Prologue 二輪の花 ①
それは中学二年の文化祭だった。
科学部の出し物は『フラワーアレンジメント展覧会』。市内の大きな生花店と
二日間に
俺はアクセサリーケースを持って、校内をふらふらと
「か、科学部でーす。フラワーアクセの
「それでさー。昼間の
「あーっ! わたし
……どスルーだった。
いや、わかってる。声が小さすぎて、相手に聞こえていない。
俺は
とうとう一日目が終わる一時間前に、やっと校内を売り歩くことを思いついた。……問題は、彷徨うだけで一つも
友だちのいないやつが、
俺が
「何これ? 本物の花? すげえ
「あ、プリザーブドフラワーの、アクセサリーになります。収益は、ボランティア団体に寄付になります……」
プリザーブドフラワー。
生花をエタノールなどの薬品で加工して
そういう加工した花を、アクセサリーにあしらって商品にしていた。
「へー。こういうの、
男子のほうが、商品のイヤリングを手に取った。
やっと買う意思を見せてくれた。俺は勇んで料金を告げる。
「一個、500円です!」
「え、高っ! じゃあいらない」
食い気味に
……俺は初めて、
中学生の500円は、決して安いお金じゃない。マックで食事はしても、同級生の自作アクセに出す金額じゃないんだ。
最終的に、5個売れた。丸一日かけて、100個中5個だ。
(残り、あと一日。……いや、無理だろ)
アホみたいに在庫を
そこにいたのが、日葵だった。
白い
アーモンドのような大きな
流れるようなロングの美しい
どこか
彼女は無人の科学室で、俺の準備したフラワーアクセを熱心に
彼女は商品のカチューシャを、頭の上に乗せていた。丸い花のつぼみを三つ、ぽんぽんぽんとあしらったものだ。
『絵になる』
これがインスタだったら、迷わず「いいね」を100回押すだろう。……いや、実際には100回も押せないんだけど。
そんな馬鹿みたいなことを考えていると、彼女が
「あ、やっと帰ってきた。きみ、科学部の
いきなり名前を呼ばれてビビった。俺にとっては完全に初対面だった。美人は声も
「そ、そう、です、けど……?」
上級生か下級生かもわからないので、つい返事がキョドる。なんでこの学校、
「お店、空っぽにしたらダメじゃん。さっき、ビラ持った女の子たちが見にきたよー」
「えっ!?」
しくじった。科学部は、俺一人しかいない。もちろん店番もいなかった。それじゃあ、売れるものも売れない……。
「……いや、いいや」
「どうして?」
そこで
「……どうせ売れなかったし、いてもいなくても
「…………」
「いやー、売れたんだけどなー?」
「え……っっ!?」
変な声が出た。もはや
からかわれているのか。いや、そんな感じではない。
「いや、なんで……てか、俺はいなかったんだけど!?」
「あ、ちゃんと代金はあるよ。アタシが預かっといたからねー」
そして、代わりに茶色の
「はい、15人分だよ」
「じゅ……っ!?」
千、二千、三千……1万1500円。
うわあ。こんな大金、正月のお年玉くらいしか見たことな……。
「いや、待て。これ、えっと……」
「あ、15人で合計27個売れたから」
「け、計算、が……!?」
「計算がおかしい?」
俺は
「おかしくないよー。えーっと。ゆりりんがイヤリングとヘアピン、まっぴーがブックカバーと
からから笑いながら、次々と
マジで一人がいくつも買っていったのか? 500円ですら、中学生にはけっこう大事な
でも確かに、言われた商品が消えてる……。
どうして急に? 今日一日、必死こいて売っても5個だったんだぞ? それなのに、俺が
……そんなに俺の顔やばいのか? 自信あるわけじゃないけど、めっちゃ傷つく。
「ねえ!」
いきなり顔を
真正面から見つめられて、心臓が止まりそうなくらいびっくりした。
……とにかく、顔がいい女子だった。
「
「べ、別に……」
つい目をそらした。……美人、苦手なんだよ。
「あっ。それより、店番してくれたお礼を……」
「いやいや、別にいいって。アタシも
「そ、そういうわけには……」
「んー。じゃー、一つ教えてもらおっかなー」