第九章

「ヤホー、住良木チャン、先輩チャンも、ちょっとここで合流かナー?」


 紫布としては、ちょっと考えを巡らせる。自分達はバランサーの言うように”他の神々”であるが、


「無茶苦茶、ルールとか前提情報が面倒ですよね。……何処まで話します?」


「俺に解る範囲だと嬉しい」


「いや、徹はかなり解ってるってか、私より解ってる部分多いから、その基準だと全明かしになって駄目だヨー」


「解ぁりやすいぃって言ったら僕なぁんだけどぉ、解ぁかりやすいぃところで呼ぉんで貰えるかなあ」


 凄い有り難いというか、楽が出来る流れを作るのもこっちの采配次第になった気がする。だけどまあ、まずこちらとしてはぶっちゃけ、


「バランサー? そっちが、今、必要だと思う範囲でこっちの紹介をしてくれるかナー?」


《そうですね。必要最低限という形ですが、それが安全だと判断出来ます》


「”安全”ときたもんだヨー」


 マー確かにそうかナー、と、そう思わせる部分は多々ある。 


 僕は、隣に立つ先輩がビミョーにキンチョーしていることに気付いた。


「…………」


 どういうことか、予測はつくが、それが”本当”かどうかは解らない。ただ先輩の面持ちは、まるで遊んでいることがバレた子供のような雰囲気もあって、更にちょっと腰前で絡めた手は間違いなく巨乳が作る死角で見えてないですよね! 何か綾取りみたいに絡む両手を観ていると、僕はそこに絡め取られた讃岐うどんになった自分を想像して、あっ、あーっ、あああ! 先輩、そんな大胆なうどんの絡め取りはああああひいいいいいい!


「いい……」


「え?」


 僕は自分の頬を自分で叩いた。紫布先輩達がやってきたので左右叩きのカウントはリセットだ。そして向こうはバランサーと何か話をまとめたらしい。紫布先輩が手を上げ、バランサーがこっちに来る。


《じゃ、既に顔見知りだと思うので、神界設定での紹介は不要ですね。

 ――作業の方に行きましょうか》


「オイイイイイイ! もうちょっと紹介しろよ! ここは雷同先輩や紫布先輩達がどんな巨乳教の神か僕に教えるべきだろう!? 揉ますぞお前……!」


《ハア? 言っておきますけど私、手がないので揉めませんけど? 頭大丈夫ですか》



 桑尻は、馬鹿が旧型制服のシャツの中にバランサーをツッコみ、岩盤大地で腕立て伏せを開始するのを見た。


《アアアアアア! 胸を地面についてからの正確な”腕立て伏せ”……!》


「ほれ? ほぅれ? どうや? ええ? ええんやろ? こういうのがええんやろ?」


「……コイツらいつの間にこんな仲良くなったんですかね」


「あと意外と住良木チャン腕立て出来るね」


「いやアレちょっと腰が浮いてるからサボってる。うん」


《最悪……! 最悪ですねこの猿の進化系……! AIに何するんですか一体!》


「うるさい! どうだ!? 思い知ったか! 僕は嫌がらせのためならば筋肉の心地よい疲労も恐れない……!」


 僕がポージングを取ると先輩が視線を逸らしたまままばらな拍手をくれた。やった! 先輩から応援して貰えた! 今後も精進する所存であります!


「で? どうするんだ?」


《うーん、まあこの知能の低い方が説明欲しいというので、それなりに》


「イエー! 知能が低い猿の腕立て伏せで手籠めにされてやんのこのAI――!」


 紫布先輩がバランサーを宥めに入って、巨乳に迷惑掛けちゃいかんな、と僕は思いました。

 そしてバランサーが、一息をついて彼らの前に浮き、言う。


《彼らは協力者の一部です。手っ取り早く説明すると、テラフォームを進めている星はこの星系の中で幾つかあり、彼らは自分達に預けられた星をある程度まで仕上げています》


「え? じゃあ廃プレイヤー設定は、そこで生きてるの?」


「まあそういうことだ。こっちは人類居住が可能な範囲を支配率から見て大体安全なところまで仕上げてる。だからまあ、ここの援助に来れるんだ」


《四文字は基本、単独で一つの星を、残りの三人も、別の星を仲間達と共に、基礎的なテラフォームを終えています》


 へえ、と頷きながら、僕は横の先輩がえらくキンチョー進めているのを悟る。


「あの、先輩?」


「……!?」


 声掛けるとビビられるくらいキンチョーしてる。大丈夫かなあ、と思うけど、こういうのは個人の資質の部分もあるから、ここではどうしようもない。だけど、


「大丈夫ですよ先輩、僕といれば先輩の神格ガンガン上がりますから」


「え?」


 疑問されたが、自分の顔を叩くターンではない。


「僕の巨乳信仰があれば先輩の神格は無限に上がり続けますから」


 キマった、そう心から思った。結婚申し込むの時のプロポーズとして考えた場合、これ以上はなかなか難しいレベルでキマった。ああ、性癖がストレートに反映されるシステムで良かった。本当に良かった……。


「……住良木君は、ちょっと茶化し気味ですけど。ええ、信用してます」


 何か茶化したことがあっただろうか。ああ、バランサーのことですね。アレはいけない。アレはちょっと、人格が出来ていてアオリ耐性の高い僕がウイットで返さなければだめだ。フツーの人間だったら激怒しているところだろう。


《さっきから何ブツブツ言ってるんですかキモ猿》


「お前エエエエエ! お前……!!」


「住良木君、激怒モーション入ってないで落ち着いて」


「激怒モーション!? どんな感じでした!?」


 え? と戸惑った先輩が、ややあって、両の手を握った。そして、


「プンスコ! プンスコ! ……っていう感じで……」


 ……直撃弾が来ると解っていて受け止めきれないこの感じ、悪くない……。


 あやうく死にかけるところだった。

 よく考えたら先輩は神なんだから、神が直撃モーションやったら人は耐えられんよな。

 だがまあ、そういう意味では先輩の緊張も解る。


 ……格の違いかー。


 向こうの方が神格が上。

 そりゃそーだ。テラフォームを、手放してこっち来てもいいとなると、相当進めているに違いない。30メートル四方を大地にしてる先輩とは遙かな格差があるだろう。それに、


「先輩達は、神道なんですか?」


「あ、違うヨー」


 紫布先輩が言いつつ視線を飛ばすと、雷同先輩が頷いた。


「俺、紫布、桑尻は北欧神話。こいつ、四文字は――」


 うんん、と四文字先輩が軽く優雅に両の腕を広げる。


「僕はぁねえ? ほおら、唯一神とかぁのアぁレなんだよねえ」


「……唯一神が何で他の神達といるんだろうか、とか、考えたら負けですか」


「はははは、唯一神、結構ー数がいぃるからねえ。弟達とか、仲悪くてねえ」


 アーまあそういうもんでしょうね、と思う。そして紫布先輩が手を上げた。彼女は自分達を指さし、


「じゃ、とりあえず紹介しとくネー」


 紫布は、何かこういうの照れくさいネー、と思いつつ、言葉を作る。


「徹は北欧神話の戦神トール。知ってる? トールハンマーとか、そういうの」


 問いかけに、後輩は思案した。ややあってから手を打ち、


「銀英伝のアレ!」


 よく解らないけど向こうに解ってればいいかナ? 徹の方は腕を組んで頷き、


「実は知ってる。小説やアニメもあるけど、俺は塀州んトコのパソゲーで知って”どのくらい強い?”って攻めに行って全滅食らった。流石俺の由来」


「負けてどーすんのかナ?」


「いやあれ難しいんだよ方向転換するのもターン掛かるし」


 男の子はコレだからナー、と思いつつ、まあまあといなしておく。そして次は、


「こっち、桑尻チャンは、北欧神話の知識の神クヴァシルなんだよネー」


「え? 私より先に紫布先輩でしょう? それに私は神というより――」


 まあまあ、とこちらもいなしておく。


「桑尻チャンの方が、ある意味、住良木チャンには大事な存在だと思うヨー。同級生ナ訳だしサア」


「え!? 紫布先輩! 僕は人を第一印象で判断しませんが貧乳には視界内での認識能が落ちます! それを優先するとか大丈夫ですか!?」


「アンタ……! アンタね……!?」


「落ち着こう落ち着こう、向こうはロジックで生きてないからネー。人間って、知性を後から得ただけのケダモノだからネー」


「……人間って、ホント、そういうところが……」


 物わかりが良くて有り難いが、ストレスは溜まるので神界戻ったらファミレス行こうとそう思う。


「でマー、あとは私がトールの妻であるシフと、イェールンサクサの二重降臨だネー」


「……ん?」


 何か今、最後に変な紹介を聞いた。


「おいバランサー、僕が巨乳である紫布先輩に直接問うのは恐れ多いから、お前今の僕に解説してみ?」


《この馬鹿、と思いましたが、意外と正しく見てますね。――ええ、神々は私達が地球時代の記録をベースに作り上げた存在ですが、その中には同一の存在が何らかの理由によって別の神に分かれたり、その逆もあります。

 そしてまた、テラフォームの現状に合わせて見た場合、権能や役割を集中させた方がいい場合もあります。だから――》


 だから、


《神々を作り上げるのにも相当な出力と制御が必要です。ゆえに簡便化のため、可能な限り、一柱の中に複数の神々の権能や役割を与えています。

 これを多重降臨と呼んでいます》


「私は元々がシフ単体だったんだけど、イェールンサクサの降臨がされてなかったから、って感じで申請してネー? マーちょっとマルチディヴィニティだからレベルとか神格とか上がりにくいけど、じゃあトール独占するならやるジャン?」


「うっわ、不意打ちで激甘案件……!」


 言って気付くと、隣に立つ先輩も赤面している。そして先輩は、こちらをちらりと見て、


「あの、私、……身を引くときは引きますので、そうならないようにはしようと思いますけど」


「身を引くなんてとんでもない! 押して! 押しまくるつもりで! 僕はプッシュに弱いです! 特に巨乳のプッシュには防御力が120%減するので!」


 背面の伸身土下座で僕は頼んだ。


「御願いしまああああああす!」


《あの、皆さん? コイツさっきからこうなんで、あまり気にせず話進めて大丈夫ですよ?》


「おいおいバランサー、大丈夫とか、そんなに僕を信頼してたのか! おまえ、おまえ……、いいやつだな!」


《どうでもいいから気にするなと、そう言ってるんですよ……!》


 じゃあ、と僕は言った。


「先輩達に頼んで、後、僕達は向こうでお茶してればいいんです?」


「住良木チャン、どーしてそんなに度胸あるかナ……?」


 うーん、と雷同先輩が腕を組んで唸った。ややあってから、彼が首を傾げ、


「正直、前提関係が全然進んでないまま、進めてるよな?」


 問いかけの先は先輩だ。彼女はしかし、即座に頷き、


「私だけの場合、神格を上げる必要があるので、経験値稼ぎとして大地の拡張を行っている、という状態ですね」


「どういうこと?」


「アンタの相方の神格が低くて、本来やっておかないといけない大前提のテラフォームが出来てないということ。まあ、私達もその大前提はまず出来ないけれど」


「……? 何だよソレ。もうテラフォーム、始まってるんだろ?」


 そうだなあ、と雷同先輩が言って、こっちの方では先輩が肩を小さくしている。

 よく解らん。

 既にテラフォームは始めていて、大地も作って行っている。さっき、雨が云々とか、そういう話もした訳だ。だとすると、


「大前提って、何?」


「ンー、じゃあちょっと、悪い見本、見て貰おうかナー」


「悪い見本?」


「おーい、四文字、ちょっとこっち来い」


「なあああにかなああ?」


 唯一神が気軽にやってきた。

 そして紫布先輩が、僕達を大地の端に誘導して言う。


「四文字チャーン、ちょっと良いトコ見せて貰えるかナー?」


「うんン。いいよぉう」


 と、四文字先輩が、溶岩の海に身を向けた。そして彼が、腰を横にくねらせたY字ポーズをとって、


「♪りっふじ――――――ん♪」


 歌のような声とともに、そこに世界が出現した。


「え?」


 世界だ。手前から奥に向かって、急激というか突っ走るような勢いで世界が出来ていく。

 草原、森、山、川、それらが下って連なる河川と遠くにそびえる山脈。更には海までが遙か向こうに見え、青空までが沸き上がっていき、


 ……おいおいおい。


 異質なのは、僕達のいる大地は、そうなっていないことだ。だがここを中心として、大自然ともいえるものが展開していき、


「んんんんんんん! こぉんな感じかなあ。端っこまで詰める?」


「馬鹿野郎。やり過ぎだお前!」


 戦神が唯一神のハゲ頭を後ろから張った。


 いい音がしてハゲがビクっと震えた。その音とムーブに紫布先輩がゲラゲラ笑ってる横で、


「あれえ? こぉういうことじゃなぁかったのかなあ?」


「いや、お前、誰がお前の世界を作れと」


 まあまあまあ、と桑尻が手を左右に振る。


「悪い見本って言うから少し想像してましたけど、想像以上です。完成までスッ飛ばしすぎですコレ」


「いやいやいや、まだだよう? 定着にはそれなりに掛かるからねえ」


 フウ、と四文字先輩が肩から力を抜き、額に手を当てる。


「さあすがの僕でも、世界を作るのにはぁ七日間掛ぁかってしまうんだもんねえ」


「その七日間の内、一日は休日だろうが」


「だあって休み取らないとかぁあり得ないよおう?」


「アハハハハハ! やっぱ四文字チャン半端ないわアー!」


 笑ってる巨乳の向こうで、世界は恐らく僕の視界外にまでとっくに達して広がってる。えっらい勢いで世界が出来てく音が聞こえてくるし、横の先輩が、


「え、ええと……?」


 なんて戸惑ってるから、これはかなり規格外なのだろう。

 そして先輩衆と桑尻がスクラムを組むようにして議論し、ややあってから紫布先輩がこちらに振り向き両手を挙げる。


「今のは無しになったヨ――!」


「まあ、当たり前といえば当たり前だ」


「はあい」


 と四文字先輩が、広がっていった豊かな大自然に対し、また腰をくねらせたY字ポーズをとった。


「♪りっふじ――――――ん♪」


 すると出来ていった世界が消えた。


「……ホントに理不尽だ……」


「うんうん。理不尽こそが僕のパワアだからねえ」


 やれやれポーズを取るハゲの唯一神に、僕は問うた。


「どんな理不尽をいつもしてるんです?」


「うううううううん、若ぁい頃はいろいろ僕もやぁらかしたけどぉ、高校入ったあたりからはさほどかなあ」


「えーと、若い頃は、じゃあ、どんな理不尽を?」


「うんんんんん。信徒がねえ、もぉう、自分の信仰が凄いんだああ、ってイキるから、”じゃあ、お前、そこの羊と子供作れよ”とか?」


「獣姦かよ!」


「おおおう四文字チャンの理不尽ネタで、それ初めて聞いたヨー」


 いろいろストックがあるらしい。


「というか信仰の強さがどうやったら遺伝子問題を超えるんですか」


「神が遺伝子とか言うの、何か、良いのかソレ?」


「別に私は――」


 と貧乳が言いかけ、しかし吐息する。


「私は担当が知識系だから、思案の要因になり得るものは全て想定するの。だから神としては、神の要因も含め、世界全体の要因を想定するわ。――そういうこと」


「北欧神話的に獣姦は有りなの?」


「有りなのかナ!?」


「紫布先輩まで……!!」


 歯を剥くが、しかし、知識系は、ややあってからうなだれた。


「有りです……。困ったことにそういう案件でスレイプニルが生まれてるんで」


「有りか――」


 うんうん、と僕は紫布先輩と握手する。そして僕は、横にいる先輩に、言葉を選んでこう言った。


「神道はケモ系有りなんですか」


「えっ? きょ、興味ありますか?」


「はい!」


 僕は即答した。


「先輩がバニーガールのコスプレした姿を妄想するときに、犯罪かどうかは大きなファクターとなり得ます!」


 先輩が考え込んだ。


 紫布は思った。この後輩スゲーヨ、と。


「徹、バニーガールのコスしたら喜ぶ?」


「一緒にやれとか言われても全然大丈夫だぞ俺。お前がやるなら」


「徹そういうところがサイコー」


 肩を一つ叩いておく。そして先輩チャンが、ややあってから答えた。赤面顔で、明らかに変な汗かきつつ、


「神道では、――あ、有りです!」


 ええ。


「神道ではバニーガールは愛です! 犯罪ではありません!」


 先輩チャンもケッコー大丈夫かナ?


 そっか、と僕は思った。今夜から頑張ろう、と。

 そして僕はバランサーに視線を向ける。


「おい、バランサー! お前、獣姦だとどんなケモ相手がいい!?」


《すみません馬鹿、貴方、AIに何を期待してるんですか一体》


「うっわー、こういうときにスマートな返答出来ないAIが、世界云々とか言ってる訳? どうなの?」


《いいから、さっきの四文字のテラフォームを見て、気付いたこと、あるでしょう》


 言われ、僕は先ほどの理不尽を思い出す。

 あれは明らかに理不尽だ。完全にルールというものを無視している。だが、


 ……流体を書き換えて、あれを直接制作している訳か。


 有りなのだ。

 ただ、違和感はあった。いや、全面的に違和感の塊だったが、そうじゃない。


「……あのあと、詰めていく訳ですよね? あれだけ出来ていて」


「いやいやあ、まあったく出来ていないよう?」


 確かに、と僕は頷く。四文字先輩は言っていたのだ、あれだけの完成度でいきなり世界を作れるという割に、七日を掛けるという事実を、だ。

 だとすると、


「――問題は、ああやって作ってる部分じゃない?」



 あ、と彼の先輩として、自分はちょっと嬉しく思った。


 ……偉い!!


 気付いた。ヒントはこれまで幾つも出ていたし、自分もそれにそって動いていたけど、彼がちゃんと自分で答えを導き出せたのは大事な事だ。何故なら、


 ……これは、住良木君が行うテラフォームで、神々の行うテラフォームじゃないからです。


 責任者である彼が、何をすべきかに自ら気付いた。今回でいえば、その内容は、


「星だ!」


 彼が断言した。


「星の自転とか、下手すると位置とか、また、成分っていうか――」


「組成の要素ですね」


「有り難う御座います! ――ええと、そういうのが、決まっているようでいて、実は決まっていないんだろう!?」


 つまり、こういうことだ。


「この星は地球に近い大きさだけど、自転とか構造物とか、実はかなりテキトーだ。だけどこんな星全体をどうにかする、っていうのは今の先輩では力が足りない。

 だから先輩は、そういう自転とかはまず考えず、手元で出来ることを繰り返してじっくりレベルアップして、後から大がかりなことを行い、辻褄を合わせればいいと考えている」


 だけど、


「他の神の力を利用して、そういう、大がかりな部分をアウトソーシングする。その上で、先輩と一緒に、整地? 調整? まあいいや、そうなった星をテラフォームしていけばいい。

 ――そういうことじゃないのか? さあ、どうだ、何か言ってみろバランサー!」


《もっと早く気付きなさいよ馬鹿》


「お前……! お前……!!!!」



 プンスコしてると、バランサーが一回空を見上げ、その上で言った。


《現状、操作法を教えてるチュートリアルのようなものです。だから正式なスタートについて説明していませんでしたが、実際、この星は、現状かなりテキトーです》


「私達の場合を前例とするなら、ある程度地殻構造の固まった、しかし表面部などにおいては活動性の高い状態の安定してない星が渡される、って感じだネー」


 それはどういうことか。

 考えていると、桑尻が横目を向けてきた。


「”場”を与えられただけよ。”場”を、まず、何か出来るようにフォーマットしないといけない。農地として、開墾してない森や荒れ地の土地を与えられたようなものね」


 アー、何となく実感できてきた。


「――先輩、どのくらい基礎から調整が必要か、聞いて大丈夫ですか」


「え? ええと、それは……」


《……はい。あの、ちょっといいですか猿》


「お前、それでいいと思ってんのか!? アア!?」


《やかましい。いいですか? 貴方はパートナーに基本的に指示をする側です。その能力について、どう応用できるかなど、情報を得たり、短期のアドバイスを受けることは出来ますが、このテラフォームの最短距離を”人が神から答えを得る”のは、基本、無しです》


「基本ってことは、応用的には、どう有りなんだ?」


「そこがアウトソーシングの強みだよン」


 じゃあ、と僕は問う。

「桑尻、何が足りない?」


 問うと、桑尻が紫布先輩に視線を向ける。そして巨乳が頷き、桑尻が眼鏡を上げ直す。


「足りないと言えば、何もかも、よ」


 桑尻は、自分達の頃を思い出す。


 ……要らん苦労が多かったわね……。


 北欧系は派閥が分かれていて、それがもうとにかく仲が悪い。ついでに非社交的な派閥が多く、自分達は例外的な”外交”型だ。だからここにいるのだが、


「神々が権能で星を作っても、星はこの世界の地脈が持つ”足りない物理法則”に存在していくことになるの。だから常に星に加護を与えて支えない限り、作った星は”足りない物理法則”に合わず、砕けていくわ。――でも、星を支え続ける加護の供給なんて、ずっと続けられる訳がない。現実的ではないわ」


 だから、


「権能で星を作る一方、星の位置、自転、公転を調整、星の組成も要素を変えて、自分達が手放しても存在できるようにするの」


 だとすると、と馬鹿が言った。


「星の位置変更とか自転とか公転なんかは、四文字先輩にアウトソーシングすればいいのか」


「おおう、割り切りいいネー」


「うんんん。でもまあ、そぉういうの想定して、僕も来てるんだよぉねえ」


 そういうことだ。あとは、


「星の構成要素の変更や追加とか、どうするか解る?」


「えーと……」


 ややあってから、馬鹿が手を打つ。


「さっき見た! 先輩が水を作ってあたふたするのが可愛かった!」


 向こうで先輩さんが赤面して、何か私がすごくすまないことをした気分になった。


 あのね、と桑尻が口を横に開いて言うのを、僕は聞く。


「いろいろ、方法はあるから。たとえば星の要素に水が足りないとき、水を流体操作で作る事も出来るけど、効率悪いの。だからそういうときはどうするか解る?」


「えーと、溶岩から水分を抜く?」


 意外と面白い回答が来た。後でちょっと思案してみよう。だけど今は、効率の話だ。


「たとえばだけど、そういうとき、宇宙に存在してる氷を星関係の神様に召還させてメテオストライクするとか、そういうのもあるの」


「派手だな神様……!」


「意外と氷落としたり炎弾落としたりしてるからね、どの神話でも」


 そういうものか、と僕は思う。


 ……これ、テラフォームもだけど、神話についても図書室行った方がいいな!


 夏休みは自由研究の期間とは、よく言ったもんだ。誰も言ってないけど。いいんだよ。誰も進んでない道を行くことにこそ意味がある。アーでも巨乳道はメジャーなんだよな! あとあまりアングラ方面には行きたくないです僕。

 だがまあ、幾つか疑問も出てきた。


「幾つか、いいか?」


《答えられる範囲なら答えましょう》


「ウサギだったらいい?」


《二度と答えませんよ……!?》


 ヤダこのAI、ギャグに対してムキになるんですけど……。

 まあここは僕が大人にならないと駄目な時間帯だ。寛容の心をもって、


「ま、今日は赦しておいてやるよ」


《何かワールド入ってませんか貴方?》


 いいから、と僕は問う。


「あのさ? 僕の知識では、人類は”居住可能な星系”に来たんだよな?」


 でもどうだ? 僕は両の腕を広げ、周囲を示す。


「――これの何処が居住可能だ? 雷同先輩なんかも、テラフォームしたって事は、居住可能じゃなかったって事だろ? おかしくない?」


 アー、とバランサーが思案するのを、紫布は見た。


「バランサー、付き合い長いけどサ。何か凄く、……何だ? オッサンくさいときあるよネ」


《思案派と言って下さい、思案派と!》


 だが今の疑問は、自分達も抱いたことがあるものだ。何で人類の転居先で、わざわざ引っ越しじゃなく家の建築を土台どころか宅地から造り出しているのか、と。


《全部が全部、こうなっているわけではありません。実際、人が居住可能な環境を残した星はあります。ただ――》


 ただ、


《この星などは、以前に話しました闘争。この星を私達AI主導で攻略しようとしていた時代、星の原始精霊ともいえる意思が、”こうした”のです》


「……は?」


 流石に通じにくいだろう。だから補足する。


「星自体が、戦闘モードに入ったんだヨ。外からやってきて勝手に住み着いたり環境変えようとしてる連中に対し、戦闘用に”統合”したんだよネ」


「それってつまり――」


 そう、と自分は頷く。そして徹が告げた。


「現状、この星は超怒ってる。俺達のときもそうだったが、この状態だと、テラフォームが上手く行っても流体の淀みが発生しやすく、化けモンがバンバン出てな。いろいろな意味で押さえつけは続行だ」


《まあ、家主が、店子を気に入らなくて物件を破壊した上で呪いを掛けたようなもんです。そういう意味でも、基本、人類主導のテラフォームは無理ですね》


「……無茶苦茶な……」


 まあそういう反応は理解出来る。それに、


「マー、他にもいろいろ要因あるけどサ。そこらへん、落としどころにしとかないと何も進まないヨー。――とりあえず”敵はこの星”なんだよネ」


 成程、と年長者の言葉に僕は納得する。だが、


「つまりバランサーがやり過ぎた、って事?」


《闘争の中で惑星環境が急激に悪化していったのは、星の”運動”だと最初考えられていました。これはこの星の自然現象だ、と。ただ、”加護”の実在が証明されてからは、違う見立てが進んだわけです。

 ――星は、自らがまだ持っていない神の代わりに、”相”の総合としての意思のようなものを持っていて、それが自棄も含めた抵抗をしている、と》


「能動的なガイア理論とでも言うべきね」


 面倒な話だ。だが、僕にも何となく解ることがある。


 ……あれだ。

 何となく憶えていること。それは、


「記憶にあるんだけど、……この溶岩地帯、竜がいるよね?」


「――――」


 先輩が息を詰めた。どういうことかと思えば、


「憶えてるんですか? 住良木君」


「え? あ、いや、憶えてるというか、前のゲームでの死因というか。――ほら、皆、僕が死んでアウトしたのを知ってる訳で、その死因というか」


 言いつつ、ふと疑問が生まれた。


 ……あれ?


 死んだという割に僕は生きているけど、では、あの”死んだ”は何だ? というか”あの”と言えるのは何だ?


「何か僕、勘違いしてる?」


「いいえ、してないわ。ただ――」


 ただ、と彼女は珍しく僕を視線で捉えて言った。


「憶えているのはいいことよ。――そして、ほら、何か他、疑問があるんでしょ?」


 ごまかされてる気がしたが、確かに、憶えている以外に意味はない。

 何だろうな、一体、と、そんな感で首を傾げながら、僕は問うた。

 さっき幾つか生まれた疑問の一つ。それは、


「テラフォームだけどさ、四文字先輩に任せたら、一週間で終わりだろ? アウトソーシングできるなら、それでいいんじゃないの?」


 そうだなあ、と雷同は応じた。

 バランサーを見ると頷いてくれるから、これは話していいことだろう。


「あのな? 住良木。これは、――政治なんだ」


「政治?」


「ああ。お前も知ってるだろ? 人類は、この星系に引っ越しに来たんだ」


「ええ、それは解ってます」


 そっか、と首を下に振り、紫布を見る。紫布はただいつもの表情だ。つまりここは任されている。だから自分は、一息を吐き、言葉をつないだ。


「――人類は地球を捨ててこっちに移住するときに、計画を立てた。計画には賛同者ってものが必要で、首謀者も必要だ。結局まあ、全ての国が賛同したんだがな?」


 ここが大事だ。


「人類は、地球を捨てて引っ越すって時になっても、統一されてなかった」


《……だからこそ、神道という一地域の”加護”に私達が気付いたと、そういう意味はあります》


 ああそうだ。だが、もっと面倒な事が生じている。


「人類は、全ての人々が地球を捨てる際、誰もが同意する条件として、あることを決めた」


「それは――」


「この星系の分割支配だ」


 統一されていなかったということはどういうことか。


 ……移住先でも、当然、統一などされる訳もない。


 だから人類達は、出立する前に決めていた。


「――地球上に存在していた”各国”を、この星系に割り振ったんだ。星々の環境、地勢なども観測とAIの推測によってある程度解り、大陸の面積などからそれらは確定。その保証あってこそ、移住計画は承認された」


 何故か。


「地球上では、宗教や国家のあり方などが衝突し、統一が出来なかった。この星系はしかし地球より広い。だから統一をしなくても、それぞれが安住の地を得て衝突はなくなるだろうと、各国に大幅拡大となる領土を約束したって訳だ」


「…………」


「……ええと、ちょっと、待って下さい」


 意外と鋭いな、と己は思った。気づきやがったか、と。

 そう。この流れは、世界各国を安住の地に誘うようにみえて、一つ、そうではなくなる場合が存在する。


「どうだ? 何か気付いたか?」


 問いかけに巨乳教正当派の後輩が頷く。


「ええ。……世界各国が、星系の各星に割り振られたんですよね? 当時は、星がまだ無事で、大陸とかにどの国を割り振りするかも出来ていた、って」


 でも、と住良木が台詞をつなげた。


「星がこんな感じで怒って、テラフォームとなったら、割り振りはどうなるんです?」


 それに、


「テラフォームしているのは神々だ。それも、各国、各地域の神話の神だ。

 ――テラフォームを終えた土地が、その神の神域となり、その神話の支配地になるなら、僕達のように力ない神の土地はなくなり、強力な神話をもった国がやりたい放題だ!

 最初に約束された割り振りが消える!」

 

 そうだな、と雷同が言うのを、紫布は聞いた。


「だから政治だ」


 いいか、と彼が言う。


「俺達は、今、地球上の北欧地域が獲得していた割り振り面積を大幅に超えた土地を別の星に獲得している。だから、その補填も含み、お前達を手伝いに来られてる。他にも理由はいろいろあるけどな? だけど俺達は、お前達の土地を自分の支配地にしなくていい。自分達の方で、もう充分にあるし、そっちを広げればいいからだ」


「私達の方は、他の神々、――たとえばギリシャ神話の連中なんかから、ここを手伝いに行けとか、そういう風に言われてるの。上手く行ってる分、ここで疲弊してバランスをとれとか、そんな感じでね」


「ウワー、面倒」


「いやマー、手伝いとかも嫌いじゃないけどネー。ただ――」


 ただ、面倒なことがある。


「手伝い過ぎると、”支配力”を奪っちゃうんだよね。土地の”相”が、こっちの神域のものになっちゃって」


「それぞれの神の力は、それぞれの”相”を作りますからね……」


「あー……、何かを作るとき、量産品を作ってる訳じゃなく、職人にやらせてるようなものか……。その人のクセが強く出るって言うか」


「ええ。だから、あまり大規模な”拝借”は、その土地を施工神の所属する”神域”の相にしてしまいます。そうなると、祓い直すのは至難です。

 なので力を借りるのも、大規模なのはよほどの事がない限りは避けたいんです」


 その通りだ。これがさっき、住良木の言った疑問への答えになる。


「この星は元々が神道系を中心に割り振られた土地なんだけど、あんまし私達が手伝ったりすると、北欧や唯一系の土地になっちゃうんだよねー」


「アー、それは勘弁。僕と先輩の愛の巣が、ハゲと筋肉の土地になるとか」


「アハハ、言うねエ。でも、住良木チャンと先輩チャンの場合、星の自転と位置関係は四文字チャンに調整して貰った方がいいヨー」


 これは本当にそう思う。


「下手に遅れると、他の神々がやってきて”力を貸してやろう”って始まるからネ。

 マー、私達も、正義とかって訳じゃなくて、借金をあまり取り立てなくていい金貸しみたいなもんだけど、そこらへん解った上で上手く付き合おうってことかナ」


「紫布先輩、自分達のことを悪く見せようっても、無理です。紫布先輩の場合」


 悪女って憧れるんだけどネー。だけどまあ、そうだ。

 ここでは言えない流れだが、この二人は大変だ。


「初めての、人類投入。――他の神々の内、私達みたいに上手く行ってないけど、しかしプライドはある連中は、住良木チャンの”信仰”が欲しいだろうネ」


「面倒な話です。――いずれ降りてくる人類のため、神々が前哨戦として土地の取り合いというか、人類の代理戦争をしている訳ですから」


 何かマーえらく面倒だけど、それが政治ってもんだヨネー。

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