■第二話 最強の裏ボスに会いに行く ③
このダンジョンの仕様を鑑みれば、もしかしたらそれなりの健闘は出来るかもしれないが、そうは言っても俺は
糞雑魚キャラが欲を出しても良いことなんて何もないからな。ここは気づかれないように立ち回って、ノー戦闘で行きましょう。
「(正解ルートは左、右、中央まっすぐ、それから二回連続で右折した先の青い扉。そんでもってここの衛士は三歩動いたら一度振り返るからタイミングを見計らって────よし、ここだ!)」
息を整え、それから一気に全力ダッシュ。
ゲーム時代に培った対シンボルエネミー用の回避ムーブがどこまで通用するかは分からないが、今は奴らの動きがマニュアル通りであることを祈って突き進むしかない。
全身に走る緊張感。滝のように流れる汗。奴らの
「(……見えた、二つ目の
そうして俺は汗まみれの手で青い扉の取っ手を引っ張り、次のエリアへと進んだのである。
◆
それから俺は、自分の持つゲーム知識を全て使って裏ボスのダンジョンの「攻略」を進めた。
マップの構造、シンボルエネミーの挙動、そしてエリアごとに用意された特殊ギミック。
どれもこれも非常に複雑かつ難儀で、そんでもって物凄く意地悪だった。
ホント、ゲーム知識様々だよ。もしもこいつがなかったら(あるいは半端な知識しか持ち合わせていなかったら)俺は二番目のエリア辺りで右往左往しながら時間切れを迎えていたことだろうな。
だけど、そうはならなかった。
「やった、やったぞチクショウめ!」
汗と涙でぐちょぐちょになった顔面をハンカチで拭きとりながら、俺は目前に
エリア11 最終エリアの一歩手前。
色取り取りのステンドグラスに覆われた神秘的な風景の片隅で見つけたこの電子レンジ大の箱こそが、俺がここまで必死に頑張ってきた理由そのものである。
「(スマホの時計は、よしっ十二時四十五分。タイムリミットまでまだ十分以上も猶予がある。間に合った、何とかここまで来れたんだ)」
宝箱。基本的にダンジョンの構造が、ランダム生成型(入る度にマップの地形がコロコロと変わるタイプのやつのことだ)なダンマギというゲームにおいて、こういう風に「確実に落ちている」宝箱は非常に珍しい。
しかも、ここは裏ボスのダンジョン。当然ながら入っているアイテムも非常に強力なもので────
「っしゃあ!」
そしてソレはちゃんと宝箱の中に入っていた。
『
【パーティーメンバーの強さを一時的に初期レベルまで引き戻す】という理不尽極まりないルールを強いてくるこの鬼畜ダンジョンにおいて、『レーヴァテイン』の入手は、間違いなく一つの
何せこの短剣、初回攻略以外では絶対に落ちないのだ。
……うん、気持ちはよく分かるよ。「何その入手条件、バカじゃね」って普通は思うだろうし、何なら俺も現在進行形で憤りを覚えているからね。
だけど、ダンマギの開発スタッフって、普通にこういうことやらかすのよ。意地悪というか、性根が腐っているというか────まぁ、俺達からすれば、そこが
限られた制限時間の中で敵がバッチリ出てくる12×11の糞アミダマップを初期レベル状態で初見踏破しなければゲット出来ない「救済措置」って、それ全然救いになってないと思うのよ、うん。
とはいえ、あるいはだからこそ、こいつをゲット出来た喜びもまた、
やべぇ、滅茶苦茶嬉しい。この序盤も序盤で幻の武器を手に入れちゃう達成感と背徳感、たまんねぇなぁ、オイ!
「(……綺麗だなぁ)」
溜息を漏らしながら自分の愛剣を眺める。
白く輝く
「(これでようやく、アイツと戦えるな)」
地獄のアミダワープチャレンジを乗り越えて、幻の武器も手に入れた。
後は裏ボスの玉座を守る番人さえ倒せれば……
◆ダンジョン『久遠輪廻』・エリア12
チュートリアルの糞雑魚ボスである
初期状態での戦闘を強いられるということは、裏を返せば、このダンジョンが〝初期レベルでも戦える〟ということでもある。
加えて今の俺には『レーヴァテイン』がある。
『レーヴァテイン』、幻の激レア武器にして、このダンジョンの難易度を劇的に下げる特殊能力を持ったある種の救済措置。
元来持っていたゲーム知識に加え、こんなチートアイテムまで装備して今の俺ちゃんは「豚に真珠」どころか「鬼に金棒」、たとえスペックがチュートリアルの中ボス相当の糞雑魚だろうと、ここまで色々と揃えれば〝番人〟相手でも楽勝だろうと
『Viiiiiiiiiiiiiiii!』
────そんな風に思っていた。
エリア12、裏ボスの間へと続く最終階層。
大理石の床と、美しい風体の天使が描かれたステンドグラス、ともすれば荘厳とすら呼べるような雰囲気のその部屋に特大の〝場違い〟がそびえ立っていた。
白い鳥だ。頭の上には巨大な冠がある。立派な翼が生え揃っているがアレは飾り。奴は飛ばない。そして飛ばなくても十分に強い。
「…………出来れば会いたくなかったよ、ヴィゾフニル」
俺がその名を告げると、純白の鶏は再び甲高い鳴き声を上げながら、五メートルオーバーの巨体を
その瞬間、俺は心の底から逃げたい、と思った。
平均的な中学生程度の
だって俺は、
逃げたい、今すぐここから逃げ出したい。
〝もうっ、そんなにおだててもおかわりくらいしかあげませんからね〟
不意に昨日の姉さんとの会話を思い出した。
姉さん。優しくて料理上手で、そしてちょっぴり食いしん坊なオレの大事な人。
何故かは分からないが、彼女の姿を頭に思い浮かべていると、単なる〝推し〟を超えた強くて深い感情が無限に湧き上がってくるんだ。
「(……あぁ、そうか。そういうことだったのか)」
幾ら俺が筋金入りのダンマギオタクとはいえ、昨日出会ったばかりの推しキャラの為にここまで命を張れるのはおかしいと思ってたんだよ。
だけど、この気持ちが俺だけのものではないとするならば。
「畜生! やってやるよ
息を吸い込み、〝逃げる〟という選択肢を置き去りにして前に進む。
恐怖はある。身の程だって



