第十章
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「うーん、何か凄く濃いゲーム時間だった……」
僕が呟く場所は、しかしまだゲームというか、現実の中だった。
岩盤大地の上にある岩屋。
さっきまで、雷同先輩達からこの世界のことや、テラフォームには人類の政治が関わっていることなど聞いて、

「マー詰め込んでもよくないから、ここらで今日は切ろうヨ!」
と、現地解散となった訳だ。僕としてはソッコで神界ってか90年代に戻って書店に駆け込んで、

「済みません! 未成年でも買えるBUNNY GIRLの資料集または写真集ありますか!? 神様が獣姦オッケーって言うんで!」
と店主の襟首掴む勢いで行きたかったが、踏みとどまった。先輩がこう言ったのだ。

「ちょっと、戻る前に一息入れましょうか。今後のこともありますし」

「ハイイイイイイイイイイイイイイイ! そうするであります!」

《貴方何でそんな全てに気合い入ってるんですか》

「ハ? お前には全然気合い入ってないけど? そんな価値あると思ってんの?」

《い、一番重要な存在によく言えたもんですね……》
自分で言う分にはそうじゃない気がするなあ、と思ったけど、キッチン? そっちに立つ先輩の後ろ姿が、凄く何というか、一言で言うと、そう、あれだ。

「エロい……」

「え?」
僕は久し振りに自分の顔を自分で叩いた。違う。そうじゃない。先輩は確かにエロいし巨乳というのはそういう方向と結びつけられるものでありますが、それはつまり、

……”ギャップ”なんだよな!
現実にそういう姿が存在しているというギャップ。エロとかセクシャルとか、ある意味、恐怖とか喜びとかも、そういうものだろう。何とはない現実に、それが存在しているというギャップは、奇跡そのものだと思う。
だからこそそれらは孤高で貴重だ。美しい。
そして僕はその”質”で区別はしないから、つまりエロだろうと何だろうと僕にとっては、この場合、

「いや、まあ、すごくいいです」

「え、えーと……」

《コイツの場合、エロいってことと同義である確度が高いです》

「逆だよ馬鹿……!」
言い合っていると、笑われた。
そして見ていると、先輩が手さばきを見せた。
茶を淹れるのだ。
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「今日はいろいろお疲れ様です。お茶、淹れますね」

「あ、どうも有り難う御座います! 有り難う御座います! 先輩というか、女性にお茶淹れて貰うなんて人生初なので動画撮っていいですか!?」

「え?」
僕は自分の顔を自分で叩いた。そして、

「バランサー、僕の啓示盤の録画機能ってどーやんの?」

《く、挫けない人ですね貴方……!》
ともあれ諸機能とヘルプを軽く教えて貰う。アーハイハイ、大体は言えばいいのね。

「あ、90年代の方のテレビ録画とか出来る。実は啓示盤って、バランサーより高性能なんじゃないの?」

「求められてる機能が違うんですよ機能が!」

「――――」
先輩の小さな笑いが聞こえてきた。
しかし、神様が茶を淹れる、というのを、僕は初めて見た。
先輩は何か鼻歌らしき、軽いメロディを喉で鳴らしながら、

「♪――」
流し台に見える岩の台。これもかなり研磨されている風だったが、そのフロントを開け、中からカップとポットを取り出す。

……え?
流し台は岩だ。研磨はされているように見える。だが、無造作にそのフロントが開いたとき、見える内部構造は流し台の収納のそれだった。
岩なんだけど。

……ンンン?
普通、流し台というのは、木材やプラスチックに、ステンレスのフレームとか防水素材とか、そういうので出来ている。しかし今、見えているのは全部岩だ。
石屋で墓石とか見ると、平滑が綺麗だなあとか思うが、収納のボックス部分の作りや、”板”の薄さとか見てると、その比じゃない。
人が作れない。否、作ろうとしたら、かなりの技術や機械に頼らないといけないものが、そこに出来ている。そして、

「――――」
気付いたのは、何となく岩が剥き出しだと思っていた岩屋が、”違う”ことだ。
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立ち上がり、見てみる。
壁は単色だが、壁紙を貼ったようなものとなっていた。気付いたのは、壁の”違い”だ。
内壁は、岩石の淡い凹凸を削ったのだと、そう見ていたものだが、

「……花柄のレリーフだコレ……」

《お気づきになられましたか》
気付いたも何も、偉いことだ。
見たところ、この岩屋は八畳六畳の2DKってところだが、キッチンのあるこの部屋の壁はそのような処理になっている。
床も、見れば、やはり凹凸に見えるものは、

「……板張りの再現か」

《ちょっとやり過ぎ感ありますよね》
何となく気になっていたことを問うてみる。

「あっちの部屋、二畳分が張り出しになってるけど、まさか、押し入れ?」

《イエス、押し入れです》

「…………」

「……何となく、あの押し入れのフロント、岩を切って重ねたのかな、と思ってたけど、……襖に見えるよね?」

《イエス、襖です》

「開くの? 重くない?」

《…………》

《……実はあれ、中身が空洞でして、動かすとカラリと簡単に開きます》

「どういう?」
僕は、向こうで調理中の先輩に気付かれないよう、バランサーに問う。
先輩は今、ポットを非火力系コンロらしい熱石のプレートに乗せて沸騰待ちだ。
ここは恐らく先輩の”神域”なのだろう。水の制御も上手くいったらしく、何となく湿度の上昇のようなものを感じる。
そしてバランサーが、

《彼女が何で、お茶を淹れようと言ったか、解ります?》
問われ、先輩のことなので真剣に考えるようにする。

……先輩はさっき、外でも水を作ることが出来たから――。

「水が作れたから?」

《…………》

《……ちょっと惜しいですが、まあ、良しとしましょう。彼女の話をよく聞いてあげた方がいいですよ》
何事だ、と思っていると、足音が来た。

「ちょっと暗いですね。灯光の権術を出しておきます」
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「権術?」
僕が問うと、先輩は頷いた。岩で出来た、しかし軽そうな盆に、ポットと

「神々が権能を体系化したものです。広くは、神でも人類でも術式と言われますね」

「えーと、つまりは神様専用の術式?」

「人が使うのより純度が高いです。神直結ですから」
つまり、

「神は流体の直接操作ができますが、立ち上げにはそれなりに作法を必要とするので、だったら普遍的なものなどは体系化しておこうと、そんな風にされてるのが権能の術式、ということで権術です」

「神術でいいんじゃないかな、と思いましたけど、神が自分の術式を神術って言うのは何か違いますね」

「魔女は魔術を使うから魔女ですけど、神は神術を使うから神、っていうルールでもないですからね。神道の場合、横の繋がりが密接なので、他の神様の権能を借りて使えるんです。このルールを”代演”と言って、正直、かなり多用します。というかするらしいです」

「らしい?」
と言って、僕は気付いた。

「まだ、神道の神々は、多くがエントリーされてないんですね?」
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《この星においてはまず人類である貴方ありきのテラフォームです。だから貴方が選んだ彼女以外は、いろいろ保つための最低限しか関わることを許可しておらず、全てを実在顕現させてる訳でもありません》

「僕はお前じゃなくて先輩に聞いたんだけどどうして答えるわけ? 異音たてるよ異音。ギギギギギギギギギ!」

《ウワアこの馬鹿ホントに腹立つ……!》
まあいい。
だとすれば、僕達の必要に応じて、権能を持つ神が実在顕現? されるということか。
だけど、

「だったら、他の神話の神々にアウトソーシングしなくてもいいんじゃない?」
問いかけと、先輩が僕の手前と横にカップを置いたのは同時。そして先輩が横に座り、僕はコーフンした。

「先輩! 真横に座るとかそんな恐れ多いことを! もっともっと! あと僕と結婚したいという意思表示ですかそれ! 既に僕は脳内で二十七回そうしてますが!」

「え?」
僕は自分の顔を自分で張った。いかん。神の前だと嘘がつけないというか本音ダダ漏れだ。これでは恋の駆け引きのようなことが出来ないじゃないか。マー駆け引きしたら全部ベタ降り確定だけどな! いいよ先輩! ホント!
ただ、僕は先輩を見て思った。

……テーブルに巨乳が乗る……。
前にも見たか? 見た気がする。が、今回は真横だ。思わずテーブルに顔を横に乗せてみるが、物体の重量による変形というものは素晴らしい……。Good。

「あの、住良木君?」

「あ! ファイ! すみません! 集中しすぎてしまって……!」
とはいえ、先輩の、こういう”力”みたいなものを見ていて、気付く事がある。

……手元の作業だ。
成程。つまりはこういうことなのだろう。

「他の神々も、多くは先輩のように、力が無い状態なんですね? だから、手元の作業のために力を借りることが出来ても、テラフォームのような大規模作業には力不足なんだ」
言って、茶を飲む。すると、

「ウヒョォオ――! 美味え! 何コレ!? 何も入ってない紅茶がこんな美味いのどういうこと!?」
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「先輩! 何か入れました!?」

「えっ? えっ? いえ、別に何も」

「じゃっじゃじゃじゃじゃあ茶っ葉が違う!?」

「いえ、神界から持ち込んだフツーのティーバッグですけど」

「先輩のティーバック!? あ! すみません! やっとかなきゃいけないネタだと思ったのでデカい声で言ってしまいましたけど他意は無いです! ただ単に好きなだけです! で、ええと、――おい啓示盤以下の画面。何で90年代から持ち込める訳? そういうルールだったっけ?」

「神が神界から現実に降りてきたとき、個人神域を最低限確定する衣装や荷物に持ち込み、それを己の神域で出すならば、輸送は可能ですよ?」
えーと、どういうことだ……。

「オッパイで説明して下さい」

「え、えっと、無理です」

「ですよね――! おいバランサー、お前だよ」

《出来ると思って言ってませんね!?》
まあそこらへん期待はしてない。だが、要するに、

「トンネルみたいなもんか。神域はその神話、もしくはその神の支配空間なので、神界のものも持ち込み可能。でも神域の外に出すと駄目だよ的な?」

「私の場合、この岩屋は私個人の神域ですね」

「一応、新型制服と呼ばれるものは、神の個人神域を確定する衣装です。それを着ている場合、自らの周囲は神域が確定します。無論これも、本来の姿の側ではまた別の話となりますが」

「それは――」

「ま、まあ、私が名前を隠している云々、みたいなことですよ」
そうですか、と、僕はそこに触れないことにする。
しかし、何となく解った。

「この紅茶、美味いのは、先輩がここに持ってくるとき、ティーバッグをその上着やスカートのポケットに入れてきたからですね。巨乳や太腿の体温が一度通ってる……」
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鼻で嗅ぐ。

「ア――! 先輩の体温が香しい――! このあたり! この辺に漂ってるのが腰横の骨盤あたりのちょっと縦に平面なフェチい部分の体温! そうですよね!」
あと、他にも要因がある。

「さっき作っていた水ですけど、つまりこれは先輩が自ら手揉みで空中から作った先輩の先輩水! 先輩汁とか先輩液とかそういう単語も浮かんだけどここはやはり先輩水! ああっ、僕、先輩の水ならどんだけでも飲めます! ああ美味いもう一杯!」

「あ、ハイ、どうぞ」
飲む。美味い。落ち着く。冷静になる。そして、

「……今、僕、変な事言いました?」

「……まあ、多分、褒めているんだろうな、って」
この人、女神か何かじゃないだろうか。あ、いや、女神か。じゃあいいのか。うん。いいんだ。何か釈然としない気もするけど、うん、それ以外どうしようもないしな……。
ただまあ、ひと息ついて岩屋を見ると、

「先輩が作った場所なせいか、落ち着きますねー」

「そうですか?」
うん。何だろう、コレ。壁とか思った以上に手間掛けてるというか、デザイン入れてるのは、ああ、そうだコレ。多分コレだ。

……こういうこと出来る力が手に入ったとき、嬉しかったんだろうなあ。
洋間をベースとしていても、手作り感がある。
先輩が、ここでテラフォームをやっていこうと、そう決めて作り込んだんだ。

「――先輩が守ってくれるような、そういう落ち着く場所ですよね」
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僕は、横に座る先輩が一息吐いたのを見た。

「ええと……」

「はい?」
あのですね、と先輩が言った。

「……始め、私達、ホントに力が無いんです。四文字さんや紫布さん達は、ちょっと神としても格が上で、私なんか、元がええと……」

「神話の中では、名前一回くらいの退場って言ってましたよね?」

「あ、はい、……その、国津神のレベルでして」

「えーと」
アー、イカン。くにつかみ、って解らない。つかめるのが国レベルなんだろうか。何がだ。まあいい。つかめるのとつかめないならつかめる方がいい。

……そういう揉んだ! もんだよな!
だが、言っておく。

「そのあたり、僕の方では勉強しますんで。下に下に、と説明しないで大丈夫です」

「すみません。神としてはぎりぎりに近いランクだと思って下さい」
だから、

「始め、神として存在できても、他者への権能を与えることが出来なくて」

「それ、どうなるんです?」

《神としての力も、外への支配力を持ちませんから、何もかも直接操作しなければなりません。拝まれても何も返せない、神という名前だけの単なる存在。それも、操作してる部分しか力は発揮できないような存在ですね》
それはどういうことか。

「触れてる部分しか、溶岩を大地に出来ない……。でもそれを重ねて、経験値を得るしか無い訳ですよね」
ではどうするか。

「だから、安全かつ安定した経験値を得るために、課題としてこの岩屋を作ったんですね?」
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僕の視界の中で、先輩が小さく頷いた。

「屋根がついたあたりで、ようやく神格が一つ上がって、産土は持てませんけど、”祈願者”の獲得が出来るようになりました」

《地蔵や御堂と同じですね。支配する地域としての神域を持ちませんが、祈願する人には加護を与える。そういう存在に格上げされたのです》
でも、と先輩が苦笑した。

「その状態では、まだ住良木君をこっちに呼べません。住良木君は、私をパートナーに選んでいても、私はここに住良木君を呼べないんです。それは何故かと言うと――」

「先輩が、僕の祈願によって僕を守ることが出来ても、この過酷な環境下では、僕は来た瞬間に駄目だからですね? 何しろ、酸素もなければ超高熱な訳で。祈願してる暇も無く死んでしまう」

「はい。だからまた、ここを作って……、そうしたら格上げが来て、ようやく小さいながらも、神域が得られるようになったんです」
それがどのくらいのスペースなのかは、よく解る。

……ここの岩屋の面積だ。
よく、大きな屋敷なんかには御堂があるが、あれだ。
所属する家の敷地を守る神。そのくらいの存在になったと、そういうことだ。

「それでまあ、住良木君をこっちに呼べると、そうなって……。でもそこからいろいろあって……」
先輩が笑みを見せた。

「住良木君が見たら、どう思うでしょうか。みっともないって、思われないでしょうか。もっと可愛くしたいけど、岩だと駄目かなあ、って。――そんなことを思ってここを作り込んでいて、こうして中に呼ぶのは大分不安で、でも――」
でも、

「ここに来た住良木君が褒めてくれて、私は嬉しい」
だって、

「――頑張ってきたことが、住良木君は通じてくれたから」
泣かれた。
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《泣かしたあ――!!》

「うるさいよ馬鹿! ええと、いや、そのえーと!」
流石に不意打ち案件だ。前も泣かれたけど、何かもう、先輩はいろいろとストレスを我慢しすぎていると思う。
泣き虫の女神様というか、ああでも、幸いだと泣くのか。だけどそれは、先輩の場合、自分の性能や思考によって反動がデカいってことでもあるようで。

……僕、ストレス一切無い派なんだけどな……。
少しはこの”無い”を分けてあげられないだろうか。だが、

「先輩、あの、先輩は気付いてないかもしれませんけど」

「……何?」
涙を拭いながら、先輩が疑問する。それに対し、僕は言う。間違いなく言う。

「僕がして欲しいこととか、そうだといいなあとか、これいいなあ、っての、先輩全部持ってるし、やってくれるんで、多分、これから先、泣いてばかりになりますよ?」

「…………」
先輩は、やや考えたようだった。ただ、

「うん」
言われた。

「いっぱい泣かせて貰います」
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いっぱい、と、オッパイを掛けて何か標語を作ろうかと思いましたが、踏みとどまりました。
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そして僕は、泣き止んで笑顔を見せた先輩に、三杯目をサーブして貰って、飲み終えてから神界という90年代のアレに戻ることにした。

「アレはどういう仕掛けなんだ、一体……」

《あ、別に何処かのサーバに作ってる圧縮空間とかではなく、この星に展開している位相空間ですよ。そこに情報体として90年代を再現してるだけです》

「そっちを本物でいいんじゃないの?」

「位相は位相です。密度の自信はありますけどね。――では、また次回。神界の方でも私のことが必要だったら、呼んで下さい」
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「――流石にあいつらも、そろそろこっちに来る頃か」
と、雷同が言うのを紫布は聞いた。
自分達がいるのは校舎を西に、立川の町を東に眺められる造成丘の上だ。コンビニが一件だけあり、その前のベンチに彼と共に座っている。
風呂の帰りだ。自分達の住み処と、銭湯が、この丘を挟んで向かいにある。
だから風呂の帰りは、ここで立川の夜景と、静まった校舎を眺めつつ、

「炭酸いいネー!」

「このところ、やたら甘いのが出回ってジンジャーエールも何だコリャって感じだったけど、最近は甘いの控えめなのが増えてきていいな!」

「これからどーするかナ? スーパー寄って肉仕込んで寝るかナ?」

「いやちょっとゲーセン寄ってく。木戸の取り巻きがいるだろうから、今日のこととか言っておけば伝わるだろう。あと、TJが地味に俺のスコア抜いたから抜き返す」

「ンー。やること多くなったねえ」

「元の環境とは偉い違いだ」
と言ったときだ。ふと、校舎側の方から人影が来た。

「アレ? 思兼?」

「おお、君達か、丁度いい、今、ちょっと大変な事が起きたんだが、目撃者など探しつつ調査中だ。とりあえず君達のアリバイなどについて話して貰いたい」
ハア? と自分は財布の中から銭湯の割引券を見せる。

「一体、何があったんだヨー?」
ああ、と思兼が息を整えながら言う。手元に自動で開いた啓示盤には、スケアクロウが映っている。彼女は向こうと二、三言を交わした上で、こう言った。

「今、住良木後輩が、下の校内街道でダンプにハネられて死亡した」
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「――また!?」
紫布は、思わず口走ってから、言葉を飲む。だが思兼が静かに頷く。

「この時期で、住良木後輩の自覚もついて来た頃だ。どういうことなのか、下手人は誰なのか、神道の現場代表として調査を進めたいと思っている。だが――」

「住良木は?」

「ああ、目撃者というか、声を聞いた者の話に寄れば”先輩と外のお風呂だあああああああ!”と叫びが聞こえて、ややあってからドシンと衝突音が」

「…………」

「……住良木チャンがダンプにメーワク掛けた?」

「それがダンプは無人でね」
アー、と自分は深く頷く。こりゃ面倒な流れだネエ、と。だけど、

「これ、あとで桑尻が功刀のところに駆け込んでキレる流れだろ。というかすぐにリスタートって出来るのか?」

《失敬。そうしないと、”先輩”さんがキレられると思います……》

「いつも神に対しては呼び付けなバランサーがビビってるよ……」

「まあ、彼女は最強の神だからね。フフ。あまりトラブルには巻き込まないで貰いたいがね」

「どっちがトラブルだっつーの」
ただまあ、と相方が吐息して、空を見上げた。
この空は地球の空だ。外の、現実の空では無い。そんな夜空を見上げて彼が言う。

「人間、神と違って簡単に死ぬよなー……」

「いやあ、織り込み済みだったけど、なかなか慣れないネー」
さてまあ、

「住良木チャン。どういう感じで次は来るかナー?」
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……というわけで、僕は死んでるというか死にingらしんだけど。
何だろう。ものすごい違和感がある。というかそうだ。僕は以前にも死んだ事がある。
それもあれは現実の方で、だ。

……でも現実は、ゲームじゃなかったんだぞ!?
だとしたら、あれが夢では無い限り、僕はあそこで死んだ。あっ、アソコで死んだ、とか、カタカナにするといかがわしいよね!
意識がスっと薄れてきて、アバヨ現実、とかちょっと思った。だけど足音が聞こえる。
ああ、夜空が薄くなる視界に見える。コレアレだ。学校内の通りで。先輩が駆けつけてきたのかな。だとすると、アー、そう! そう、パンツ見えます! いいです! そんな感じで死んでいきたい! だけど、

「ええええええ!? ちょっとちょっと! どういうことですか一体! バランサー! 出てきなさいバランサー! 説明! 説明を!! コレ完全に予定外ですよね!?」
予定って何? というか、

「住良木君!」
言われた。

「御願い! 忘れないで……!」
あ、うん。努力します。



