはもちろん、†黒の魔術師†さんのギルドの人、猫姫親衛隊に俺の昔のフレンドから『ロン』に詐欺られた被害者まで、とにかくいろんな人が来た。
その全員の前で、アコは満面の笑みで宣言した。
◆アコ:私はルシアンの嫁を続けますよっ!
万雷の拍手で迎えられたこの発言に、背中に重荷が増したような気がしなくもなかった。
ともかく、そこは元の鞘に収まったってことで問題ない。
厄介なのは他の部分だ。
◆ルシアン:……この装備じゃ盾はきついな
◆シュヴァイン:今の貴様よりは俺様の方が硬いぜ?
◆アコ:ヒールが追いつかないですー
それはいつものことだろうアコ。
そう、厄介というのは俺の、ルシアンの装備が足りないということだ。
もともと盾役として、各ダンジョン、各モンスター相手に最適化した装備をそろえて戦っていたというのに、垢ハックでその大半が売り払われてしまった。
一部は買い戻せたけどそれじゃ全く足りやしない。
◆アプリコット:これは仕方あるまいな……
マスターが重々しく言った。
◆ルシアン:仕方ないって、どうするんだ?
◆アプリコット:決まっているだろう!
どどーんと花火が上がり、大きなチャット文字が表示された。
◆アプリコット:ルシアン再生計画! 現代通信電子遊戯部、夏休み週五で部活動計画!
◆猫姫:嫌なのにゃああああああああ!
マジか……週五か……。
猫姫さんが嫌がってるけど、どうせ押し切られるんだろうなあ、あの人。
「やれやれ、忙しい夏になるな」
モニターから目を離してそう言った俺に、隣から機嫌の良い声が返る。
「良いじゃないですか。ずっと一緒ですよ?」
「まーな」
別に大した話じゃないぞ?
アコの家で一緒にネトゲしてただけだ。
他人に言えないふしだらなことは何もしてない。本当本当。
……このノートPCはそろそろマスターに返さないといけないかもしれないけど。
「退屈な夏休みよりはいいけど、週五は多いな」
「ルシアンと二人の時間もちょっと欲しいですね」
可愛いことを言ってくれるじゃないか。
ちょっと頬を染めるアコに、幸せってこういうことを言うんだなあと目を細める。
「そうだよな、二人の時間も欲しいよな」
何せ恋人なんだし。
「夫婦なんですからね」
「部活がなくてもアコとは大体一緒だったろうしなあ」
「夫婦ですからね」
「……なあアコ」
「はい?」
何だろうおかしい。
明らかに話にズレがある。
しかもやたらと懐かしい、でもちょっと新しい感じのズレが。
「な、なあアコ。俺達の関係って……何だっけ?」
「妻と夫ですよ?」
「…………俺の認識とちょっと違うな」
どうしてこうなった。どうしてこうなったんだ。
「なあアコ、あのチャペルでさ、付き合おうって話になったじゃないか」
そこから俺の勘違いかと思ったんだが、アコはふにゃっと幸せいっぱいの顔で、
「はい。すっごく嬉しかったですっ」
そうだよね? 間違ってないよね?
「だから俺達って付き合ってるんじゃ、ないの?」
「え、でもそのあとちゃんと結婚しましたよね?」
「……え?」
したよ。確かにしたよ。
それはそれはたくさんの人に祝福されて結婚したよ。
でもそれはゲーム内の話──で──。
「……まさか上書きされてんの!?」
「何ですか、上書きって。お付き合いしてたのが結婚して、立派な夫婦じゃないですか」
「そ、そうだけどっ!」
ああああああ!
失敗したああああああ!
『ルシアン』と『アコ』が結婚してないとアコが不安そうだし、経験値ボーナスとか相互召喚スキルとかいろいろ便利だから深く考えずにまた結婚したけど!
そりゃアコとまた結婚したらこうなるに決まってんじゃん!
俺は普通の青春がしたいの!
この年で嫁が居るとか、そういうのは無理なの!
「あ、あの、アコ、さん」
「はい?」
機嫌よく返事をするアコに、恐る恐る尋ねた。
「あの──俺の恋人に、なってくれないか?」
俺の嫁はそれはもう見惚れるぐらいの笑顔で答えた。
「絶対に、嫌ですっ!」



