03 火曜日 ⑤
『ショウ君、今日はどうしますか?』
「えーっと、木工の材料集めと、東側を海沿いにって感じかな。西側はもうちょっと落ち着いた時に行きたいし」
『そのテントはショウ君が作ったのよね? ちゃんと就寝ログアウトの効果はあるのかしら?』
「あー、ありますよ。横になって寝られりゃいいんじゃないですかね」
まあ、ログインしてれば自然回復があるから、別にテント作らなくても問題ないっちゃないんだけど。
『普通のプレイヤーはちゃんとお金を払って宿に泊まってログアウトしてますねー。ケチってる人もいるみたいですがー』
へえ……。街中なら別に宿に泊まる必要もなさそうなんだけど。
『帝国だと広場とか裏道で立ったままログアウトすると、NPCのスリに金を取られるらしいわよ』
「マジすか」
『怖いです』
ナットが帝国スタートだったっけ。
まあ、あいつはそういうところでケチるタイプじゃないから大丈夫か。
『IROは結構いろんな方法でプレイヤーからお金を取ろうとしてくるのよね……』
「インフレ対策ってやつかと」
『インフレ?』
とミオンさん。プレイする側じゃないとあんまり実感はないのかな。
「プレイヤーって遊んだ分、お金持ちになるし、ならないとつまんないでしょ?」
『うん』
「モンスター狩ったり、ポーション作ったりして
『うん』
「みんなレベルが上がってお金持ちになると、レアドロップ武器とか信じられない値段になったりするんだ。売る方も高く買って欲しいわけだし」
『なるほどです……』
で、レアドロ当てたくて狩りしてると、お金も
『レアドロはまだいい方じゃないかしら。自分が売る値段よりも安く売ってるポーション買い占めるなんてのもあるわよ』
『その買い占めたのを高い値段で売る?』
『ええ、そうよ』
「えげつないっすよね」
リアルでも転売ヤーが数量限定品を買い占めて、高い値段でオークションサイトに出すなんてのがあるし、MMORPGが経済の縮図なんて言われるのがよくわかる。
『つまり、さっきの話はNPCがプレイヤーのお金を回収してるということですか?』
「うん、すぐ金持ちにならないように、日々少しずつでも削る感じ? やりすぎるとゲームがつまんなくなるから難しいんだろうけど」
『王国だと安宿なら素泊まり一万アイリスだし、ゴブリン二、三匹倒して魔石を売るか、バイコビットの肉一つ分ね』
始めたばっかりの初心者でも十分やっていける安さってことかな。そこでつまずかれても困るもんな。
『ショウ君、お金は使わないですよね?』
「うん。っていうか、所持金は〇円、じゃなくて、〇アイリスだよ。無人島スタートすると、お金もらえないっぽい……おっと!」
「ピスピス!」
角を向けてジャンプ攻撃を仕掛けてきたバイコビットを避け、サクッとダガーで倒す。これで素泊まり一泊分か。
東側は初心者装備でも大丈夫ゾーンなんだろうけど、どうにかして武器と防具を揃えないとなんだよな。
『その分の装備が追加されてるとかはないんですかー?』
「あー、普通にスタートした時の初期装備とか所持品を知らないんで」
見せた方が早いだろうなと思って、装備メニューを開く。
この辺に置けば見やすいかな?
『私の時と変わらないと思うわ……』
「ベル部長はクローズドベータからやってるんでしたっけ。最初の所持金っていくらだったんです?」
『三万アイリスね。宿代や食費も含めて、しばらくは無収入でも暮らせる感じよ』
なんか、三万円損した気分になってきた。
「まあ、俺はその分、SPごっそりもらったんで……」
『ステータスとスキルを見せてもらえますかー?』
「りょっす」
NAME:ショウ LV2
HP:155 MP:155
STR:15 DEX:15 AGI:12
INT:14 VIT:14 LUK:10
元素魔法:1 短剣:1 解体:1
鑑定:1 投擲:1 木工:1
石工:1 気配感知:1 気配遮断:1
残りSP:31 残りBP:0
うーん、しょぼい。
一日目はキャラ作成に時間使ったし、二日目になってやっとキャラレベルが1上がっただけだもんなあ。
『SPが31も余ってるのね……』
「これからガンガン使うことになると思いますけどね」
っていうか、正直、31あっても足りるかどうか不安。
この無人島でキャラレベ上げるのってどうすりゃいいんだっていうね。
やっぱり、この前見つけたゴブリンをちまちまと倒していくしかないのかなあ……
『取る予定のスキルとかはあるんですかー?』
「うーん、釣りとか?」
『昨日、話してましたよね』
「そそ。針と糸を調達できればなあ」
適当に土を掘り返してミミズでも見つけて餌にすりゃいいし、親父やじいちゃんにいろいろ教わったことが役に立ちそう。
と、ちょうど島の東の断崖絶壁が見える場所に出た。
「おおー」
風光
『すごい綺麗な眺めです……』
『ホント、よくこんな島を見つけたわね』
『ですねー』
俺自身もホントよく見つけたなあと思う。
『最初から無人島スタートするつもりだったんですか?』
「うん。まあ、できたらいいなぐらいだったけど、スタート地点選択のマップがズームとスクロールできるってわかってから四時間……五時間弱は探してたよ」
なんかその答えに沈黙が流れる。ドン引きされてるっぽい。
まあ、あの時の俺はちょっと壊れてたとは思うけど。
『そこまでしてソロで遊びたかった理由を聞いてもいいかしら?』
「……ちょっと一人でのんびりしたかった的な?」
人とゲームするのも楽しいんだけど、どうも俺は一緒にいる相手が楽しむことを優先しちゃうらしい。
ナットはそれをよく知ってるから、結構気をつかってくれるんだけど、それがまた申し訳ないなってのもあったり……
『私が実況して迷惑じゃないですか?』
「いや全然。ソロを楽しむつもりだったけど、ミオンさんと話しながらゲームするの楽しいし」
『良かったです……』
人がゲームしてるのを後ろで見るのも楽しいけど、逆も結構楽しいもんだなと。
これが美姫や真白姉だったら、ああしろこうしろってうるさいんだろうけど……
『ギルティ』
『ギルティですねー』
「えっ?」
◇◇◇
「ふう……」
リアルビューに戻ってくると、みんなは既にVRHMDも外しているようで、俺も慌ててそれを外す。
「電脳部は基本的に午後五時四五分で部活終了だから覚えておいてね」
「その後に片付けをしてー、午後六時には退室しましょうねー」
なるほど、把握。
運動部なんかは午後七時近くまで部活やってるみたいだし、文化部でも吹奏楽部みたいなガチなところはそれくらいまでやってるらしい。
それに比べたら随分とホワイトな部活だ。良かった良かった。
軽く机の上の掃除をしたりしたところで、本日の部活は終わり。
全員が部室を出て、最後にヤタ先生が鍵を閉める。
文化部部室棟の廊下をヤタ先生とベル部長を先頭に進むと……二人とも目立つんだよなあ。美女の並びにチラチラと視線が飛んでいるのがわかる。
「今日は午後八時からベルさんの配信がありますのでー、今後の参考に二人ともバーチャル部室で見てくださいねー」
……帰宅してからが本番だった。
まあ、やるからには真面目に、魔女ベルの配信をお手本として見ておくべきだよな。
「普段はどれくらいやるんですか?」
「IROが始まるまでは週に二回、火曜と木曜の二〇時から一時間ほどだったわね」
「今は違う?」
「旬のゲームだから、今週はずっとやりたいところなんだけど……」
とヤタ先生がベル部長をニッコリと……
「週三回までが配信していい回数ですー。新入生のお二人も覚えておいてくださいねー」
「……りょ」
俺の返事と共に出雲さんもコクリと頷いた。
まあ、あんまり変な時間に部活すんなってことだろうな。
「今週はあと火、木の予定よ。さっき見てもらったのがオープン日の日曜ね。で、今日火曜と



