一章 彼女と彼女の恋愛事情 ①
桜舞う、四月。一般的には出会いや別れの季節と称される多感な季節。
しかし、本日から高校二年生という
「やっほー、
「おはよう、
一年から継続して同じクラスになったらしい、
中性的な顔に浮かぶ柔和な笑みは非常に爽やかで、年上お姉さんの心を
「また一年よろしくね。いっやー、それにしても運がいいね、僕ら」
「運? ああ、結構一年のときと同じ
人間関係を再構築するのにさして苦労もせず済みそうだという意味では、確かに幸運かもしれないと思い同調したが。
「またまた~、とぼけちゃって。そういう意味じゃなくってさぁ……ほら?」
流し目を作った
「ほらって何が」
「え……もしかして、まだ知らないの? クラス分けの名簿、見てきたんでしょ?」
「見たけど、なんだよ? 宝くじの当せん発表でも兼ねてたのか、あれ」
五組の皆さんにはもれなく金一封をプレゼントです、とか。だったら小躍りして喜ぶレベルだが、平凡な私立校でそんな都合の
「な、なななな、君って男は……」
「黙ってこの教室の男子から発せられる空気を感じてみなって」
「空気も何も……」どうせ取り留めもない新年度の挨拶を交わしているだけで、大して面白くもないだろう、と。周囲を見渡したのだが、完璧に裏切られる。
「っっしゃあ!」盛んにシャウトしてガッツポーズをする者。
「神様ありがとう!」天を仰ぎ
「やったな」「ああ、やった」とか言い合いながら熱い抱擁を交わす、気持ちの悪いコンビまでいる。
「これから一年間が
「まさにそう。そしてその理由がね……って、
瞬間、浮き足立っていた男子の雰囲気が一変。崩れてもいない前髪をグリグリ
「お……」
身構えていなかった
首の後ろで結ばれた白に近い金髪が、蛍光灯の安っぽい光を
また同じクラスだねー、良かったねー、と。付近の女子と笑い合っている少女の瞳は、ターコイズブルー。南国の海のように深い青色をしていた。
オオオオという声にならないどよめきが、地鳴りのように響いた気がする。それが向けられているのはアイドルでも
「彼女こそ我ら新生二年五組が、今年度一番の『当たりクラス』と評されている理由の一つなわけですよ」
したり顔で鼻を鳴らす
整った目鼻立ちで、外国の血が入っているのは想像に
入学当初から
「あ、
トリップしかけていた頭が正気に戻る。なにせその原因となっていた張本人がにこやかに手を振りながら近付いてきたのだから。もっとも、目当ては
「おはよう、
「おはようございます。同じクラスなら、生徒会の連絡とか今年は楽そうですね」
「そうだね」
知り合いらしい二人は
欧米人みたいにくっきりした二重まぶた。雪のように白い肌。柔らかそうで血色が
「そちらは
「え!?」背ぇ高いくせに顔ちっちぇえなぁとか思ってガン見していたら、不意に目が合い心臓が跳ね上がる。
「どうも初めまして、
と、天使のような少女からこれ以上ないくらい柔和な笑みを向けられたにもかかわらず、
「あ、はい!
早口で落ち着きなく体を揺らしながら半笑いの
「こちらこそよろしくお願いします……って、あ、すみません。何か向こうで呼ばれてるみたいなんで、私はもう行きますね? それじゃあ」
丁寧にお辞儀をしてから
「…………」
なんだったんだろう、今のは。つかの間の出来事。たった一言話しただけなのに、天にも昇るほど幸福な時間。遠ざかっていく女神から視線を外せずにいると。
「やあやあ、驚いたねー。普段は『女に興味ありません』みたいな顔している
「その言い方だと俺がもう枯れてるみたいだからやめろ」
「ごめんごめん。
「だってそういうの疲れるし」
「恋愛アレルギー入ってるっぽい?」
「そこまでじゃないけど……」
ラブロマンスが花咲く高校生の
今までの十六年がそれを証明していた。顔も性格も大して良くない
恐るべきは、そんな
「あんな殿上人と知り合いだなんて……
「いやいや。一緒に生徒会の手伝いとかしてる関係で、ちょっと親交があるだけだよ」
たとえ親交があっても、あんなフレンドリーな会話をする自信が
「はぁ……にしても。そういう理由があったわけか、この状況は」
改めて周囲を見る。頭の中にお花畑でも形成されていそうなにやけ
「確かに当たりかもな、このクラス」
「ふっふっふっふ……ところがどっこいさ、
「片翼?」
まるで彼女に匹敵するほどのファクターが、もう一つ存在するような。それはさすがにハードル上げすぎというか、
「あっ……



