■第二話 最強の裏ボスに会いに行く ②
そしてこの二つの条件、俺ならば簡単にクリアすることが出来る。
神社の境内の鍵は本来の持ち主である姉さんから借りれば良いし、古文書の内容は俺のギャルゲー脳にしっかりと刻み込まれているから必要なし。
問題はその後なのだが、何、大丈夫さ。ゲームで培ってきた知識と俺の命を一つか二つ賭ければ理論上は可能なはずなんだ。
「(やってやる。絶対に攻略してやるぞ、裏ボス様よぉ)」
無茶であることは百も承知の上。
しかしそれでも俺が裏ボスに会おうと決めたのは、『彼女』であれば、姉さんの呪いを何とか出来ると思ったからである。
自分でもどうしてここまで必死になれたのかは、分からない。だけど一つの事実として、その日俺は徹夜した。徹夜で裏ボスの攻略法を考え抜いたのである。
◆
翌日、姉さんから境内の鍵を借りた俺は、眠たい目を擦りながら早速神社へと向かったんだ。
スマホの地図アプリと姉さんが用意してくれた案内図のお陰で、
「(しかしあの『桜花』の街を自転車で駆け回ることが出来る日が来るなんて、夢にも思わなかったな)」
桜舞う道。建ち並ぶ近代的な建物。パッと見は都市部に見えなくもないんだが、所々に高層ビル大の巨木があったりして、見ていて本当に飽きない。
四角いビルの
しかも一個や二個じゃない。ざっと見ただけでも百以上の巨大樹と、それに従う鉄筋の建物達の姿が見て取れる。
自然との調和と呼ぶには、あまりにも
「(ダンマギの世界に来たんだなぁ、俺)」
そんなことをしみじみと嚙みしめながら走っていると、いつの間にか目的地へと辿り着いていた。
今では信仰の廃れてしまった古い神社。
かつて
いや、普通はこんなところに裏ボスがいるとは思えないよな。
姉さんからもらった鍵を使い、境内へ向かう扉を開けてみる。
がちゃり、と小気味よい音が聞こえて錠が外れた。
「(行くか)」
リュックサックの中から懐中電灯を取り出し、そのまま薄暗い境内の中をまっすぐ進む。
いかにも何かが出そうな雰囲気の暗がりだが、特に何かと鉢合わせることもなく俺は目的地へと辿り着いた。
「(ここだな)」
懐中電灯の光が闇の中心を照らす。
そこに
広い空間に、たった一体だけ置かれた少女の仏像。
信仰の廃れた古い社に祭られた一体の神像。
この像の前で古文書の言葉を説けば裏ボスへの道に
「とりあえず、やってみるか」
俺は記憶の中に眠る古文書の言葉を唱えた。
「万象照らす
いざや導け因果の果てへ」
決して長くはないその中二ポエムを詠み終えた俺は、
多分合っているはずだ。というか合ってないと全部パァだ。
「(頼む裏ボス。どうか俺の声に答えてくれ)」
俺は祈った。ひたすらに祈った。
異世界に来て早々に神頼みとか格好悪過ぎるよな。
でも今の俺にはこれしかないんだ。
倫理とか美徳とかそんな強い
「万象照らす天つ命の
光隈なき時の帳
失くし亡くされ無きぬれば
いざや導け因果の果てへ
万象照らす天つ命の
光隈なき時の帳
失くし亡くされ無きぬれば
いざや導け因果の果てへ
万象照らす天つ命の
光隈なき時の帳
失くし亡くされ無きぬれば
いざや導け因果の果てへ……!」
出てきてくれ最強の精霊よ。俺達にはお前の力が必要なんだ。
どうか姉さんを(ついでに俺を)助けてくれ!
『起動プロトコルを確認/生体認証クリア/
暗闇の中に響き渡る無機質な声。それと同時に目の前の神像が
あぁ、これだ。これを待っていた。
光なき社に差し込む輝き、感情を感じさせない電子の言葉。
これぞまさしく────
「裏ボスのイベントだ!」
白い光に包まれる社の中心で、一人
◆ダンジョン都市桜花・第????番ダンジョン『
目覚めると、そこには見知った景色が広がっていた。
白い天井に、大理石の床。中央に備えつけられた巨大な
深い感慨と変な興奮、そして一際強く輝く確信の念が、俺の頭の中で一斉に歓喜のダンスを踊り始める。
「(────裏ボスのダンジョンだ!)」
ゲーム時代、軽く数百回は訪れた場所だ。忘れるはずもない。ここは間違いなく裏ボスのダンジョンである。
すげぇ、俺チュートリアルの中ボスなのに裏ボス様のダンジョンに入っちゃったよ。何このミスマッチ。場違い過ぎて逆にエモいんだけど。
「(……ってバカ! 感傷に耽ってる場合か!)」
吹き抜け構造の建物の二階中央に設置された巨大な掛け時計。十二時ジャストの頂点部分で短針と重なり合っていた長針がゆっくりと
反時計回りに進む長針。頂点に座したまま歩まぬ短針。ゲーム時代の仕様通りならば、あの長針君が静止した短針ちゃんと再び巡り合った時────要するに一時間以内に『ある場所』まで辿り着かなければ
「(チャンスはこの一回だけ。ここでしくじったら多分、俺は二度と裏ボスに会うことが出来ない)」
緊張と不安に震える身体を必死に
「(マップ1の正解は三階右奥の扉!)」
頭のナビゲート通りに身体を動かし、一分もかからない内に目的の場所へと辿り着いた俺はすぐに白亜色のドアノブを回して次のステージへと入り込んだ。
裏ボスのダンジョンは、いわゆる「ワープ形式」のダンジョンである。
これは〝正解のルートを踏まないとスタート地点に戻される〟っていうゲームだと結構見る系のネタの一つなんだが、実に意地の悪いことに、このダンジョンには一エリアごとに合計十二通りの選択肢が用意されている。
加えてそのエリア自体も十二個(プラス裏ボスの間)に分かれているってんだから、さぁ、大変!
選択肢が十二通りもあり、正解のルート以外は全部アウトな糞アミダを、一時間以内に十二回連続で成功させないとゲームオーバーとか、控えめに言っても無理ゲーである。
────しかもさ、ここ、ちゃんと〝敵〟も出てくるのよ。
「(……いるな。
正解のルートを辿り、無事二番目のエリアへと移った俺の前に現れたのは、赤い
がしゃりがしゃりと音を立てながら機械的に持ち場をグルグル回り続ける彼らは、当然ながら見つかると戦闘になる。
裏ボスダンジョンのシンボルエネミーとチュートリアルの中ボスが戦ったら、当然勝つのは前者だろう。



