第一章 『五』人目の少女 5
『アイテム』はただの少女達ではない。昨夜の車やその運転手の例を見れば分かる通り、実際には彼女達をサポートするために下部組織の連中がたくさんいる。なので少女達の一人一人が分厚い支援を受けられる人数には限りがあるのだ。
銃弾は比重が大きくて柔らかい金属の方が自分から潰れる事で生物破壊力を増加させるが、鉛と純金なら誰でも前者を選ぶ。
そんな訳で、
「一人が正規メンバー、一人が雑用」
「しょぶすなっ!?」
変なタイミングで
その一言で道が分かれた。
「この気弱チワワが雑用」
「まって、待ってくだしゃいいい!!」
泣いてすがりついてくる
と、隣から寄り添ってきた
「(……ふふっ。むぎの、意外と優しい)」
「あん?」
「(自分で戦闘ができない
「ひいいーっ! 何でもしますやらせていただきますっ、どうか私を見捨てないでえ!!」
身も世もない感じの
「どうせすぐに仕事でしょ。結局、それで使える方を見定めてやったら?」
「(いやあの私は『アイテム』なんぞ興味ないっていうか衣食住さえ超しっかりしていれば別に雑用の下働きでも一向に構わないんですけど)」
「きぬはた、勝負から逃げない」
あらぬ方角から全くいらないエールが飛んできて
五人でエレベーターに乗って、そのまま地下まで。
何やら
「(えええー? ちょ、
「嫌よ。結局、こっちだって死ぬ気で地面を探ってどこに地雷があるか一つ一つ確かめていったんだから。血と汗の結晶を何ですんなり渡さないといけない訳よ?」
「(……涙じゃないんですかそこ。超そもそも探り探りで地雷を見つけに行かなきゃ死ぬところが、一つのチームとして根本的に超間違えているような?)」
「むぎの」
「狭いエレベーターん中で聞こえねえとでも思ってやがるのかカスどもが……」
コンクリで固めた地下駐車場に着く。
車のある場所へ向かっているという事は、すでに
「あの、コロシアムの件を調べるって言ってもどこからやるんですかあ? 主催者は顔も名前も謎ですし、試合は毎回バラバラの場所でやるから足取りも
うん、と
「生命保険会社の常務だっけ? その依頼人さらっちまおう」
時間が止まった。
と思ったのは
「まあ結局やっぱりそうなる訳かー」
「色々詳しい話を知っている割に、情報を小出しにしている印象があったよね」
灰色の地下駐車場にずらりと並んでいる車の一台がヘッドライトを二、三回点滅させた。例の見た目だけはボロいロケバスだ。
「そゆこと。ふかーい事情を抱えていたり人には言えない悩みを持っていたり、って流れで『
あのあのあのあのッ!! とようやく
致命的にタイミングが悪い子はこの時点ですでに涙目だった。
「えっと、ちょっともう意味が分からないんですけどそもそも保険会社の偉い人からの依頼なんですよねこれ? 何で
「だってほら、これが一番早くて楽だから」
「誰がお金出すと思っているんですか依頼人怒らせたら仕事終わらせても報酬ゼロでしょ!」
「いや、『
「ッッッ!!!??? て、ていうか権力者ですよ、怖いチカラ持ったオトナの皆様から変に恨まれて命の危機的なコトに巻き込まれるって線はあ!?」
「その程度でやられる
忘れてはならない。
『アイテム』は昨日も大きな力を持った大人達の根城をたった三人で潰してきたばかりだ。
「そもそもほんとに大事なお客なら、仲介人の『電話の声』はポロポロ情報をこぼしたりしない。とにかくコロシアムを見つけて潰せで済むのに、保険会社も常務も明らかに余計だろ」
「そ、そんなのでどこの生命保険会社か正確に分かるんですかあ?」
ビビった
幸い
「問題発生中でしょ? 私達に依頼をするにも事前にある程度の書類をまとめる必要はあるし、自分で問題の原因を特定するために『
一番安全なのは、そもそも何もしゃべらない事。
『
くつくつと
「口で何と言おうが『電話の声』には本気で依頼人を守る気はないでしょー。それより事件を鎮静化させる方が優先」
「……? でもお、困っているのは保険会社の人なんじゃあ」
「結局それ以外にも何らかの利害があるって訳よ。情報が流れてこない以上、そっちが本命で『電話の声』が守りたがっている側」
と、
大声は使っていない。そっと割り込んでいるだけなのに、自然と場の空気を持っていく。
「むぎの。後ろ暗いって言っても扱いは一般人だから、アレは気をつけておかないと」
「眉唾だろ?」
「……
シン、と場が冷たく沈黙する。
いわく、悪質なストーカーが街灯から逆さに
伝説だけなら星の数だが、顔も名前も一切不明。路地裏で泣き崩れる弱者に力を貸し、悪党と戦う何かを与え、『
第六位。
裏道でそれを聞いて憧れるか恐れるかで、その人が胸に隠す善悪はすぐ分かるという。
『アイテム』はもちろん歓迎する側ではない。
序列はあるものの、同じ
こういうリスク管理は、破壊に関して常に準備や経費を求められる爆弾のフレンダだ。
「じゃあ結局、周到に用意してヤるのは一瞬、そこから速攻で撤退って訳?」
「そうなるかね」
若干のくすぶりを見せつつ、一応は
背の高い
「……私は超何をすれば良いんですか?」
「『
聞かれて、
彼女は淡々とこう答えた。
「超まあ、人を殺す程度なら」