03 火曜日 ④

「私の衣装ってボディーラインが出やすいから、そんなの着せられませんよ……」


 あ、やっぱりそういうの意識した衣装なんだ。

 ベル部長はいろいろと凹凸が激しいもんな……


『じゃー、部費で出すのでー、私とベルさんで服を選んでいいですかー?』

『はい』


 その答えを聞いて、ベル部長もバーチャルビューに行ってしまう。二人はミオンさんをどうコーディネートするんだろ……

 一人ボーッとそんなことを考えていたら、配信に映っているミオンさんの服が誰が見ても「アイドルです!」というフリフリでファンシーな物に変わった。


『ショウ君的にはどうですかー?』

「……ヤタ先生の趣味全開なんですか、それ? そりゃわいいとは思いますけど」


 あとやっぱり髪はもう少し梳かした方が……


『じゃ、次は私の番ね』


 そう聞こえた次の瞬間に、ミオンさんの衣装はOLっぽい、いや、ニュースキャスターっぽい感じのスーツに変わる。うーん……


「これはこれでいいんですけど……」


 なんというか、ミオンさんのイメージに合わない。もっとこう……


『はっきりしないですねー。そういう優柔不断な態度は女性に嫌われますよー?』

『そうそう、もっと直球で「可愛い!」とか褒めないと』


 二人してボディーブローはやめてもらえますか? っていうか、俺そもそも女性の服を選んだことなんかないんすよ……(姉・妹はカウントしないとする)



『あの……ショウ君に選んでもらっていいですか?』


 あああああ! 勘弁してください!

 でも、断れる雰囲気でもないし……はあ……


「わかりました。そっち行きます」


 目を閉じて……しばらくして目を開けるとスタジオの隅の方に立っていた。

 それを見つけたミオンさんが手を振ってくれる。うう、プレッシャーが……


「えーっと、衣装棚はこれか……」


 すぐ近くにあった衣装棚を開くと、目の前に衣装一覧がずらーっと並ぶ。結構高いんだよな、アバター衣装。

 上下個別にコーディネイトとか高等な技は無理なので、セット衣装一択だろう。セット割引もあるし。

 つらつらと眺めながらスクロールする途中に、ベル部長やヤタ先生の選んだやつもあった。

 あの二人もセット衣装選んでたのかよ……


「うーん……」


 ひたすらスクロールを続けている俺に視線が集まっていてつらい。

 とはいえ、ミオンさんの晴れ舞台の衣装だし、安直に決めていいものやら。


「あっ、これどうかな」


 俺は一つの衣装を取り出して、ミオンさんに渡す。

 こういう時、試着だけなら無料なのはありがたい。


『うん。これにします』


 いや、まだ着てないよね? とりあえず着て欲しいんだけど?


「おー、いいですねー」

「へえ、やるわねえ」


 俺が渡したのは探検家っぽい衣装。

 カーキーのシャツに胸ポケットが二つあり、腰にはブラウンの太いベルト。

 下はハーフパンツだが、まあこれは配信では見えないか。


「あー、あれが足りないのか」


 衣装棚をもう一度あさって目的のものを見つけると、それをミオンさんに手渡した。


「これ、どうかな?」

『うん』


 赤いネッカチーフが首に巻かれると……うん、グッと魅力が増した。

 いかにも探検家って感じの服装が、少しくせっ毛なミオンさんにあってる感じ。


「なんか負けた気がするんですけどー……」

「そうですね……」


 うなだれる二人。


「無人島だし実況中継っていうことなら、こういう服だとちょうどいいかなって思っただけで」

『似合ってますか?』

「もちろん。他にもスポーティーな服とか合うと思うよ。テニスウェアっぽいのとか?」

『今度着てみます』


 そうにっこり言ってくれるのは嬉しいんだけど、せっかくの笑顔がぼさぼさの髪で隠れててもったいないんだよな。


「ごめん。ちょっと髪型いじらせて」

『は、はい……』


 ぼさぼさなのは天然でウェーブヘアなのかな? 前髪が目元まで隠しがちなのを左右にわけて……あれ? なんか猫みたいな可愛さが……


「こほん」


 ベル部長のわざとらしいせきばらいが聞こえ、慌てて手を動かす。

 全身スキャンでアバター作る技術はすごいと思うけど、寝ぐせっぽいところまで再現しなくてもいいと思うんだよな。

 まあ、普通はそういうの自分で直すんだろうけど……よし!


「こんなもんすかね?」

「いいですねー。すごくあかけた感じがしますしー」

「いいわねえ。私なんて何やってもストレートにしかならないから、ウェーブヘアでちょっと大人っぽい感じは憧れるわ」


 ミオンさんが手鏡を取り出してにこにこしてくれてるのはいいんだけど、ベル部長やヤタ先生の圧がやばい。

 とりあえず逃げた方が良さそうな気がしてきたし、俺はさっさとIROに行こう。


「じゃ、俺はIRO行ってきます。個人限定配信でミオンさんにすればいいです?」

「ええ、それで。ヤタ先生の方でスタジオのスクリーンにつないでくれるわ」

「りょっす」


 俺はそう言い残して離脱!

 スタジオを抜けてIROへとインする。

 そういや、昨日は簡易テントで就寝ログアウトしたけど、どうなってることやら……


◇◇◇



「ん……、大丈夫だったか。よしよし」


 目を開けると簡易テントの天井が見えた。天井っていうかただの葉っぱだけど。

 さて、配信の設定を開いて、まずは【配信開始:自動】を手動に変更。次に【個人限定:ミオン】にセットして配信開始っと……


「今日もIROはいい天気だなあ」


 外に出ると青い空と綺麗な海が広がっていて、改めてフルダイブのすごさを実感する。


【ミオンが視聴を開始しました】



『こんにちは』

「はい、ミオンさん、こんにちは」

『スタジオのスクリーンとの接続はしましたよー。あとはお好きにー』


 グループ通話でヤタ先生の声が聞こえる。

 なるほど、この通話なら配信に乗らないから、指示出しできるってことか。了解の代わりに頷いておく。

 ただ、服選びに手間取っちゃったから、これから時間かかる探索とかは無理だよな……


『今、部室限定にしてるのを全体公開にすると、公開ライブになっちゃうから注意してね』

『はい』


 えーっと、つまり今は、


[ショウ]─(個人限)─[ミオン]─(部室限定)─[ヤタ先生・ベル部長]


 ってなってるけど、将来的には、


[ショウ]─(個人限)─[ミオン]─(全体公開)─[一般視聴者]


 こういう風になる予定と。


「ライブのコメントはスタジオの方に届くんですよね? 大丈夫です?」


 ミオンさんが変な絡まれ方されたりしないといいんだけど。

 まあ、ヤタ先生とベル部長でミオンさんのフォローしてくれるかな。


『チャンネルを立ち上げたばかりのうちはー、ライブよりも編集した動画を投稿する方がいいですよー。まずは収益化のための条件をクリアしないとですからー』

「なるほど。でも、IROの動画なんて腐るほどあると思うんですけど……」

『ショウ君の無人島スタートに解説をつけた動画を投稿すれば、見てくれる人はかなりいると思います』

『そうね。いまだに無人島発見のワールドアナウンスは謎のままだし、その情報をまとめるだけでも十分価値はあると思うわ』


 うーん、そんなに価値があるものかな? 普通のゲームプレイに全く役に立たない気がするんだけど。あれ?


「その場合って誰が動画編集するんです?」

『もちろん二人でですよー。そういう部ですからー』

「そうでした……」


 電脳部だもんな。けど、俺自身、動画の編集なんてやったことないし、教わりつつかなと思ってたら、


『大丈夫ですよ。任せてください』


 ミオンさんの自信たっぷりの声。普段の気弱そうな感じとは違って頼もしい。

 この部に入るぐらいだし、ゲームは見て楽しむ方だって言ってたから、動画編集とかも興味あって触ったことあるのかな。


『二人で話し合って決めてくださいー。動画編集で困ったことがあったらー、私かベルさんに聞いてくださいねー。焦る必要はないですよー』

「りょっす」

『はい』


 そうだよな。部活もIROもまだ始まったばかりだし、慌てる必要もないか。


『じゃ、ライブしてるつもりで始めてみましょ。スタジオからの問いかけには、できるだけ答えるように』


 なるほど。

刊行シリーズ

もふもふと楽しむ無人島のんびり開拓ライフ6 ~VRMMOでぼっちを満喫するはずが、全プレイヤーに注目されているみたいです~の書影
もふもふと楽しむ無人島のんびり開拓ライフ5 ~VRMMOでぼっちを満喫するはずが、全プレイヤーに注目されているみたいです~の書影
もふもふと楽しむ無人島のんびり開拓ライフ4 ~VRMMOでぼっちを満喫するはずが、全プレイヤーに注目されているみたいです~の書影
もふもふと楽しむ無人島のんびり開拓ライフ3 ~VRMMOでぼっちを満喫するはずが、全プレイヤーに注目されているみたいです~の書影
もふもふと楽しむ無人島のんびり開拓ライフ2 ~VRMMOでぼっちを満喫するはずが、全プレイヤーに注目されているみたいです~の書影
もふもふと楽しむ無人島のんびり開拓ライフ ~VRMMOでぼっちを満喫するはずが、全プレイヤーに注目されているみたいです~の書影