エピローグ 幻想校域
「教頭せんせーに怒られたのにゃ……猫姫さんこんなに頑張ったのに、やってられないのにゃ」
やさぐれた猫姫さんが、造花で飾られた現代通信電子遊戯部室でうなだれていた。
「……なんでまたそんなことに」
「ゲームの中で生徒に堂々と校章を公開させるなんてネットリテラシーの基本がなってないとかどうとか……あー、もう、仰る通りよ、先生としては言い返す言葉がないわ」
「ぐうの音も出ない正論ですね」
だから俺は先生が止めてくれると思ったんだよ、この企画。
「いーのよ、わかってたんだから」
先生は少し遠くを見て呟いた。
「最後の時。頑張って頑張って必死に頑張って、やっと勝った瞬間の大歓声。あれが聞けると思って許可したのよ。先生はちゃんとあなた達に学習の機会を与えられました。なんにも後悔はしてません」
「……格好良いっすね、猫姫さん」
「でしょ? 惚れなおした?」
調子のんな?
「なお先生の勤務評価は?」
「やーめーてー」
うわああん、と泣いた。ざまあ。
「それで展示の方はどうですか?」
「そこそこ人気よ? 今のところLAをやってるって人は来てないけど、ゲーマーの子は結構やるじゃんって感じで見てくれてる」
「そりゃ何よりです」
なんじゃこりゃ、だけで終わったらちょっと悲しい。
へー、ふーん、ぐらいで十分満足だからさ。
「入部希望も何人か居たわよ? ほら、これなんて一年のちょっと可愛い子だったし」
「捨てておいてください」
苦笑して言うと、先生もちょっと呆れたように笑って、
「ほんと、でたらめな部活ね」
「全くです」
「なんだ、斉藤教諭とルシアンも居るのか」
タイミング良くマスターもやって来た。生徒会の仕事に空きができたのかな。
「よっすマスター。結構盛況らしいぞ」
「他の部活と比べればとても誇れる数字ではないだろうがな」
そう口では言いながらも、入室者記入用のノートに書かれた名前の数々を見て、マスターは少し嬉しそうだった。
「そういやマスター、ちょっと気になったんだけど、聞いていいか?」
「どうした?」
「あのバッツを倒した時に言ってただろ。この金は今までの人生で二番目に有益な使い方だったって」
「うむ、言ったが」
そんなことを自慢気に言ってたのをよく覚えてる。
するとやっぱり気になるんだけど。
「じゃあ一番有益に使えたなって思ったのは、どんな時だったんだ?」
「……聞くまでもあるのか、そんなことが」
マスターはいつもなら見せないような柔らかい笑みを浮かべて、そっと目の前のパソコンを撫でた。
「これを、私の相棒を手に入れたその時にきまっている」
操作できないようにロックされた画面の中には、カントル小砦のあちこちではためく前ヶ崎高校の校章が。
そしてそれの真ん中で腕を組んで仁王立ちする、アプリコットの姿があった。
心なしか、その表情は随分と満足気に見えた。
向かったのはアコのクラス。
一年なのに模擬店なんてやってるという、かなりレアな教室だ。
近づくと店は中々に混み合っていた。
ついでに華やかな話し声も聞こえてくる。
「ねー、あこちゃん、これどうするの?」
「玉置さーん? お茶どこー?」
「ふええ、わ、わかりませんー!」
あーあー、みんなわざと言ってるな。
わかってないアコがメイド長だからっていじりやがって。
「もう駄目でずぅぅぅぅ」
「うわっと」
「ひゃうっ!?」
教室の入口で半泣きのアコ。
まさかこいつ、逃げようとしてたのか。
「こら、逃げてどうするんだ、逃げて」
「ルシアンー! だってえええ!」
「ほら、逃げたら後悔するぞ?」
「ううう、逃げない方が後悔する気がします」
そう言いながらも、アコはしぶしぶと教室に戻った。
戻ってくるアコと俺をニヤニヤ見つめるクラスの視線が──我慢我慢。
そしてアコは俺に背を向けると、すーはーと深呼吸した。
くるりと振り返ると、にっこりと微笑んで小さくお辞儀をする。
「お帰りなさいませ、あなた?」
「それメイドじゃないって……」
仕方ないか。
こいつ、俺のメイドじゃなくて、俺の嫁だもんな。
苦笑いをする俺とは裏腹に、アコはどこまでも満足気だった。



