[Stage1-1] Re:【悪役】として始める学院生活 ④
入学式の後に寮へと案内され、割り当てられた部屋にて
学院長の長話を右から左へと受け流せば、自室へと向かう時間になった。
「じゃあ、オウガ。またパーティーで」
「ああ。これからもまた話せるのを楽しみにしている」
「う、うん……!」
そう言うと、カレンは上機嫌に髪を揺らしながら寮へと向かった。
彼女には婚約者がいるが、これくらいの社交辞令は人付き合いの
だからといって介入する気もないが。
女子寮に向かうカレンと別れると、手続きを行っていたアリスが鍵を持って戻ってきた。
「オウガ様の部屋は十階の1005号室です。
「ああ、案内してくれ。荷解きはパーティーまでに終わらせるぞ。夕刻まで時間はまだまだある」
「かしこまりました。迅速に済ませます」
早速部屋に向かい、届いていた荷物をテキパキと家具に収めていく。
一般の貴族ならすべてお付きに任せるが、俺は違う。時間は有限だ。二人でやった方が効率がいいし、学院内でアリスと離れるのは悪手だ。
どうも俺は周囲になめられているみたいだからな……。ないとは思うが、アリスにちょっかいをかけるバカがいると想像したら……。
「オウガ様。これにて荷物は最後になりますが……寒かったでしょうか? 申し訳ございません。すぐに上着をお持ちいたします」
「かまわん。これは一種の……そう、武者震いだ」
「なるほど。では、紅茶でもお
「いや、学院を歩いて回りたい。ついてきてくれ」
「かしこまりました」
構造を把握しておきたいという意図もある。
だが、もう一つ大事な用事があった。
事前に済ませておいた情報収集で気になる生徒に声をかけておきたい。
いきなり部屋に挨拶に行くのもおかしな話だし、もしかしたらこうして俺みたいに暇を持て余して校内を歩いているかもしれない。
その相手は唯一、俺に対して先入観を持っていないだろうから。
「とても大きな学校ですね。さすがは王国随一」
「ああ。……とはいえ、生徒の質はそうも言えなそうだがな」
しばらく歩き回っても目当ての人物には出会えず、そろそろパーティー会場へ向かおうとした頃。
角を曲がると、視界に飛び込んできた陰湿ないじめの現場。
三人の男子生徒が寄ってたかって一人の、それも女の子を
「確かあの顔……」
「オウガ様」
後頭部にアリスの視線が突き刺さる。
言いたいことはわかっている。
自分が助けに行くとか、どうせそんなところだろう。
しかし、そんな勝手な行為は許さん。
なぜなら、目の前でいじめられている少女は俺がお近づきになりたい美少女リストに入れていた例の気になる生徒だったから。
マシロ・リーチェ。
完全実力主義のリッシュバーグ魔法学院に入学した唯一の平民。
クックック、俺も運がいい。
ここで
「もちろんだ。行くぞ、アリス」
「はいっ!」
こんな楽に好感度を稼げる機会を逃してたまるか。
「薄汚い平民
「しっかり礼儀を
「気持ち悪い
「ひっ!?」
罵声を浴びせていた三人の内、一人が拾った石でリーチェを殴ろうとする。
当然、やらせるわけがない。
「おいおい。入学早々、なにやっているんだ」
「はぁ? 誰だ、お前っていてててててっ!!」
石を持った男子生徒の腕を
軽く足を払って、地面へと
「ル、ルアーク!?」
「お前! 何してんだよ!」
「それはこっちの
「ぐえぇっ!」
仲間を倒されてキレた一人がこちらに殴りかかってくるが、手で外へ弾くように払いのける。
勢いよく突っ込んできたので、バランスを崩したところに前蹴りをお見舞いしてやれば、後ろにいたもう一人も巻き込んで倒れた。
ルアークと呼ばれた男の襟首を摑んで、お仲間のもとに放り投げてあげれば悲鳴がそろって聞こえる。
「て、てめぇ! 俺が誰かわかって……!」
「ルアーク・ボルボンド。ボルボンド伯爵家の次男だな」
ボルボンド伯爵家はレベツェンカ公爵家──カレンの実家が取り仕切る軍部所属の家系だ。元々他国の兵卒だったがレベツェンカ家がその実力を見て、
この程度の
ここは一つ、語っていた大好きな爵位で相撲を取ってやろうじゃないか。
「自己紹介してやろう。俺はオウガ・ヴェレット。聞き覚えはないか?」
「ヴェレット……こ、公爵家だと!?」
「そうだ。お前の言葉を借りるなら
「く、くそっ! 覚えとけよ!」
少し
目には目を歯には歯を、悪には悪を、だ。
俺のような一流の悪を目指す男の前では、あんな美学もない三流、相手にもならんな。
「お見事です、オウガ様!」
「あんなの誰にだってできるさ。……さて」
「……っ」
視線を向けると、びくりとリーチェの肩が震える。
そして、連動するように──大きな胸も揺れた。
制服の上からでもわかるたわわに育った果実。
なにを隠そう、それこそが俺が彼女と仲良くなろうと決めた要因。
おっぱいだ。手に収まり切らないくらいのおっぱいだ。
「心配するな。あんなくだらない
「え、えっと、あの……」
「一年のオウガ・ヴェレットだ。こっちはメイドの……いや、我が剣のアリスだ」
自己紹介の瞬間、何か
え? 俺、これから行く先々で『我が剣』とか言わないとダメなの? 恥ずかしい……。
「君の名前は?」
すでに知っているが、あくまで初対面。
きちんと彼女の口から名前を聞かないとな。
「マ、マシロ……! ボクはマシロ・リーチェです! 同じ一年生です!」
「よろしくな、リーチェ。立てるか?」
「は、はい……!」
差し伸べた手を
改めて正面から見るが、顔と
透き通った
水色の髪はふんわりとしたボブスタイルでまとめられている。
そして、その下にある自己主張の激しい胸!
留めているシャツのボタンがもう弾け飛びそうだ。
「あ、あの、ありがとうございました。ヴェレット様のおかげで助かりました……」
「気にしなくていい。ああいうのは嫌いなんだ」
ただ自身を肯定するために弱者を侮辱する。ボルボンドの長男は優秀なようだが、次男にそういう話は聞かない。つまり、そういうことだ。
ふん、悪の風上にも置けん
「もうすぐパーティーが始まる。これを使うといい」
そう言って、俺はポケットから取り出したハンカチを彼女に渡す。
スカートには倒された時についてしまった土汚れが散見していた。
このままパーティーに向かえば注目を集めてしまう。
「ほ、本当にいいのでしょうか……?」
「構わん。使い終わったら捨ててくれ」
「い、いえ! きちんと洗ってお返ししますので!」
「……そうか。では、遅れないように。また会場で会おう」
「は、はい……!」
彼女が笑顔を浮かべているのを確認した俺は背を向けてその場を去る。
あの顔……間違いない。
もう俺への好感度が爆上がりしている!
こうも全てうまくいくとは……。
これで俺はリーチェの中で親切な人カテゴリに分けられたはず。
そうなればこっちのもの。
怖い貴族だらけの中、俺を頼るのは確実だろう。
期待に応えてやれば好感度はさらに上がり、自然と縮まる距離。