[Stage1-1] Re:【悪役】として始める学院生活 ③
そう言って、誓いを立てるクリス。
わかっているならいいんだ。
ちゃんと俺の栄光のために働いてくれよ。
「では、帰ろうか。君を父上にも紹介したい。他にも色々と手続きがあるからな」
クリスは表向き罪人となっているので、そのままの名前で雇うことはできない。
ヴェレット家の評判に傷がつく。
だが、その辺りの工作は俺たちにとっては
彼女の新しい戸籍など簡単に偽装できる。
「クリス。新しい名前になにか希望はあるかい?」
薄汚い道を歩きながら、一歩後ろを歩く彼女に問う。
「オウガ様が授けてくださるならば、なんでも構いません」
そういうのが全国のお母さまを怒らせるんだぞ、クリスくん。
俺にもネーミングセンスはないので困るのだが……。
「なら、慣習に従ってこうしよう。父上は自分の子に男なら『ガ』。女なら『ア』を付ける。そして、君の名前をもじって、アリス。うん、アリスでどうだろう?」
金色の髪にもピッタリだ。なかなかいいのではないだろうか。
ちょっとドヤりながら、アリスの反応を窺う。
「……あ、ありがとうございます……!」
泣いてる……!? 顔を涙でくしゃくしゃにして泣いている……!?
なにか変なこと言ったか!?
別に『アリス』はこの世界で笑われる名前でもないし……。
グスリと泣き出すアリスに慌てながらも、とりあえずハンカチを渡す。
数秒顔をうずめ、涙をぬぐうと、すでに麗人と呼ばれるアリスに戻っていた。
「オウガ様。それでは、改めて誓いを」
アリスは数分前と同じ姿勢を取り、新たに授けた名前にて誓いを
「私──アリスの全てをオウガ様に
「ああ、よろしく頼む。我が剣よ」
「っ……! はい……!」
こうして俺は当初の目的通り、アリスを手駒にすることに成功したのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
青い空! 白い雲!
ついにやってきた、リッシュバーグ魔法学院!
親の束縛から解き放たれ、明るい俺の未来の土台を作り上げる場所よ……!
アリスを仲間にした日からさらなる月日を重ねた俺は念願の入学式を迎えていた。
どのような人材が入学するのかは我が家の力をもってすでに調査済み。
俺の隣を通り過ぎていく
ククク……紙で見るだけじゃなく、やはり実物を目の前にすると沸き上がる興奮が違う。
「アリス!!」
「お呼びでしょうか」
俺が名を口にすると、我が腹心のメイドがそばに寄った。
「
「ご安心ください、オウガ様。感動のあまり、わたくしすでにフィルムに収めております」
自信満々に様々な角度から俺が写った写真を広げるアリス。
どれも俺のドアップで背景がほとんど写っていない。
「そ、そうか。よくやった」
「
片膝をついて敬意を示すポーズをとるメイド服のアリス。
連れ帰った時はさすがの父上も驚いていたな……。
「父上。こちらが私が魔法学院へ連れていく付き人、アリスです」
「アリスと申します。命を尽くして、オウガ様にお仕えいたします。どうぞよろしくお願いいたします」
「……ふむ、我が息子よ。一つ聞きたい」
「なんでしょうか、父上」
「彼女はどこからどう見ても、かつての聖騎士団総隊長のクリス」
「いいえ。彼女は俺が見つけた、俺の
「っ……! はい、オウガ様のアリスでございます」
「……いやしかし、クリ」
「アリスです」
「アリスでございます」
「……わかった。そういうことにしておく」
というやりとりがあり、俺たちの有無を言わさぬ圧に根負けした父上が折れる形で決着がついた。
この後、打ち合わせを重ねて彼女に新たな戸籍、名前を与える約束を取りつけ、晴れて彼女は第二の人生を歩むことになる。
アリスという強力な手駒が手に入ったわけだが……。
「なにあれ……。恥ずかし~」
「浮かれちゃっているのかしら。どこの家の子だろ」
「うわぁ……あいつとは距離取っておこうぜ……」
もうすっごい目立つ。こんな門の前、道中で明らかにメイドに似つかわしくない姿勢をとるメイドは注目の的だ。
アリスの顔立ちも美人だからなおさら。
しかし、彼女はやめるそぶりを見せない。それどころかウズウズと何かを待っているかのようだ。
そして、俺は彼女がこういう場合なにを求めているのかを一ヶ月ながら濃密な付き合いのおかげで知っていた。
「……これからも俺に尽くすがいい」
そう言って、手入れされた髪に沿って頭を
彼女は一瞬うつむき加減になるものの、すぐにキリッとした顔つきに戻っていた。
「はっ! 全身全霊をもってオウガ様にすべてを
いや、声デカいよ……。入学式で気合が入っていたのは俺だけじゃなかったみたいだ。
だが、まぁ、よしとしよう。
あんなに強いアリスが忠誠を誓ってくれている。その事実が俺は何よりもうれしい。
命の危険を感じないという意味でも。男のプライド的な意味でも。
それに嫌でもすぐ目立つことになる。
なぜなら、俺はこの学院で悪のトップに立つ男だからだ!
「……ねぇ、今確かにオウガって……」
「え? じゃあ、あれがヴェレット家の落ちこぼれ? 魔法適性がないって
「いいよな。公爵家様はコネで入学できるんだから」
「……クックック。受ける嫉妬は気持ちいいな、アリス」
「さすがの器の大きさでございます、オウガ様。あのような
しかし、他の生徒の反応を見るに部下もといハーレムメンバーを見つけ出すのは困難な道のりになるだろうな。
俺に話しかけてくる物好きなんてそうそういな──
「オ、オウガッ」
──いた。
少女……うん、おそらく少女だと思う。
なぜか男性服を着用しているが、それ故にわずかに出ている胸元の膨らみ的に女性だろう。
緑色の瞳。エメラルドカラーの髪留めは羽根の形をしていて……うん? こいつ、どこかで見た覚えがある……というか、思い出した。
「オウガはその、覚えてないかもしれないけど、私……」
「カレンか。久しいな。五歳の時以来だな」
「──っ! そ、そう! カレン・レベツェンカ! 久しぶり! よ、よく気づいたね?」
「成長しても面影が残っている。それに俺が誕生日に贈った髪留めだ。すぐにわかったさ」
「そ、そっか……。うん、オウガにもらったからちゃんと大切にしてたんだ……」
照れ恥ずかしそうに頰をかくカレン。
切れ長の
男子生徒用の制服を着れる体型といい、相変わらずきれいに整った麗人という言葉が似合う
小さい頃はよく遊んだ仲で、いつも俺の後ろにぴったりとついてきていたのに……。
俺に魔法適性が無いと判明してからパタリと関係が途絶えたんだっけ。
かわいがっていたし、当時は幼なじみを作りたいとか考えていた。
今でも十分きれいだが、これでおっぱいが大きかったらなぁ……。
体型はともかく性格は本当に変わったと思う。昔のおどおどしていた彼女なら腫れ物扱いされている俺に自発的に話しかけてきたりしなかっただろう。
男装している理由はわからない……見当はつくがせっかくの門出の日だ。わざわざ気分が下がる話題を掘り下げる必要もないな。
「せっかくだ。よかったら一緒に行くか?」
「えっ! い、いいの!?」
「なぜ駄目だと思うんだ?」
「だ、だって、その……私」
おそらく彼女は俺と一切の関係を断ち切ったのを悔いているんだろう。
今のカレンの様子を見れば、その決断を下したのが彼女の意思でないことは誰にだってわかる。レベツェンカ家はいつまでも古い考えにとらわれた公爵家の中でも
「お前の知るオウガ・ヴェレットはそんな小さなことをいつまでも引きずる男だったか?」
「ううん、そんなことない! オウガはいつだって……私の……」
「クックック、緊張しいな性格はまだ変わってないんだな。少し安心した。ほら、行くぞ」
「う、うん! 入学式は講堂だって!」
本日のプログラムを楽し気に説明するカレンの話を聞きながら歩き出す。