■第一話 泣きゲー展開なんざ糞喰らえ ①
「ちょっとキョウ君!」
パタパタと階段を駆け上る音が聞こえてくる。
しまった! 騒ぎ過ぎて家の人に不審がられたらしい。
どうする、どうすると錯乱する俺。
だが何が出来るはずもなく、
「そんなに騒いだらご近所さんに迷惑ですよ!」
現れたのは制服姿のお姉さんだった。
亜麻色の三つ編みをたなびかせながら、優しそうな目元をキュッと
「いや、あのすいません。これは、なんというか────」
そこまで
「
優しげな目元に色っぽい恵体、そして何より俺の好きな実力派声優のウィスパーボイス。一瞬、あっちの世界の声優さんが演技をしているのかとも思ったが、そうではない。声質こそ同じだが、これは
あぁ、この声。この仕草。この雰囲気。どれをとっても間違いない。彼女はダンマギに出てきたあの
夢にまで見たギャルゲーの女性キャラの、しかもあろうことか推しキャラの登場に、俺は
やべぇ……! 生
心の中でやっぱダンマギって神ゲーだったんだなと再確認する俺をよそに、
「一体どこでそんな変な呼び方を覚えたんですか。あんまりふざけているとお姉ちゃん怒りますからね」
「ご、ごめんなさいお姉ちゃ……ん?」
今、なんつった?
お姉ちゃん?
「そうです。キョウ君の大事なお姉ちゃんですよ。……? どうしましたキョウ君? そんな
「キョ」
待って。本当に待って。
何その冗談ハハッウケる。そんな設定、公式設定資料集にも載ってなかったぞ。ていうか下手したら種族が違うんじゃないかってくらい顔が似てねぇのに
「(……いや、待てよ?)」
一見すると到底信じられない話ではあるが、可能性はゼロじゃない。
何せ
そしてイベントの最中に『最愛の家族だった弟が最近精霊に襲われて……』とか気になることを言っていた気もする。
でもだからって
明かされた衝撃の事実に、俺の
「? 今日のキョウ君はちょっと変です」
慌てふためく俺の姿を見て小さく
そんな姿も
◆
ここまでの状況を整理してみよう。
現在俺は
大人気恋愛シミュレーションRPG『精霊大戦ダンジョンマギア』の最雑魚イキり糞野郎にして、チュートリアルの中ボス担当である
このままシナリオ通りに事が運ぶとすれば、俺の未来は主人公にイキった挙げ句、フルぼっこにされ、その後ポッと出のボス敵に食われて死ぬという悲惨なものである。
当然ながら、そんな結末は認められない。問答無用で却下である。
だから俺は、
そしてその為に今俺がやれることといったら、やはり情報収集の類だろう。特に大事なのは────
「
昼食時。二人だけの居間で、
しかしあの
味は絶品だし、何より温かい。
全く、これで
「どうしたんですか急に?」
そりゃあ、そういう顔になるよな。普通に暮らしてたら『今が何年』かなんて忘れるわけがないんだし。
「いや、なんかド忘れしちゃってさぁ。ほら、俺ってそういうところあるじゃん?」
とりあえず軽いノリでそれっぽい言い訳を並べてみる。ゲーム内でのあの軽薄そうな格好を見るに
「もうっ、仕方ない子ですね。普段から
「ご、ごめん。姉さん」
どうやら予想は的中したらしい。しかし年号を忘れていてもすんなり受け入れられるとか
「今年は皇暦1189年です。もう忘れちゃ駄目ですよ」
「ありがとう姉さん。それと、今日の料理本当に美味しいね。特にこのお吸い物最高だよ。
これ以上ボロが出ないように、俺はひたすら姉さんの料理を褒めちぎった。
これだけ美人なのに料理も完璧とか、
「もうっ、そんなにおだててもおかわりくらいしかあげませんからね」
そう言って空になった二人分のお
ほんのり照れ顔な所も尊いし、どさくさに紛れて自分もおかわりしちゃう所も最高に可愛い。
「(しかし、皇暦1189年か……)」
台所で嬉しそうに炊き込みご飯をよそう姉さんの姿にほっこりしながら、頭の中の電卓を叩き始める。
前世の記憶が確かならばダンマギの物語が始まるのは皇暦1192年。
今は皇暦1189年の春先。つまり
「(潤沢とは言えないが、それでも多少の猶予はあるな)」
三年もあれば、
だけど違ったんだ。どうしようもないほどに履き違えていた。
そのことを俺は、これから嫌というほど知ることになる。



