■せめて生存ルートのあるキャラに転生したかったと嘆くプロローグ
俺の人生は、
仕事をこなし、ウェブ小説を読み、飯を食べ、ギャルゲーをやる。
それだけの生活。それだけの毎日。
世間からすればさぞや退屈で、孤独な人生に見えただろう。
でも俺はそんな生活が大好きだった。充分満ち足りていたんだ。
そりゃあ先々のことを考えると、少し
なにせ俺ときたら、嫁はおろか彼女いない歴=年齢っていう典型的な負け犬人生を送っていたからな。
けれどまぁ、経済的にはそこそこ豊かだったし、何より俺にはギャルゲーとウェブ小説という最高の相棒達がいたから寂しくはなかったよ。
……寂しくは、なかった。
だけど時々、無性に
〝あぁ、俺もあんな楽しい世界で暮らせたらなぁ〟って。
主人公なんて
────そんな風に、考えていた時期もありましたよ、えぇ。
◆
「だからって……これはねぇだろうがぁっ!」
俺こと
さもありなん! 目を覚まして、姿見に映る顔を見てみたら、見知ったゲームに出てくる極悪人相が俺と同じポーズで驚いているんだもの。
透明な鏡の中に映る悪人面。安っぽいブリーチを入れたアッシュグレイの髪の毛が
意味が分からなかった。いや、意味は分かるが理解したくない。
「転生した? いや、
疑問符の答えは鏡の中にあった。どこからどう見ても見覚えのあるゲームのキャラだ。
夢かと思い頰をつねってみたけど普通に痛い。
「(現実だ)」
現実だった。ガチでリアルに
「よりによって、なんでコイツに……」
白状しよう。俺は確かに常日頃からギャルゲーの世界に行ってみたいと思っていた。
それは認めるし、今だってあの淡い
だけど、これはない。あってはならない。
それは伝説の恋愛シミュレーションRPG『精霊大戦ダンジョンマギア』シリーズにおけるやられ役の代名詞的存在であり、また、どのルートでも必ず死ぬ哀れな男の名前でもあり、そしてついでに今の俺の姿だった。
◆
精霊大戦ダンジョンマギア。それは近年の国内製RPGにおいて最も売れているゲームタイトルの一つである。
魅力的なキャラクター、広大な世界で繰り広げられるファンタジーライフ、奥深い戦闘システムに笑いあり涙ありのストーリーといったジャンルとしての面白さと、色々な意味で一筋縄ではいかないRPG部分の
彼はダンマギシリーズの第一作『精霊大戦ダンジョンマギア(通称無印)』の登場人物で、主人公達が初めて戦うことになる中ボスである。
大作シリーズの初代中ボスなんて
プレイスタイルや所属する派閥次第で色々なキャラクターの様々な側面が見られることに定評のあるダンマギシリーズの中で、『序盤に出てきて必ず死ぬ』というのはそれだけで圧倒的な個性であり、おまけにこいつときたら
『ひゃっはぁあああああああああああああっ! オレ様の
などというお下劣極まりない文言を、平気で抜かせちゃうタイプなのである。
断っておくが、ダンマギの世界観はモヒカンが徒党を組んで村を襲うような
剣と
そんな中で『ヒャッハー』と奇声を上げながら主人公に襲いかかって来る
これだけならまだいい。良くはないが、まだ目を
しかし残念ながら、そして恐るべきことに、この男のダメっぷりには先があるのだ。
まぁ、当然と言えば当然なのだ。
何せ奴の立ち位置は、チュートリアルの中ボスである。戦いを通してボス戦とはどういうものなのかということを、ゲームプレイヤーに教える
だから彼の弱さは運営の意図した『弱さ』であり、チュートリアル相応といえばそれまで(とは言いつつも、そのすぐ後に戦うことになる
この男の『弱さ』は、そういった大人の事情を差し引いたとしてもなお
何故か? 答えは簡単だ。
彼は武器も防具も持たないような状態で、三人パーティー相手に三ターンに一度しか攻撃してこない
エキセントリックな言動を携えて、突然主人公の前に現れた中ボス。
初めての強敵相手にドキドキしながらゲームを進めるプレイヤー。
だが、そこで俺達が見たものは逆の意味で恐ろしい行動パターンだったのだ。
それがこちらである(実際の
一ターン目:
二ターン目:
三ターン目:パンチ(単体&糞雑魚)
四ターン目:
お分かり頂けただろうか。
この男は貴重な戦闘ターンの内の三分の二を
しかもここまでお膳立てして繰り出したパンチの威力がまた死ぬほど弱いんだ。
ぶっちゃけデバフかけられた状態で殴られても最下級の回復技一発で全快されるからね。二ターンも費やした準備期間の果てに繰り出される攻撃がカスダメって逆にスゴいよな、ホント。
まぁそれでも、仮にバトル形式が一対一のタイマンであったのならば、
だけど現実は非情だった。
こちらの攻撃手段は、三
かくして主人公達に散々フルボッコにされたポッと出のイキり糞雑魚野郎
イキって、ボコられて、食われて死ぬ。
これがダンマギにおける
「ハハッ、ハハハハハッ……うっ、うぅっ……」
俺は泣いた。しこたま泣いた。なまじ末路が分かっているだけに、余計に絶望感が込み上げてくる。
「こんなのって、こんなのって、あんまりにもあんまり過ぎるだろうがよぉっ!」
こうして俺の異世界生活は、唐突かつ最悪の形で始まりを迎えたのである。



