04 水曜日 ②
ダメ出しもらいました。
なんかベル部長が笑ってる気がする……
『こんにちは』
「ようこそ、ミオン」
『今日はIRO初の無人島プレイヤーを紹介したいと思います。よろしくお願いします』
「よろしく」
何かした方がいいかなとカメラの方に手を振ってみる。
『いいですね。あとは普通にプレイしててください。たまに話しかけるので、無理のない範囲で答えてくれれば』
「りょ。とりあえず前に見たゴブリンの様子でも見てくるよ」
『はい、いってらっしゃい』
尺的にも最初の動画はスタートした砂浜から東側の紹介動画とかが良さそうかな。
俺は自由にIROして、合間合間にミオンから質問があれば答え、それを編集でうまく繫いで動画にするって感じなんだろう。
好きにプレイするだけだから楽でいいけど、編集作業が結構大変そうだよなー、とか考えながら、前回と同じ東側の探索を始めた。
◇◇◇
『ショウ君、そろそろ時間です』
「りょ。上がるよ」
急いでテントまで戻って就寝ログアウト。
目を閉じてシステムからの通知音を確認し、目を開けると当然そこは部室だった。
「二人ともお疲れ様。一応、五時四〇分には通知が飛ぶようになってるから、ピリピリする必要はないわよ」
そういうことは先に言っておいて欲しかった。
IROはシステム画面を開かないとリアル時間がわからないから、ミオンが時間って言った時はもう四五分になってたかと思ったよ。
『お疲れ様でした』
「お疲れ。とりあえず素材は撮れたと思うけど、俺はどうすればいいの?」
『私が編集するので、ショウ君はそれを確認してくれればいいですよ』
「え? 俺、手伝わなくて平気?」
『大丈夫です。九時ぐらいに部室に持っていくので見てください』
「じゃあ、そのくらいにバーチャル部室の方に行くよ」
ミオンが自分でやりたいって言うなら任せちゃうかな。さっきの感じもあるし。
正直、俺には動画編集の才能なんてないし、彼女のチャンネルで配信することになるなら、彼女が好きなようにするべきだろう。
「先生にも見てもらった方がいいと思うし、私から連絡しておくわね」
「ああ、そうですね。お願いします」
『お願いします』
同時に「午後五時四〇分になりました。ログアウトしましょう」という通知が目の前に流れる。
昨日はこんな通知来たっけ? いや、その前にVRHMD外してたのか。ともかくVRHMDを外して帰宅準備。
今から帰って六時半ぐらい。夕飯とかいろいろあると最速でも八時にはなっちゃうか。
食材は美姫が買ってきてるとして、晩飯、何作れって言われるんだろ……
◇◇◇
チャーハンっていう即席夕飯も食って宿題も終えて、八時ぎりぎりにバーチャル部室にイン。
そこに待っていたのはミオンとベル部長だけでなくヤタ先生も。
「遅くなりました」
『ショウ君』
「体育系の部活じゃないし、五分、一〇分の遅刻ぐらいなら気にしなくていいわよ」
「ですよー」
そう言ってくれるのはありがたいけど、部活終わりとかライブ終わりの時間に結構厳しかった気が……
「じゃ、みんなでミオンさんが編集してくれた動画を見ましょうか」
「りょっす」
ミオンから受け取った動画をパチンと指を鳴らして再生開始するベル部長。
『IROの奇跡を見た!! 人跡未踏の孤島に唯一降り立ったプレイヤーを発見した!!』
……タイトルがすごく何かを意識したような感じなのはわざと? いやまあ、実際タイトル通りなんだけどさ。
で、登場するミオン。探検家スタイルが似合ってて可愛い。これ、俺がいなくても人気出る気がするんだけど。
『初めまして。私はゲームミステリーハンターのミオンです。よろしくお願いします』
ペコリとお辞儀するミオン。うんうん、礼儀にうるさい人って意外と多いし重要だよな。
『今回は私が偶然発見した、IROソロプレイヤーの生態に迫りたいと思います。動画が面白かった方、続きを見たい方は是非、チャンネル登録をお願いします』
うんうん、テンプレテンプレ。
そこから後はアーカイブ済みのプレイ動画をうまく編集して繫げ、無人島の海岸から東側を要所要所に解説していく。
サウスネーク、バイコビットを倒して解体し、その肉を焼いて食ったり、見つけたゴブリンに気取られないように追跡し、集落を見つけたあたりまで。
途中で俺とミオンのやりとりなんかも挟みつつ、いい感じにまとまってて、帰宅してからの短時間で作ったとは思えないできばえ……
『今回の動画は以上になります。ご意見ご要望はコメントにてお伝えください。それではまた次回の動画でお会いしましょう!』
ニッコリ笑顔で手を振るミオン。
やべえ、クオリティー高すぎじゃない、これ!?
「いいわね! これは再生数跳ねると思うわ!」
『ショウ君はどうですか?』
「すごく良かったと思う。盛りだくさんで飽きるタイミングもないし、最後までずっと面白く見られた」
『良かったぁ』
そのふにゃっとした笑顔、可愛くてドキッとするので勘弁して欲しい。
「ヤタ先生はどうです?」
「うーんー、素晴らしいできなんですけどー、素晴らしすぎて問題がありますねー」
顎に指をあてて小首を
と、仕草はスルーして、ミオンから疑問が投げられる。
『先生、どのあたりが問題ですか?』
「まずー、初めての動画にしては尺が長い気がしますねー。一五分ほどをしっかりレポートできるミオンさんはすごいんですがー、どう見てもプロっぽいですねー」
「な、なるほど……」
そう言われてみると、進行も編集もクオリティーが高すぎて『新人バーチャルアイドル』とは思えない。
勘のいい視聴者なら「これ仕込みか?」って思いかねないし、そうなると勘ぐりだけが先走って良くない気がする。
それに、ヤタ先生にはまだ続きがあるようだ。
「動画内に今までの情報を目一杯詰め込んでますがー、それだと次から大変ですよー。ショウ君のゲームプレイに進展がないと動画が出せないー、ってなっちゃいますしー」
「うっ……、それはキツいっすね。正直、手探りすぎてゲームが進むかどうかも怪しいし」
現状、動画の最後に見つけたゴブリン集落をどうするかって段階で止まってるし。
『ショウ君、無理は良くないです。先生、どうしたらいいですか?』
「もっとゆるーくー、ショウ君の無人島スローライフのペースと同じくらいでどうでしょー?」
ヤタ先生曰く、今回の動画は最初に無人島に降り立ったところから、ミオンに出会って落ちるまでぐらいでいいんじゃないかとのこと。
特に初日のアーカイブにはきっちりと特殊褒賞SPを獲得しているところが映っているので、それだけで動画の価値があるだろうと。
「確かに詰め込みすぎると、次回も同じぐらい内容がないと不満に思われがちね……」
さすが経験者というかベル部長も思い当たる節があるのか頷いている。一方のミオンはちょっと不満そうかな?
まあ、これだけ完璧に作ってきたのに、完璧すぎてダメって言われたら
「攻略動画だと思って見に来る人たちはー、新しい情報がないと早々に離れていきますからねー」
確かにそれだと継続して見てくれる人のために必死にならないとって感じでつらいな。スローライフどころじゃなくなる。
「ミオンさんがショウ君のスローライフを見守ってるって感じの方がいいのかしら?」
「そうですねー。動物園とかで飼っている動物の日常が可愛いーって感じのがあるじゃないですかー。そういう方向性でどうでしょー?」
なんか
『ショウ君はそれでいいですか?』
「俺がミオンとだべりながらプレイしてるだけってことですよね? それでいいなら……」
そういう解釈にさせてください。さすがにペット動画扱いはキツいっす。
「無人島スタートはかなり特殊でひがみとかも来そうだし、つらいところも映しておいた方がいいでしょうね」
あー、確かにナットも来たがってたし、おいしいところばっかり出すとやっかみがキツくて運営側に迷惑になる可能性もあるか。それがミオンに行くのはまずい。
「りょっす。泥くさいところも含めて無人島サバイバル日記的な方向で」
『ショウ君、ありがとう』
ま、実際、キツいゲームプレイなのを見てもらう方が、変な憧れとか妬みとかもなくていいよな。俺としては普通に遊ぶだけだし。
結局、その後、ミオンとヤタ先生がすごい編集能力を発揮して、一時間ほどで初回動画リテイク版が完成した。
『じゃ、アップします』
「宣伝はどうしましょう。私のチャンネルから誘導……はまた仕込みと思われるわね」
「そうですねー。動画のタグをIROにするぐらいでいいでしょうー。そのあたりも視聴者さんの反応を見ながらでー」
まあ、じわじわと再生数が増えて、チャンネル登録者数も増えて、慣れたところでライブってことになればいいよな。
そう考えてた時期が俺にもありました……



