03 火曜日 ⑥
「配信は二二時には絶対に切りますよ。一八歳未満が生放送に出ていいのは二二時までって決まりがありますからね」
ヤタ先生、しっかりしてるなあ。
まあ、そういうペースで良くて、かつ、俺とミオンさんは特に
「そういや、配信してない間もIROしていいんですよね?」
「それは当然よ。というか、配信の時に
あ、はい……
一時間ちょいの配信で美味しいところを見せようと思ったら、その前の準備とかは先に終わらせとかないとまずい。
そんな話をしているうちに部室棟を出ると、
「ではー、私は職員室に戻りますのでー、みなさんは気をつけて下校してくださいねー」
とヤタ先生が去っていった。
お仕事お疲れ様です……
◇◇◇
「ただまー」
「兄上、遅いではないか!」
うちの姫様がご立腹だがしょうがない。
「部活だよ、部活。これからだいたいこの時間になるから」
「なんだとー!」
帰宅したのは午後七時前。これは美姫が怒るのもしかたないか。
それに、俺が家事をやると午後八時にインするのはギリギリだな、これ。
「夕飯の用意してくれてたりは? 今日は昨日のカレーの残りでいいんだけど」
「ないのう」
「わかったよ……」
そういうとわーいとダイニングの方へと消えていった。
お前、ホント気楽でいいな……
冷凍してあったカレーをレンジで解凍・加熱し、朝仕込んであったご飯にかけて二日目チキンカレーのできあがり。
あとはまあ野菜室に……キャベツ刻んでサラダってことにするか。
「できたぞー。運んでくれ」
「心得た!」
うむ、二日目特有の煮込み込まれた
チキンカレー、どうしても作り立てはイマイチだから、常に一晩寝かせたい欲。
「じゃ、いただきます」
「いただきます!」
あぐあぐと美味しそうにカレーをむさぼる姿は可愛いんだけど……
真白姉とは別の意味で生意気な美姫だが、一人で食うよりは楽しいからいいか。
「で、兄上はなんの部活に入ったのだ?」
「電脳部」
「ほほう、興味深い」
「まあ、ゲームする部活みたいなもんだし、お前も来年うち来るなら入ればいいよ」
「うむ、そうするとしよう!」
そう言ってから、ミオンさんと果たしてやっていけるのか気になったが、まあその時はその時か。
今悩んでもしょうがない問題は先送りにするに限る。
◇◇◇
魔女ベルのライブ開始まであと五分。
慌ててVRHMDを被るとバーチャル上での部室、よくある冒険者の酒場に入る。
そこには既にヤタ先生とミオンさんの姿があった。
「間に合った……」
『ショウ君、忙しいんですか?』
「あ、うん。うちって両親が単身赴任……じゃないけど揃って行っちゃってていないから、妹の分も含めて夕食作らないとなんだよ。今日は昨日のカレーの残りだったから楽だったけど」
『すごいです』
ミオンさんが驚いてるが、こういう家って結構あると思うけど。
いや、姉や妹じゃなくて、俺が夕飯作ってるのはおかしいか?
「ミオンさんとの配信を始める時はー、もう少し遅くスタートの方がいいですかねー」
「できれば、そうしてもらえると……」
って、ヤタ先生の衣装がさっきミオンさんに着せてたアイドル衣装だった。やっぱり自分の趣味なんじゃん。
そんなやりとりをしていると、テーブルの端にあったウィンドウに表示されていた「もうすぐ配信開始!」という表示がワイプアウトした。
『いえーい! 魔女ベルのIRO実況プレイ、はっじまっるっよー!』
「ベル部長、女優っすね……」
タイトルコールは画面中央で話していたが、早々に左下に収まってIROプレイが開始される。
この場所は王国? 帝国? その周りにはパーティー参加を狙う視聴者たちであふれている。
『まずは序盤クエの一つ、ゴブリン集落の掃討クエに行きます!』
その言葉にチャット欄が沸く。てか、俺が遭遇したアレに近いのか? 気になる……と、ミオンさんからのウィスパーが。
〈ショウ君の島のゴブリンの集落と似てるんでしょうか?〉
〈うん、俺もそれ気になった〉
〈この配信の後にプレイしますか?〉
〈いや、今日はなしで。この配信、一〇時前まで続くだろうし〉
〈わかりました〉
うん、ウィスパーボイスはゾクッとするので体に良くないです……



