第一章 入学式(セレモニー) ⑥

 その姿を前にして、オリバーの呼吸が止まった。──髪が、い。ついさっきまで青みがかった黒だったはずの少女の髪。それが今や、真逆の純白に染まって淡い光を帯びている。


無垢の純白イノセントカラー……」


 ぽつりとつぶや縦巻き髪ロールヘアの少女。その単語が指し示す現象については、オリバーにもいくらか知識がある。……体内における魔力循環の力強さと、滞りなく魔素を流す水晶じみた髪質。その両方を兼ね備えた魔法使いにのみ見られる特異体質──極めてな天与の祝福だ。

 戦闘を終えて魔力循環が落ち着いたのだろう。声もなく見守るオリバーたちの前で、少女の髪の色がたちまち元の黒へとかえっていく。と──ふいに、その手から刀が滑り落ちた。


「……雷で洗ったようにしびれてござる。なんたる頭蓋しやれこうべの硬さ」


 すっかり感覚を失っているらしい両手を見下ろしながら、彼女は感心したようにそうつぶやく。それから背後を振り向き、ぽかんと自分を見上げる巻き毛の少女へ問いかけた。


はないでござるか?」

「え、あ……」

「む、足を痛めておられるな。──しばし待たれよ、手のしびれが抜け次第に背負って差し上げる故。情けないことに、今はまだ小石ひとつ握られ申さん」


 そう言ってぶらぶらと両手を振ってみせる少女。続いて、その視線が、やや離れた位置のオリバーたち四人を向く。


「ああ、そこの御仁ら。助太刀に感謝致す。お陰で千載一遇の好機をつかみ申した」


 気さくな口調でそう言ってから、彼女は一転して興味深げな顔になり、


「時に──あのたけびはどなたが発したものでござるか? すさまじい迫力でござったな。拙者、危うく入学式前にちびるところだったでござるよ」

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