■第二話 最強の裏ボスに会いに行く ④

 鶏の化物との距離はおよそ二十メートル。このまま進めば後数秒で俺達はぶつかることになるだろう。


「(……常識的に考えれば力任せの物理攻撃一択。でも)」


 ゲーム時代のヴィゾフニルの行動パターンを思い出す。

 奴が初手で繰り出す技は物理攻撃ではなく


『Viiiiiiiiiiiiiiii!』


 甲高い鳴き声が場内に響いた刹那、おんどり野郎の全身から純白の霊光が吹き出した。

《王冠の重圧》────その効力は、貯蔵霊力(他のゲームで言うところの魔力量MPのようなものだ)への恒久的侵害スリップダメージ

 成る程、恐ろしい技だ。ただでさえ初期レベルにまで落ちぶれてるっていうのに、頼みの綱の霊力APまで削られたら、普通は打つ手がなくなるわなぁ。

 だけどよ、俺は元々糞雑魚で、しかも今は精霊すらも持っていない。

 だから実質


「ノーダメなんだよなぁっ!」


 こんしんの効いてないアピールと共に繰り出したいっせんは、鶏の化物の右足を真っ二つに割断した。

『レーヴァテイン』の固有能力《因果切断》────効果は〝この短剣の刃に触れた物体が知的生命体に類するものであった場合、それは必ず切断される〟という極めて凶悪なもの。

 ゲーム時代では「防御無視の固有ダメージ」として表現されていた神の白刃が俺の手の動きに合わせて躍る、躍る、躍る。

 脚を斬り、胴を裂き、喉笛を突いて、羽を千切る。

 反抗なんて一切させない。ダンマギはターン制のRPGだったが、ここはあいにく現実世界。弱い奴はのたうち回り、強い奴がずっと俺のターンを取り続けるクソゲーさ。

 斬る。切る。きるキルきるキル兎に角kill

 後先なんて考えない。

 今ここでこいつを仕留めなければ、きっと俺達は一生負け犬のままだ。

 勝つ、何としてでも勝つ。お前を倒して、裏ボスに会って、そして俺は、オレは、俺達は



「絶対に、姉さんを、助けるんだっ────」




 我に返ると、既にヴィゾフニルは死んでいた。

 光の粒子となって消えていく巨大な雄鶏の姿にあんと感慨の念を抱きながら、俺は左から四番目の扉に向かって歩を進める。



「(さぁ、裏ボスさんよ。ご対面といこうじゃないか)」



 邪魔するものはもういない。

 後は扉を開けるだけ。


 そうして俺は最後のドアに手を伸ばして────

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